面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「ゲキ×シネ『蛮幽鬼』」

2010年11月24日 | 映画
遠い昔のこと。
海に浮かぶ小さな島国・鳳来は、次代を担うエリートとして4人の留学生を大陸へ送っていた。
中でも、大陸の博士も一目置くほど優秀な成績を修めた伊達土門(だてのどもん・上川隆也)に対して、同じ留学生の音津空麿(おとつのからまろ・粟根まこと)、稀浮名(きのうきな・山内圭哉)は激しい妬みを抱き、仲間で土門の親友だった留学生を殺した犯人として濡れ衣を着せる。

無実の罪で監獄島に幽閉された土門は、祖国・鳳来に帰ることができないまま、10年の歳月が流れた。
気がふれた凶暴な囚人のフリをしながら、こつこつと島を脱出するための穴を掘り続け、ある日ついに、島の奥深くに捕らえられていた男の声に導かれて、地下道へ抜け出すことに成功する。
その声の主・サジ(堺雅人)と共に祖国へとやってきた土門は、復讐を果たすべく仲間を集めて行動に移す。
しかし、かつて将来を誓い合った恋人・美古都(稲森いずみ)が、その前に立ちはだかる…


最新のデジタル技術により、「劇団☆新感線」の話題の舞台を映画館で楽しむことができる「ゲキ×シネ」プロジェクト8作目は、2009年夏に東京・大阪で上演され、連日超満員、毎公演スタンディングオベーションが巻き起こり伝説となった舞台「蛮幽鬼」。
実は新感線の舞台を観に行ったことがなかった自分にとって、これが初めての新感線の舞台だった。

学生時代に「小劇場ブーム」なるものがあった。
関西の各大学で結成されていた個性的な様々な劇団が人気を呼んだのである。
その頃は、“地元”でもありクラブの先輩もいた劇団「そとばこまち」を中心に、「MOP」や「南河内万歳一座」の舞台は観に行ったが、新感線は観に行ったことはなかった。
奇抜でハデな舞台演出に、“ここの芝居は何か違う”と意味も無く斜に構えて偏見を持ち、観に行かなかったのである。
(振り返れば実にケツの穴の狭い、つまらない話である)

そして今回初めて目にした「劇団☆新感線」の舞台。
面白い!とにかく面白い!
脚本がよくできていてストーリー自体が面白く、最後まで観客を飽きさせない。
名だたる役者陣を取り揃えてそれだけでも十分見応えがあるというものだが、迫力ある舞台装置や劇的な演出が更に鮮やかな彩を付け加えていて、ぐいぐい引き込まれていく。

舞台とはまた違う迫力と興奮、そして新たな感動が味わえるという「ゲキ×シネ」であるが、その言葉にウソはない。
「演劇はやっぱり生を舞台で」という思いが強かったので、これまで「ゲキ×シネ」には少々否定的な感情を持っていたが、これもまた浅はかな偏見に過ぎなかった。
細かい役者の表情や動きがよく分かり、映像ならではの楽しみが味わえる。
そういった細かい表情を劇場でナマで見ようとすれば、舞台かぶりつきの座席に座らなければいけないが、そうなると大掛かりな舞台になるほど全体を俯瞰することができない。
しかし「ゲキ×シネ」では、舞台全体の動きをとらえながら個々の役者の細かい表情や動きを追うことができるので、公演における観客席よりも、芝居を存分に楽しめるのである。
演劇の新しい楽しみ方として、「ゲキ×シネ」は非常に有効なツールであることを改めて認識した。
特に新感線のように、大掛かりな舞台装置で縦横無尽に役者が駆け回る“ド派手”な芝居にはピッタリだ。

とは言うものの、やはり一度はナマの舞台を体験したい「蛮幽鬼」。
しかしそんな無いものねだりを言ってる間があったら、この「ゲキ×シネ」で興奮を体感すべし!


ゲキ×シネ『蛮幽鬼』
2010年/日本
演出:いのうえひでのり
出演:上川隆也、稲森いずみ、早乙女太一、橋本じゅん、高田聖子、粟根まこと、山内圭哉、山本亨、千葉哲也、堺雅人