日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 これは大変なことになりました。続報ではなく新展開です。例の広西チワン族自治区・玉林市博白県下の各鎮で発生した前代未聞の同時多発型農村暴動、その第二波が発生し現在進行中です。

 しかも今回は博白県だけではなく、同じ玉林市に属する容県にも飛び火。先日の国営通信社・新華社による独占配信記事で騒乱が終息したことが報じられ、ヤマは越えたかと思われたものが一転、再び燃え上がった火の手に先の読めない状況になってきました。

 「第一波」の経緯と背景については、とりあえず当ブログの既報記事をどうぞ。

 ●農民蹶起!広西博白県下の各鎮で同時多発暴動、庁舎炎上。(2007/05/21)
 ●続・広西同時多発暴動:不妊手術より上納金。(2007/05/23)

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 簡単に言ってしまうと、博白県下8カ鎮で先週末(5月17~19日)、相前後して発生した農村暴動は、博白県当局の無茶苦茶かつ鬼畜きわまりない計画出産措置の執行に農民たちの堪忍袋の緒が切れたものでした。

 具体的には、博白県当局の計画出産部門の職員ら「実行部隊」が見境なく女性を拘束しては不妊手術を施す一方、計画出産政策に違反し規定(二人)より多くの、つまり3人以上の子供を持った世帯から罰金を取り立てたことです。

 しかも罰金は以前より桁違いの金額にはね上がり、さらに新たに「社会扶養費」という名目の追徴型罰金も制定して、棍棒やハンマー、手錠などを持った「実行部隊」が村々を襲撃して取り立てに回り、女性を拘束して病院で不妊手術を強行したほか子供を拉致する事態も発生。

 罰金の払えない世帯は家財道具からアルミサッシまで強奪されて銀行口座も差し押さえられ、また違反世帯だけでなく村落の全世帯が身ぐるみ剥ぎ取られるケースも続発したため、夜襲で子供を拉致されないように日が暮れるとみんなで山中に避難する村も相次ぎました。

 「官匪」の暴虐ぶりは農民が「戦争中の日本軍の方がまだマシだった」とこぼすほどで、最後には追いつめられた農民が我慢の限界に達し、各鎮政府を民衆が包囲して政府庁舎を炎上させるなどの騒ぎに発展、一部では警官隊との衝突なども発生しました。この過程で死傷者多数が出たとの未確認情報も流れています。

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 博白県当局をこの暴挙に走らせたのは、自治区政府の計画出産部門による会議で博白県が計画出産政策遂行のノルマを果たしていないと非難され、9月までに目標値に達しなければ関係幹部は全員更迭、とイエローカードを突き付けられたからです。

 香港紙の報道によると、そのノルマとは、

「不妊手術約1万7200件を行うとともに、『社会扶養費』788万元を取り立てろ」

 というもの。要するに博白県当局にとっては、1万7200名の女性をひっ捕えて有無を言わせず不妊手術を施す一方、とにかく農民から788万元をむしり取らなければならない、ということです。

 
「お前らこのままじゃクビ」と最終警告を出された同県に対しては、上級部門である玉林市のトップ(文明・玉林市党書記)も前線視察に乗り出してノルマ達成を督励したといわれています。……というのも、博白県がダメダメだと同市当局の責任問題にも発展する可能性があるからです。同じ玉林市に属する県でも容県は模範的な成果を上げており、5月1日からの大型連休中の一週間で「社会扶養費」3400万元を集めたとされています。博白県の働きの悪さが際立ってしまう訳です。

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 ともあれ、前掲エントリーの「不妊手術より上納金。」で指摘したように、私はこの狂気の沙汰の背景には
「計画出産利権」があるのではないかと考えています。自治区政府計画出産部門を頂点とした上納金&見返り特権という汚職の構図です。

 物権法の制定で土地を強制収用して転売し売却益や住民に対する補償金の多くを着服する、というこれまでポピュラーだったやり方に形式上は規制が加えられることとなり、土建屋や公害企業などと癒着することでオイシイ思いができたイケイケドンドンのGDP成長率追求型の開発路線に対しては、「成長率より効率重視」という最高指導者・胡錦涛が掲げる「科学的発展観」が待ったをかけました。

 そこで登場した新手の汚職が「計画出産利権」ではないかと私は邪推しています。「上納金&見返り特権」ではなく、「上納金ノルマ+α」で罰金を取り立て、「+α」分を自分の懐に入れるという形である可能性もあります。

 あるいは新種の汚職ではなく、経済開発のままならない貧困地区で地元党幹部がうまい汁を吸うために以前から行われてきたものかも知れません。

 ただ「社会扶養費」のような罰金や「実行部隊」に村々を襲撃させるという手口が今年に入って出現したことから、やはり中央政府によって規制の網がにわかに張り巡らされたことに対応したもの、という見方ができるのではないかと考えています。今回発生した「第二波」の同時多発型暴動もそれを裏打ちしているように思えるのです。

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 ……そうでした。前置きが長くなってしまいましたが、「第二波」の同時多発型暴動についてです。

 暴動終息を宣言した新華社電が配信されたのは5月22日夜。ところが現地ではその前日である月曜日(21日)に博白県下の旺茂鎮で1000名を越える規模の官民衝突が発生していました。

