もう数日前の話ですからニュースではないんですけど。
日米両国が5月2日、外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2+2)を国務省で開きました。私は紙媒体には接していませんけど、電子版をみた限りでは日本の新聞各紙が揃ってこれを報道していました。
実はその2日朝から香港・台湾各紙の電子版はこの「2+2」に関する速報記事で賑わいました。翌3日は各紙揃って大々的に報道。ところがその一連の報道で焦点が当てられたのは、日本のマスコミがほとんど報じなかった部分です。
会談後に公表された「共同発表」にある「共通戦略目標」から、前回(2005/02/19)は明記されたことで中国が強く反発した、
「台湾海峡を巡る問題の対話を通じた平和的解決を促す」
という文言が今回は消えていたのです。
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この「消えた」ことをめぐって大騒ぎ。香港では最大手紙『蘋果日報』をはじめ、『明報』『星島日報』『東方日報』『太陽報』から親中紙の『香港文匯報』『大公報』に至るまで「消えた消えた」と書き立てて、なぜ消えたのか、専門家はどうみるか、といったニュース・解説・憶測記事がどっと出ました。ざっと目を通してみたところ、
「中国と日米の関係が改善された証だ」
「陳水扁がこのところ台湾独立に向けて暴走気味だったのが米国の怒りを買ったのだ」
といった見方が主流。タイトルは扇情的に、
●日米同盟、共通戦略目標から台湾問題を削除
●日米同盟はもう台湾に構わなくなった
●台湾は日米同盟という傘を失った
といった類いのものが並びました。
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ところでこの「消えた」ニュースの第一報は意外なところから飛び出しました。中共系通信社・中国新聞社の配信記事です。
●日米同盟が共通戦略目標から台湾問題関連の内容を削除(中国新聞網 2007/05/02/08:18)
http://news.sina.com.cn/w/2007-05-02/081812912225.shtml
タイトルが全てです。報道者の意図が感じられるのはこの「台湾問題関連の内容を共通戦略目標から削除した」に加え、米国防筋による「削除したのは陳水扁の台湾独立へ向けた動きに警告したもの」という部分のみで、あとは自国に関係のある部分をそのまま引き写しています。いわく、
「中国に対して、責任ある国際的なステークホルダーとして行動すること、軍事分野における透明性を高めることを更に促す」
とのこと。「新浪網」など中国国内の大手ポータルをはじめ多くのニュースサイトでこの記事が掲載され、香港紙電子版の速報も、この中国新聞社電でした。
……これが5月2日の午前から夕方にかけて。上述したように香港・台湾各紙は翌3日に「台湾問題を削除」と大きく報道されたのです。
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ところが第一報を発した中国はといえば、米国の在台湾協会台北弁事処の代表が、
「別に大したことではない。今回、東アジア地区に対する米日両国の関心は、北朝鮮の核武装や朝鮮半島の安定、それに中国の台頭とその急速な軍拡に重点が置かれている」
と報道陣に語ったのをそのまま伝えています。ただ、
「2年前のように台湾問題を際立たせることはなかった」
「2005年に『2+2』は『台湾海峡を巡る問題の対話を通じた平和的解決を促す』という文言を共通戦略目標に織り込んだ」
と解説を加えているのは、そのことで当時よほど腹が立ったからでしょう(笑)。
●「新浪網」(2007/05/03/15:32)
http://news.sina.com.cn/c/2007-05-03/153212917690.shtml
でも、中国国内での報道はここまでで、現在に至るまでそれ以上深入りしていません。当然ながら香港・台湾メディアのように騒ぐ気配も皆無。沈黙を守っている、といっていいでしょう。不気味ではありませんが、香港・台湾とのギャップが大きすぎるので気になります。
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「日米安保なんて大嫌いだーっ」
というのが中国の本音でしょう。ようやく中華復興の気運がみなぎってきたのに(と中共はたぶん考えている)、日米同盟が存在するゆえに太平洋へと踏み出せない。それ以前に台湾併呑を果たせないのです。
それでも、冷戦時代はまだソ連牽制役という多少の旨味がありました。ところがそのソ連が崩壊し、その後ロシアと密接な関係を築いたことで、日米同盟はその存在そのものが邪魔になりました。
台湾問題が共通戦略目標から消えたのは嬉しくない訳ではないものの、大喜びするほどの気にはなれないのかも知れません。あるいは単に大型連休中だから?でも騒ぐべきものについては騒ぐ筈ですよねえ。
ちなみに、前回2005年の「2+2」共通戦略目標における中国の扱いは、
●中国が地域及び世界において責任ある建設的な役割を果たすことを歓迎し、中国との協力関係を発展させる 。
●台湾海峡を巡る問題の対話を通じた平和的解決を促す。
●中国が軍事分野における透明性を高めるよう促す。
というものでした。それが今回の共通戦略目標においては、
「地域及び世界の安全保障に対する中国の貢献の重要性を認識しつつ、中国に対して、責任ある国際的なステークホルダーとして行動すること、軍事分野における透明性を高めること、及び、表明した政策と行動との間の一貫性を維持することを更に促す。」
に変化しています。
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「責任ある国際的なステークホルダー」
に昇格を遂げ、「地域及び世界の安全保障に対する中国の貢献の重要性を認識」しているという中国への何やら褒め言葉のようなものもついています。要するに大物扱いに変わったということです。
ただ、「軍事分野における透明性を高めること」と改めて念を押されていますし、「表明した政策と行動との間の一貫性を維持することを更に促す」とクギを刺されています。
「責任ある国際的なステークホルダーたれ」
というのも「らしく振る舞え」ということで、枠をはめられたようなものです。だいたい日米同盟自体が嫌いですから、
