面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「ポチの告白」

2009年04月20日 | 映画
警察官を指して「国家権力の犬」などと言うことがあるが、本作はそんな“犬”=ポチの知られざる(「公にされていないだけ」と言うべきか)日常を描く。

「踊る大捜査線」は警察の“日常”を面白おかしく描いたが、本作は警察の“実態”を3時間余りに渡って淡々と描く。
公務員としての警察官達の日常と、不条理で人間味に薄い官僚組織の制度的な歪みを描いて、警察に対する新しいアプローチが新鮮で大衆に受けた「躍る大捜査線」。
一方、警察の“笑える日常”だけでなく、警察の不祥事における様々な事例を描く「ポチの告白」。
所々ギャグとして笑えるが、全編を通して基本的には笑えない。

道を尋ねてきた若い女性に対して暇潰しに職務質問をかける巡査。
電話帳を使った「捜査協力費」の捏造。
幹部の出世のために警察によって演出される拳銃取引現場。
暴力団の麻薬取引に際して“用心棒”として雇われる刑事…

特権階級としてのさばる幹部連中と、彼らに盲従する部下。
やはりこの組織構造が、ノンキャリアの警察官達の横暴を生んでいるのではないだろうか。
“権力”をフルに活用して市民をいたぶり、街のチンピラから“みかじめ料”の如く金を巻き上げる様は、ヤクザと何ら変わらない。
いや、国家権力を傘にきて、「国民の安全を命をかけて守っているのだから」という大義名分を謳いながら悪事を重ねる彼らは、ヤクザより性質が悪い。
しかし、出世における“頭打ち”と引き換えに甘い汁を吸い、有事には命を落とす危険性と背中合わせの日々を刹那的に生きる姿は、哀れを誘うものではあるが…

本作に描かれる様々な事例を信じるか否かは観客の判断に任されるが、あまりにも「ありふれた風景」として描かれていて、「警察て、フツウにこんなモンなんやろな」と思えてくる。
また、本来警察の“ポチ”たるマスコミの様子も描かれていて、ただ警察組織を批判するだけの映画ではない(刑事達の会話で記者達を「ポチ」と呼んでるし)。
そういえば最近、警察の不祥事は週刊誌でしか目にしないように感じるのは気のせいだろうか?と思ったが、本作に描かれる記者クラブのあり様をみていると、さもありなんである。

不祥事の全責任を負わされて、主人公の“ポチ”が告白するラストシーン。
本作を観た警察官諸氏は、彼を代弁者として共感するのではないだろうか。
黒澤明監督が「生きる」の中で地方公務員の実情を登場人物達に吐露させたが、同様の手法で警察の現実をさらけだす。
なお、野村宏伸演じる刑事の存在が物語に更なる深みを与え、また違った余韻を残す。
“黒い『踊る大捜査線』”とでも言うべき問題作。


ポチの告白
2006年/日本  監督・脚本・編集:高橋玄
出演:菅田俊、野村宏伸、川本淳市、井上晴美、井田國彦、出光元