功夫電影専科

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恐怖!ニコイチ映画怪進撃(終)『Kickboxer from Hell』

2017-02-26 23:37:41 | カンフー映画:駄作
Kickboxer from Hell/Zodiac America 3: Kickboxer from Hell
製作:1990年(1992年説あり)

●数々のニコイチ映画を作り、世界中の映画ファンを絶望に陥れてきたフィルマークとIFD Films & Artsですが、その栄光にも終わりの時が近付いていました。
まずビデオバブルの勢いが衰え始め、ニンジャ映画も時代遅れの産物に。香港では政府によるレーティングが導入され、グレーゾーンどころか完全に真っ黒なニコイチ映画が(海外向けとはいえ)作りづらい状況となります。
 また、同社の看板監督・何誌強(ゴッドフリー・ホー)が離脱を表明し、ノーマルな動作片や女性アクションに活路を求めるなど、ニコイチ映画を取り巻く環境は刻々と変わっていきました。
この状況には、流石のフィルマークも二の足を踏むようになるのですが、IFDは懲りずにニコイチ映画の製作を強行。90年代になってもニンジャ映画を作り続け、新たにキックボクサー映画を推しはじめます。
 80年代後半に颯爽と現れたジャン=クロード・ヴァン・ダムは、自慢の蹴りと開脚でアクション映画ファンの話題をかっさらい、1989年の『キックボクサー』で格闘スターとしての地位を確固たる物にしました。
彼やフォロワーの活躍により、90年代はマーシャルアーツ映画が最盛期を迎えますが、これにIFDは出稼ぎ外人俳優を引き連れて参入。いつもの調子で突っ走ろうとするも、既にニコイチ映画というジャンル自体が限界に達していたのです。

 本作の主演は、動作片によく出ていたマーク・ホートンが担当。内容はキックボクサーにホラー要素をプラスした異色作ですが、どちらかといえば元作品がホラー映画だったから自然とそうなった珍品…と言うべきでしょうか(苦笑
物語は例によって例の如く、キックボクサーのマークが邪悪な教団と戦う新撮カットと、ある人妻(演者は後述)の周囲で起こる怪奇現象を描いた元作品パートが同時進行していきます。
 元作品は新婚間もない夫婦が怨霊に祟られるサスペンス・ホラーだったらしく、驚いたことに人妻を苗可秀(ノラ・ミャオ)、夫を高強が演じているのです。
どうやら元となったのは『靈魔』という映画で、新撮カットでは教団が怨霊を操っている設定に改変されていました。ちなみにこちらは1976年の作品で、まだ南洋邪術片が流行る前ということもあり、グロい描写はほとんど見られません。

 おかげで全く怖くないのですが、新撮カットはやはりデタラメだらけ。主人公のマークからして、キックボクサーなのにトレーニングで中国武術の形を見せ、トレーナーの兄は空手着に袖を通しています。
敵の教団もとことんショボく、教徒は麻袋に穴を空けて落書きしたコスチュームを着用し、ボスの教祖はデーモン閣下のバッタもん(よく見るとメイクがめっちゃ適当)という始末です(爆
劇中では臆面もなくエクソシスト風のテーマが流され、ロウソクを壊しただけでデーモン閣下が死ぬラストに至るまで、とかくクレイジーな描写が目に付きました。
 ただしキックボクサー映画を騙っているだけあって、これまで取り上げてきた作品と比べても格闘シーンの出来は随一。マーク自身が動ける俳優である点も大きく、それなりに格好のついた戦いが拝めます。
元作品にも2人の霊能者VS高強というサプライズがあり、終盤ではマークと組織の用心棒による一騎打ち(ここはスピード感がなくてイマイチ)もあるなど、アクション的な見せ場は意外と充実していました。
この他、露出度の高い姿を見せる苗可秀のアダルトな魅力など、見所になりそうなポイントも少なくない本作。しかし70年代の作品を弄ったものがウケるはずもなく、ニコイチ系キックボクサー映画は製作側にとって最後の花火となったのです。

