面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「レポゼッション・メン」

2010年07月17日 | 映画
20年後の世界。
医療技術の進歩によって様々な人工臓器が開発され、人類はかつてない長寿を獲得し、若さや美貌、能力向上などの恩恵を受けていた。
人工臓器のトップメーカーであるユニオン社は、心臓、腎臓、肝臓はもちろん、眼球や鼓膜、関節などの骨格に至るまで、およそ人間の身体の中で代替できない部分は無いのではと思われるほど、様々な商品をとりそろえていた。
今日もユニオン社のCMが流れている。

「最新型の人工肝臓!」
「お値段たったの6,800万円♪」

庶民には、おいそれと購入できる金額ではない。
そこで、誰でも手軽に人工臓器が手に入れられるよう、ローンが用意されている。
これによって、ある人は命を長らえ、またある人は美容を保つことができるのだった。

しかし、いかんせんローンは高額なため、返済が滞る人も続出。
滞納者の元に届けられる督促状が「最終通告」の赤い紙になったとき、ユニオン社の「レポゼッション・メン」という回収担当者の出番となる。
レポ・メンと称される彼らは、合法的かつ強制的に人工臓器を回収していき、その実績に応じて高額の報酬を得ていた。

レポ・メンの中でもトップの回収率を誇るレミー(ジュード・ロウ)は、妻からその仕事を嫌悪されていた。
営業担当への職務変更を申請するように妻から言われるレミーだったが、レポ・メンの仕事で得られる高揚感・充実感から抜け出せずにいた。
そんなレミーの態度に愛想を尽かせた妻は、とうとう別居に踏み切る。
愛する息子と引き離されることになったレミーは、営業担当への配置転換を申請することを決意。

仕事の相棒で昔からの親友であるジェイク(フォレスト・ウィテカー)は、レミーの転属に猛反対し、レポ・メンの職務に引きとめようとする。
しかしレミーの決意は固く、ジェイクの声を背にしながら、レポ・メン最後の仕事に向かうのだった。
対象者の人工心臓を停止させるための電気ショック装置をセットし、電流を流したその瞬間、なんと装置がショートしてしまい、レミーはショックで気を失ってしまう。

ベッドで目覚めたレミーは、眠っている間にあろうことかユニオン社の最高額商品である人工心臓を埋め込まれていた。
ジェイクによれば、レミーの心臓は停止し、延命のためには人工心臓を入れるしかなかったという。
多額の借金を背負うことになり、高収入を得るために再びレポ・メンとして任務につくが、なぜか以前のような回収作業ができなくなってしまった。
対象者から臓器を取り出そうとしても手が動かず、仕事が勤まらないレミーは報酬が得られない。
人工心臓のローン支払が滞りはじめ、ついに“最終通告”が届く。
「回収する側」から「回収される側」へと立場が逆転し、レポ・メンに追われる中でレミーは、謎の女性債務者・ベス(アリシー・ブラガ)と出会い、互いに惹かれあった。
そして自分達の債務記録を消去するため、ユニオン社へと向かう二人だったが…


人々に長寿をもたらし、若さを保つことができる夢のようなアイテムである人工臓器は、その実、命を縮める原因になりかねない、「極めて鋭利な諸刃の剣」だった。
起こりうる近未来の悪夢に妙なリアリティがあるのは、全米を代表する若きベストセラー作家である原作者エリック・ガルシアが、全面的に脚本に携わった、ということだけが理由ではないだろう。
人工臓器を得られてもローンの支払が滞り、命を落とす債務者達の姿に、「サブプライムローン」の破綻による悲劇がオーバーラップするからではないだろうか。

「幸せのための返済プランをご用意します」と微笑むレミーのボス・フランク(リーヴ・シュライバー)は、低所得者に対していとも簡単に住宅が手に入るかのように、言葉巧みにローンを勧める営業マンそのもの。
自身がフランクのような立場の人間でない限り、債務者として闘うレミーを応援したくなるのは人情というものであろう。
そしてその思いを抱く観客は、過半数どころか大勢を占めるに違いない。
ところが、そんな“一般客”のレミーに対する声援に対して、凄まじいトラップが仕掛けられている。
最後までスクリーンから目が離せない…

様々なアイロニーに富んだ、近未来サスペンスの佳作。
最後まで、しっかりと見届けていただきますよう。


レポゼッション・メン
2010年/アメリカ・カナダ  監督:ミゲル・サポチニク
原作:エリック・ガルシア
出演:ジュード・ロウ、フォレスト・ウィテカー、リーヴ・シュライバー、アリシー・ブラガ