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「太平洋の奇跡 -フォックスと呼ばれた男」

2011年02月25日 | 映画
1944年6月。
陸軍歩兵第18連隊の大場栄大尉(竹野内豊)は、日本から2000キロ余り離れた北マリアナ諸島サイパン島へと着任する。
当時日本の統治下にあったこの島は、軍司拠点として重要な位置を占めており、島を死守することが大場たち日本陸軍43師団守備隊に課せられた使命だった。
しかしその時点で既に日本の劣勢は明らかで、サイパン島においてもアメリカ軍の凄まじい物量にものを言わせた兵力に、日本軍は上陸を許してしまう。

サイパン守備隊幹部は玉砕命令を発して自決。
アメリカ軍に捕まればどんな仕打ちを受けるか分からないと信じ、捕虜になることを極度に恐れた民間人が、次々と断崖絶壁から海へと飛び降り自殺する悲惨な事態へと発展した。
玉砕命令を受けて大場隊もアメリカ軍に突撃し、兵士たちは次々と戦死していく。
大場も玉砕を覚悟して臨んだものの死を逃れ、アメリカ兵に囲まれる中で思わず死体の間にうずくまって隠れていたところを、軍を離れて数人の仲間と共に戦っていたヤクザ者の一等兵・堀内(唐沢寿明)に発見される。
アメリカ軍への抵抗を続けるために堀内たちと合流した大場は、両親を殺され、誰もいなくなった家の中で放り出されていた赤ん坊を救い、“生きる”ということを強く実感するのだった。
もとは地理の教師であった大場の人柄を慕い、上官を失った兵士や民間人たちが次々と彼のもとに集まってきた。
転々と拠点を移していった大場たちは、深いジャングルに包まれた、サイパン島中部にそびえる最高峰タッポーチョ山に潜み、アメリカ軍への抵抗を続けた。

一方、サイパン島占領宣言を行ったアメリカ軍において、日本への留学経験のあるハーマン・ルイス(ショーン・マクゴーウァン)は、日本軍を圧倒的な兵力によって簡単に一掃できるとする上官の考えに、一抹の不安を感じていた。
彼の不安は的中し、粘り強く戦い続けるたった一つの部隊に、圧倒的な兵力を誇るアメリカ軍は翻弄され続けることになる。
やがて、ジャングルに潜み、巧みなゲリラ戦術を駆使して神出鬼没の戦いをみせる部隊を統率する大場に対して、畏敬の念を込めて“フォックス”と呼ぶようになっていった。
ルイスは、そんな大場隊の抵抗をいかにして止めさせ、彼らを投降させるかに腐心する…


太平洋戦争末期。
玉砕の島と呼ばれるサイパンに、アメリカ軍から“フォックス”と畏れられた大場栄大尉。
彼は仲間の兵士たちと共に、たったの47人で、512日間に渡って45,000人ものアメリカ軍に立ち向かい、翻弄し続け、最後まで200人の民間人を守り抜いた。
決して敵には屈しない彼の誇り高い魂が、味方の日本人だけでなく、敵側であるアメリカ兵の心をも大きく動かしていった。
そんな史実があることを、本作で初めて知った。
なぜこれまで、ほとんど取り上げられることが無かったのだろう。

原作の作者は、その“フォックス”大場隊と実際に戦った経験のある、サイパン上陸軍の元兵士。
「敵ながら天晴れ」なその事実を日本人が知らないことに衝撃を受け、誇り高い日本人がいたことを後世に伝えるべく、本を上梓したという。
本来は敵兵であるものの、あたかも戦友の栄誉を書き起こすかのような気分になったのかもしれない…とは言いすぎだろうか。
少なくとも作者自身も、大場大尉の卓越した統率力と誇り高い生き様、最後まで日本軍の一軍人としての矜持を崩さない姿勢に心を打たれたに違いない。

大場大尉の事績が表舞台に立ち、多くの日本人の目に触れる機会がもたらされたことを喜びたい。
ラストシーンにおける大場隊の潔く、毅然とした姿に、思わず胸が熱くなる。

かつてのような勢いを失い、自分自身に対する信頼も揺らいでいるかのように見える昨今の日本に、自信と誇りを思い起こさせてくれる佳作。
しかし、彼のように優秀な多くの人材が、ほとんど無駄に戦場で散っていったという事実を胸に刻み、改めて戦争の愚かさを噛み締めなければいけない。


「太平洋の奇跡 -フォックスと呼ばれた男」
2011年/日本  監督:平山秀幸
出演:竹野内豊、ショーン・マクゴーウァン、井上真央、山田孝之、中嶋朋子、岡田義徳、板尾創路、光石研、柄本時生、近藤芳正、酒井敏也、ベンガル、阿部サダヲ、唐沢寿明