日々のあれこれ

現在は仕事に関わること以外の日々の「あれこれ」を綴っております♪
ここ数年は 主に楽器演奏🎹🎻🎸と読書📚

塩野七生:著『コンスタンティノープルの陥落』

2017-01-24 20:59:05 | 読書

 トルコ帝国で然程期待もされずスルタンとなったマホメッド2世は、先に読んだ『ローマ亡き後の地中海世界』を通じてある程度、どのような人なのか頭の中でイメージしていた。ローマ帝国の皇帝に憧れ、かの有名なアレクサンドロス大王と同じ栄光を夢見るスルタン・マホメッドに対して、ヴェネツィア人など当時の人々は、「領土に関しては現状維持で、守ることに費やすだろう。父を超えることはない」というようなことを読んだ。ローマ皇帝に憧れたにしては、野心的にただ領土拡大を目論び、獲得後は放置状態で荒れ果てた地としてしまう点など違いすぎる気もするが…。そんなマホメッドが東ローマ帝国の首都として千年以上栄えたコンスタンティノープルを地図上から消し去り、オスマン・トルコ帝国の首都としてしまう… 現在もトルコの都市であるイスタンブール。

 ただ、私が最初にこの都市名を知ったのは、多分、小学生の頃「飛んでイスタンブール」という日本の歌謡曲だったっけ。エキゾチックな曲で、トルコぷんぷんな感じ? 自分が生まれた時からイスタンブールは中東で、西洋文化との交差点のようなイメージだった。ずっとイスタンブールはイスタンブールのような気さえしていたが、かつてはローマ帝国であり、古代ローマ帝国のコンスタンティノープル皇帝がキリスト教国家と定め、その都市名もコンスタンティノープルと命名して以来、キリスト教国家の首都として君臨してきた。運命的にも最後の皇帝は創立者と同じコンスタンティノープル皇帝。白馬に乗って、「我に続くものはいないのか?」という台詞を残し、そのまま帰らぬ皇帝となったという。当時はビサンチン帝国の首都であったコンスタンティノープルで暮らすギリシャ系住民のみならず、古代ローマを起源にもつイタリア半島や、ガリア(フランス)、ゲルマン系の人々にとっても、都市陥落という物理的事件もさることながら、心のよりどころというか、起源としての祖国を失った心情的ショックも大きかったことだろう。

 

 前評判を覆し、「ただ野心的なだけでなく、支配することに特別の野望を感じており、地理と軍事技術に最も強い関心を示す」(1983年 新潮社文庫 塩野七生:著『コンスタンティノープルの陥落』273ページ8行目) 

 これを機に、闘戦の仕方も変化している。騎士の時代から、大砲の時代へとシフトされた。日本でいえば、『大河ドラマ真田丸』で見た映像が思い出される。大阪城にイギリス製の大砲が一発飛んでいき、天守閣の一部が崩れ落ちた。コンスタンティノープルを囲んでいた要塞にも同じようなことが起こる。不落の城といわれた大阪城も大砲の威力には敵わなかったというよりは、一発の砲弾が人々の心を動揺させたように、「当時では最強の城壁とされていたコンスタンティノープルの三重の城壁を破壊したということだけが、ヨーロッパのすみずみまで伝わったのであった」(274ページ7行目)

 

 ヴェネツィア共和国も他の西洋各国も新兵器の開発に乗り出す。(もちろん、西洋にはすでに大砲はあった。特にヴェネツィアは船に設置していた)ただ、この兵器の威力に注目し活用したのは塩野さんによると、マホメット二世が最初であったらしい。騎士が最も活躍した時代から、大砲によるアマチュア軍団に備えるべく、以後、ヨーロッパ諸国の城塞も大砲の威力をやわらげるものに変化していく。ちょうど真田丸を最後に甲冑をつけた武士が活躍した時代が終わりを迎えたように…。中世から近世へと移行していく地中海世界の歴史に触れながら、何故か先月、終わったばかりの『真田丸』の最後のシーンと重ねてしまうのだった…。

 

 