「うるせーこん畜生、偉そうな口きくんじゃねえ」
とでも言いたいところでしょう。でも言うとカドが立ちますし何のメリットもありません。対日関係も対米関係も不必要に荒立てたくない時期ですから沈黙を以て報いた、といったところではないかと。
●外務省公式HP
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/2+2_05_02.html
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/hosho/2plus2_07_kh.html
でももう少し色々ありそうな感じもします。
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実のところ、大きく騒がれた「台湾問題を削除」というのは、本当はあまり意味を持たないように思います。今回発表された共通戦略目標の冒頭で、
「2005年2月19日、閣僚は、二国間の協力を進展させるための広範な基礎となる共通戦略目標を特定した。本日の会合において、閣僚は、現在の国際安全保障環境を考慮しつつ、これらの共通戦略目標へのコミットメントを再確認した」
となっており、今回の共通戦略目標が2005年バージョンの内容を踏まえた上で、その基礎の上に成立していると明言されているからです。要するに、
「台湾海峡を巡る問題の対話を通じた平和的解決を促す」
という文言はいまなお生きているのです。今回明記されなかったのは、確かに陳水扁・台湾総統への警告めいたニュアンスもあるかも知れませんけど、それ以前に日中関係が変化しているということがあるでしょう。
2005年2月といえば、それまでの約半年に対中外交の構造改革を狙って小泉純一郎・首相(当時)は強腰の姿勢を崩さず、前年9月に発足したばかりの胡錦涛政権はその変化についていけずに押されっぱなしでした。
その結果、2004年末にはアンチ胡錦涛諸派連合や軍部からダメ出しをされた上に、李登輝・前総統の訪日もあって日中関係はかなり荒れ模様。荒れている上に、胡錦涛政権の足場が心もとないため軍部が暴走するかも知れないという懸念が生まれます。それゆえに台湾問題が明記されたのでしょう。
いまはそうした要因が変化したことで焦眉の急ではなくなった。だから明文化しなかった。ただそれだけ、というニュアンスを感じます。
だから中国も沈黙している、ともいえます。いや実はそれよりも、いいようのない戦慄で言葉が出て来ないのかも知れません。だから、「言葉にならない」ということです。
……いや、だって今回の共通戦略目標、ちょっと露骨なように思えましたので。
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中国に対して露骨、ということです。「2+2」の共通戦略目標、今回は11項目が箇条書きにされており、そのうちのひとつが上述した中国に関する内容です。
で、残る10項目のうち北朝鮮やイランの問題などを除外していって、気になったのが以下の4項目。
●東南アジアにおいて民主的価値、良き統治、法の支配、人権、基本的自由及び統合された市場経済を促進するとの東南アジア諸国連合(ASEAN)の努力を支援し、また、二国間及びASEAN地域フォーラムを通じ、非伝統的及び国境を越える重大な安全保障上の問題についての地域の能力及び協力を構築する。
●共有する民主的価値及び利益に基づき、安全保障及び防衛の分野を含め、地域及び世界において、米国、日本及び豪州の三国間協力を更に強化する。
●インドの継続的な成長が地域の繁栄、自由及び安全に密接に繋がっていることを認識しつつ、共通の利益の分野を進展させ協力を強化するため、インドとのパートナーシップを引き続き強化する。
●北大西洋条約機構(NATO)の平和及び安全への世界的な貢献と日米同盟の共通戦略目標とが一致し、かつ、補完的であることを認識しつつ、より広範な日本とNATOとの協力を達成する。
民主,自由,人権、法治といった中国にとって目にしたくない単語が散りばめられています。しかも対象国はASEAN、オーストラリア、インド、NATOです。つまり東南アジア、オセアニア、南アジア、ヨーロッパと数珠つなぎ。
……これって日本の麻生太郎・外相が提唱している「自由と繁栄の弧」を地で行くものじゃありませんか?しかもオーストラリアとNATOとは軍事面での連携強化が打ち出されています。さらに日本とNATOの間により広範な協力関係を構築しようというのです。NATOとはいいながら、EUと重なる部分もあるでしょう。
いわば中国包囲網。中国にとったらそりゃ穏やかではないでしょう。
「2+2」は2005年に比べると、中国に対してずいぶん剣呑になっているように思います。……もちろん中国が悪さを繰り返したからです。海軍潜水艦の日本領海侵犯や米空母戦闘群追跡、東シナ海ガス田紛争、違法海洋調査活動、弾道ミサイルによる衛星破壊実験、アフリカへの度を超した肩入れと介入、そしてお決まりの人権問題……。
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ところで、上の4項目を眺めてみて感じるのは、日米安保が世界全域を視野に入れたものへと発展しつつあるということです。これはとりも直さず、自衛隊の活動が範囲・内容の両面でグレードアップするであろうことを示唆しています。
となると、集団的自衛権の問題となります。安倍晋三・首相は憲法改正の下準備を進める一方、内閣法制局による憲法解釈を改めさせることで、とりあえず応急処置的に集団的自衛権の要点を確保しておこうということになるでしょう。……ていうかもう手をつけているみたいですね。
何やら当ブログらしくない話になってしまいましたが、この集団的自衛権がとりあえず台湾有事で効くのではないかと思います。……あ、もちろん尖閣問題でも。ただどうせ日米と武力衝突することになるのですから、軍隊を使うなら中国はまず台湾を一気呵成に片付けようとするでしょう。
そういえば、台湾への武力侵攻という選択肢を捨てていないことも「悪さ」のひとつに数えていいですね。
ともあれ、同じ「2+2」をめぐる報道でも香港や台湾では日本と全く毛色の違う扱い方をされていました。それだけに共通戦略目標全体を俯瞰しつつ日米同盟の今後を占ういったスタンスの報道は、私のみた限りではありませんでした。
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