フルートおじさんの八ヶ岳日記

美しい雑木林の四季、人々との交流、いびつなフルートの音

丸谷才一「女ざかり」を読む

2012-11-04 | 濫読

英文学の翻訳、幅広い文芸評論で知られた作家、評論家、英文学者で文化勲章受章者の丸谷才一さんが、10月13日亡くなった。87歳だった。

68年に「年の残り」で芥川賞を受賞したあと、72年の「たった一人の反乱」など10年おきに長編を書いてきたとのこと。今まで、気になりながらも、全く読んだことのない作家だったが、亡くなったなったということもあり、93年のベストセラーだった「女ざかり」を読んでみる。

念願の論説委員になった新日報社の南弓子は社会部出身の文章が書けない浦野を手助けする一方で、初めての社説を書いた。だがその社説は水子供養で儲けている、ある宗教団体を怒らせてしまい、そこから巨額の援助を受けていた政府与党の幹事長・榊原の圧力で、弓子は左遷を言い渡されることに。だが、彼女はきっぱり拒否。弓子を説得できないとなると、今度は、その新聞社の新社屋建設における国有地の払い下げに、待ったがかかる。彼女をなんとか助けようとの動きで話が展開するが、話がもつれそうなところで、意外なところから事態は解決した。全てが解決すると、弓子は、新聞社を辞めたくなってきて、年度末に退社することになる。結末は、(言わないが)、やや白けるかんじだが、、表題通り45歳の弓子は、今後も力強く生きていくだろうという感じだ。

ストーリーの展開の合間に色んな登場人物、新聞人、日本史の大学教授、官僚、哲学の教授、書家、政治家、女優などが、さまざまなウンチクを披露するのが面白い。
それ以外にも、「山鳥色の紬の一つ紋」「ひは茶の帯締め」の色、「絵志野の四方小鉢」「染付の猪口、久谷の猪口、黄瀬戸の猪口」などの色と形、あるいは「サニーレタス、アンディーブ、白ネギ、完熟の赤いトマトのサラダ」のアンディーブの味と料理レシピなどに興味がいったりして、読み終わるのに時間がかかったてしまった。

「丸谷さんが嫌ったのは、やたらに暗くて深刻ぶる態度、じめじめと湿った感情的な文章、偏狭なまじめさやえん世的な世界観だった。…逆に、知的な市民生活や明るい笑い、健全な楽しみや品のいい態度を好んだ。」(毎日JP)と言われるのが、少し分かったような気がする。