 すべてのブームが去り、残されたフィルマークとIFDはニコイチ映画から手を引く事になります。時代はより先鋭化した作品を求め、無茶な映画産業が付け入る隙は無くなっていました。
90年代の香港は黒社会系の映画会社が続々と台頭。粗悪な作品で手っ取り早く儲けることさえ難しくなり、それでも会社自体は存在していましたが、1996年のビル火災によって多大なダメージを受けます。
 この一件でフィルマークの[登β]格恩(トーマス・タン)が死亡し、生き残ったIFDの黎幸麟(ジョセフ・ライ)も業界から脚を洗う…かと思いきや、同僚だった黎慶麟(ジョージ・ライ)と手を組み、今も映画界に留まっているそうです。
 かくして世界からニコイチ映画は消滅し、時代の徒花として好事家が語るだけの存在となりました。しかし、あの異常なジャンルで一時代を築いた彼らの事なので、「ひょっとすると」という不安は未だに残っています。
そう、完全に恐怖が去った訳ではありません。彼らが映画を作り続ける限り、そして映画というビジネスが世界にある限り、新たな“怪進撃”の余地は残されているのかもしれないのです……(特集、終わり)

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ニコイチ・キックボクシング映画 (samuan)
2017-03-03 14:27:53
こんにちは。
特集お疲れ様でした。中々ニコイチ映画を取り上げてくれるサイトやブログ自体が少ないので、今回の特集は本当に面白かったです!

キックボクサー映画、IFDのニコイチ映画のほぼ終わり時の頃ですよね。キックボクサー物はちょっと数があるんでまだコンプリート出来てません。

ちなみになんですが、実は無名時代のヴァンダムがIFDの事務所に売り込みに来たのはご存知ですか?笑
これはジョセフ・ライの近年のインタビューで明かされた事なんですが、仕事探しに香港に来たヴァンダムが直接ライ社長に訪ねて来たらしく、ギャラ交渉まで話が進んだらしいです。結局はIFDが当時、ニンジャ映画で儲かっていて何本かの作品を掛け持ちだったこと、後は海外とのプロダクションで業務上、果たさなければならない義務があって門前払いしたらしいです。

まさかあんなに売れるとは思っていなくて、今だに後悔してるらしいです笑笑
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返信。 (龍争こ門)
2017-03-08 11:29:50
samuanさんこんにちは、お返事お待たせしました。

>キックボクサー物はちょっと数があるんでまだコンプリート出来てません。
 私も把握しきれていませんが、意外と多く作られたようですね。HKMDBによると、本作以外にも80年代の功夫片を捻じ込んだ作品があったりと、相変わらずな製作姿勢が伺えます(苦笑
個人的には『ロボハンター』を彷彿とさせるタイトルの『Robo-Kickboxer』が気になります。

>ちなみになんですが、実は無名時代のヴァンダムがIFDの事務所に売り込みに来たのはご存知ですか?笑
 この話は知りませんでした。ヴァンダムがジャッキーの事務所に来たという噂は知っていましたが、IFDにまで足を運んでいたとは驚きです。
もしこれが実現していたら、チープな忍術を駆使するヴァンダムや、巡り巡って激安動作片で用心棒役を演じてるヴァンダムが見れたかもしれませんね(笑
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Unknown (流浪牙-NAGARE@KIBA-)
2017-05-05 08:40:09
>ニコイチ
もし、この世に良いニコイチと悪いニコイチがあるとしたら、両者はいったい何が違うんだろうな……と、ふと。
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返信。 (龍争こ門)
2017-05-12 14:34:10
 流浪牙-NAGARE@KIBA-さんこんにちは、お返事お待たせしました。
ニコイチの良し悪しの決め手は、やはり公式に許可を得ているか否か、作品として成立しているのかという点にあると思います。
 ちょっと違いますが、日本でも2つのリメイク作をくっつけた『特捜最前線×プレイガール2012』という作品がありました。
欧米ではオリビエ・グラナーの『エクスペンダブルズ・ゲーム』が映像流用をしているとのこと。こちらは未見ですが、なんだか色々とヤバい作品のようです(苦笑
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