 これを「第一波」とするか「第二波」とするかは難しいところですが、問題はその翌日の22日。中央の意向を色濃く反映したとみられる博白県当局にとって厳しい内容の新華社電が出るその日に、何と博白県当局の「実行部隊」が手分けして同鎮の村々を回り、改めて罰金(社会扶養費)の取り立てを行っていたのです。「優等生」である容県当局も県下の自良鎮に対し同日取り立て行動に出たとのこと。

 「実行部隊」は新華社電が全国ニュースとして浸透した翌23日も跋扈して取り立てを続行したため、すでに一度キレている農民もこれに即応。旺茂鎮ではこの23日に農民1000名以上が鎮政府庁舎を包囲してレンガや棍棒で建物の窓ガラスを叩き割るなどの騒ぎに発展しました。

 このとき現場に駆けつけた警官・武警(武装警察=内乱鎮圧用の準軍事組織)数百名との間に衝突が発生。民衆多数が鉄パイプなどで殴打され、数十名が連行された模様です。これは正真正銘の「第二波」。しかも香港紙『蘋果日報』(2007/05/25)の報道によると3カ鎮で農民が暴動に及んだとのことで、またまた同時多発型なのです。

 米国系ラジオ局RFA(自由亜洲電台)はやはり博白県の沙河鎮で強奪された家財などの返還を求めて3000名余りの民衆が政府庁舎を襲撃、さらに水鳴鎮でも鎮政府庁舎前で抗議デモが行われたと伝えています。

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 今回特筆すべきは暴動の火の手が「模範生」たる容県にも波及したことです。『蘋果日報』によると、23日に暴動が発生したのは博白県の旺茂鎮、水鳴鎮、そして上記容県の自良鎮。RFAは自良鎮の暴動について、民衆約3000名が政府庁舎を襲撃し、警官隊との衝突で少なくとも十数名の負傷者が出たと報じています。

 「第一波」で比較的激しい衝突の発生した沙陂鎮、英橋鎮、那卜鎮などには22日の時点でなお警官・機動隊・武警など多数が進駐して半ば戒厳令状態にあり、いまのところ「第二波」に呼応した動きは報じられていません。ただ『蘋果日報』によれば沙陂鎮では23日にデモを行った40名が警官隊に連行されたとの情報が流れているようです。

 またタレ込みサイト「博訊網」が『亜洲週刊』の報道を転載したところによると、やはり厳戒態勢下の龍譚鎮で22日に数千人規模のデモが政府庁舎前で行われ、同日には山間部の各鎮に通じる道路のあちこちに民衆によって破壊された警察車両など多数が発見されたとのこと。

 いずれにせよ、今回はとうとう容県にも暴動が飛び火したことで、ドミノ倒しのように事態が拡大していく可能性も出てきました。ワクテカ?いやそりゃワクテカですとも。こうして火の手が上がった一方で中共政権にとって最も由々しき事態である李登輝・前台湾総統の訪日があり、もしさらに株価暴落ともなれば都市部でも騒ぎになるでしょうからこれはもう(笑)。

 ワクテカといえば実に興味深い動きがあります。博白県下の一部の鎮の間では農民たちの連携が生じつつある気配がするのです。RFAによると、農民たちは複数の鎮から約20名を選抜し、22日、秘密裏に北京への「上訪」(陳情)に出発させたとのこと。旅費は農民たちがお金を出し合って調達。20万元をカンパした者もいたそうです。

 この情報をつかんだ玉林市当局は市内各県の駅やバスターミナルに厳戒態勢を敷いて説得工作や拘束を企図したものの、いずれも失敗。北京まで行き着けるかどうかはともかく、陳情組はすでに外地へと出た模様です。

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 前代未聞の同時多発型暴動が終息したかと思いきや「第二波」が発生し暴動は他県にも飛び火。その一方では陳情組を出したように博白県下の一部の鎮の間で連携めいた動きがみられるなど、事態は思わぬ方向に展開しつつあります。

 ただ、その原因は「第一波」の同時多発型暴動で懲りずに罰金取り立てをなおも強行した地元当局にあります。

 その活動は新華社の独占配信記事が出た後も続けられたことから、「中央vs地方」の対立軸でいえば、地方当局は中央の意向に構わず、また胡錦涛直系の「団派」(胡錦涛の出身母体である共産主義青年団人脈)に属する自治区トップ・劉奇葆・自治区党書記をも無視して、あくまでも地元の行動原理に基づいて進退していることがわかります。

 要するに
「官vs民」「中央vs地方」という対立軸が「計画出産利権vs同時多発型暴動」というひとつの事件の上で反目を深めている訳です。かなり香ばしい状況になってきたといっていいでしょう。場合によっては、意外に面白いドラマを鑑賞することができるかも知れません。

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 ●RFA(2007/05/23)
 http://www.rfa.org/mandarin/shenrubaodao/2007/05/23/guangxi/

 ●RFA(2007/05/24)
 http://www.rfa.org/mandarin/shenrubaodao/2007/05/24/bobai/

 ●『蘋果日報』(2007/05/25)
 http://www1.appledaily.atnext.com/

 ●「博訊網」(2007/05/25)
 http://www.peacehall.com/news/gb/china/2007/05/200705250446.shtml



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