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塩野七生:著 『レパントの海戦』

2017-01-24 00:44:03 | 読書

 『海の都の物語全6巻』、或は『ローマ亡き後の地中海世界 全4巻』と同じ著者、塩野さんによって描かれる同時代3部作のラストを飾るのがこの著書、『レパントの海戦』 古代ローマ亡き後も、東ローマ帝国、その後はビサンチン帝国と呼ばれ、キリスト教国家になったのちもヨーロッパに君臨してきた都、コンスタンティノープル。イスラム帝国としてヨーロッパに勢力地を拡大してきたトルコ帝国によって、コンスタンティノープルがヨーロッパから姿を消すという歴史的大事件が起きてから、118年後。ヴェネツィア共和国、ローマ法王、スペインの連合艦隊がトルコ帝国に初めて勝利した戦いが、レパントの海戦だった。

 キリスト教圏にありながら、他宗教の信仰も認め、寛容な経済国家であり海洋国家として、トルコとも後進国である当時のスペインやフランスとも外交で渡り合い、国家の存亡の危機を乗り越えようとしたが、遂に滅びてしまったヴェネツィア共和国の歴史を先に読んでいるからなのか… 日本と共通点が多いからか… 『レパントの海戦』の場合、主眼をヴェネツィアに置いて書かれたというよりは、これまでのヨーロッパ側のみならず、イスラム圏であるトルコ帝国側、そして十字軍として関わったそれぞれの国の諸事情も踏まえ、描かれているのだけれど、どうしてもヴェネツィア共和国に肩入れしてしまう。…とはいえ、そもそも戦力を提供し、連合艦隊として参戦することに乗り気でないスペイン王からみて、厄介者であるからこそ参戦させた異母兄弟ドン・ホアンも魅力的に描かれている。ドン・ホアンの背後にいるスペイン王の最初の意図に反し、次第に連合艦隊をまとめる総監督として変化していく彼の心情も興味深い。なにせ、彼の心の変化こそがレパントの海戦に遂には踏み切らせ、キリスト教国家側に勝利を引き寄せたのだから。

戦術に対する各々の言い分や言い争い、中でもドン・ホアンが最もぶつかった相手がヴェネツィア人、ヴェ二エルだったが、ガレー船上で敵の返り血を浴びながら戦った彼らは、戦いの末に強い友情でお互いをたたえ合う。国土(イスラムの家)を拡大することを信じて疑わない当時のトルコ帝国に対し、国家の存亡をかけて参戦するしかなかったヴェネツィア共和国の諸事情は、この時だけは忘れ去られ、「イエスの名のもとに」戦った者同士、この時は精神的な海戦であり、力を合わせて勝利した高揚感が伝わってくる。度々ドン・ホアンとヴェ二エルの間に割って入り、うまくまとめてくれた同じくヴェネツィア人バルバリーゴだけが艦長クラスの犠牲者となった。この『レパントの海戦』の書を通して、トルコ側もスペイン側も法王側もそれぞれが主役として読めるものの、やはり全編を通して心に残るのは、バルバリーゴだった。あとに残された彼が愛した婦人とその子、男子の、ある日の風景も心に沁みる。レパントの海戦に勝利したことで、ヴェネツィア共和国はその後、70年間の平和を享受し、子供から少年に成長した息子と母にとっての父、バルバリーゴが望んだように、きっと平和な生涯を少年も母も送ったに違いない。あくまで想像でしかないのだけれど、更にその後、現実として訪れるヴェネツィア共和国の滅亡も、本を閉じるとひとときの間、忘れられたのだった。

 

哀しいことに、『レパントの海戦』におけるキリスト教国家の勝利は、トルコ帝国の衰退のみならず、大国として名を馳せた海洋国家ヴェネツィア共和国の衰退のきっかけともなったのだが…。

 

これより先に『コンスタンティノープルの陥落』 『ロードス島攻防記』も読んだが、たった今、読み終えたばかりの『レパントの海戦』の感想を先に記した次第。勝利から70年間、平和を享受したヴェネツィア共和国と戦後から70年の平和を享受してきた日本。トランプ新政権登場により、あの就任演説を聴いて、益々(以前、暮らしたオーストラリアであれば、白豪主義的な)50年以上も前へ後戻りしているようで不安が募る。70年という年月は歴史上では決して長いとは言えず、かといって短くも感じず… これから先、世界はどうなっていくのだろう。200年後、400年後、現代がどのように未来の歴史書に記されるのだろうと、遂、考えてしまう夜だった…。

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