日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 先日、恩師と映画鑑賞デートをして参りました。私にとっては2回目の「俺は,君のために死ににいく」です。私が公開前から「あの映画は良さげです」と煽っていたので恩師も観る気になった次第。

 一緒に映画を観て、見終わって映画館の照明がついて、隣の席に置いておいた荷物をとろうと私が横向きになったその瞬間、恩師が70代半ばのお婆さんとは思えぬ力で、平手で私の背中をどやしつけてきました。

 えっ、と思って振り向いたら、恩師が小さな声ですが力強く
「ありがとう」と私に言いました。恩師一流の照れ隠しのようなものです(笑)。ああよかった、先生も楽しんでくれたんだなあ、と思って私はうれしくなりました。あとで、

「こんなに心に沁みる映画は何十年ぶりかでした。連れてきてくれて本当にありがとう」

 と改めて感謝されてこちらは恐縮するばかりでした。

 恩師は近年日本国籍をとるまでは中国のパスポートでしたが、漢族ではありません。少数民族のひとつで、その貴種ともいうべき血筋です。ですから小学校,中学校は日本人と一緒に日本語で授業を受け、慰問袋や千人針も経験して、15歳のときに戦争が終わりました。自称軍国少女(笑)。もちろん日本人と寸分違わぬ、しかも上品な日本語を使います。

 ただ、新中国が成立してからは反右派闘争、大躍進、文化大革命と政治運動の繰り返し。恩師は血統からみても日本人の中で育ったかのような生い立ちに照らしても、吊るし上げの対象です。

 文革のころは大袈裟でなく「いつも生命の危険を感じて生活していました」とのことです。終戦時に15歳だからよかったのですが、あと5つも年上だったら「国際間諜」で銃殺刑にされていたそうです。

 実際、終戦直後に恩師の親戚の女性がスパイ容疑で銃殺されています。その人は収監中毎日、刑場に引き出されていく人がいると、その背中が見えなくなるまで「海ゆかば」を歌って見送ったそうです。

 ――――

 映画を観たあとの恩師はどこか胸の中が何かでいっぱいという風情で、お茶をしても何となく落ち着かなかい様子でした。そのあと外に出てから「あなたは仕事があるからお家に帰りなさい」とちぎって捨てるように言われました。私は特に予定もありませんでしたし、もっと恩師と話していたかったのですが、そうかそうかーと思って別れました。

 果たせるかな後刻電話がかかってきて、

「あのときは御家人君ともっと色々話したい気持ちもあったのだけど、映画で観たことや感じたことをひとりで考えたい気持ちもあったから」

 と話してくれました。

 映画の感想として、特攻隊員たちがあんなに人間味のある普通の若者で、出撃前にそれぞれが悩み苦しんでいることを初めて知ったので、まずそのことに感動したそうです。恩師は中国で激動の政治運動の時代を生き抜き、そのあとほどなく日本に留学生として出てきて定住したので、特攻隊に対しての認識はなかったようです。

 面白かったのは私の母同様、映画冒頭で特攻隊の魁とされる敷島隊出撃の記録フィルムが流れたときにBGMが「海ゆかば」だったことで、万感胸に迫るというか感慨深いものがあったと話してくれました。

「母もそう申していましたが、そういうものですか」

「そりゃそうですよ。学校では毎日宮城遥拝のあと『海ゆかば』を歌っていたんですから」

 なるほどそういうものか、と私は思いました。私はあのシーンの「海ゆかば」には反応しなかったのですけど、世代によってはあれが絶好の「つかみ」として作用したようです。「つかみ」を狙ったものであれば見事としかいいようがありません。

 私はラストでトメさんと主人公が目にするシーン、あの満開の桜並木の下で戦友たちが笑顔でこちらに手を振っている幻影、あそこで「海ゆかば」を流すのはそりゃ反則技じゃないかとタオルを握りしめつつ改めて思いました。個人的にはあと1回は観たいところです。恩師は恩師で近く一時帰国する中国在住の日本人の故旧たちにこの映画だけは必ずみせてあげたいと何度も言っていました。

 ――――

 ……前フリが長過ぎましたが、その恩師が、上品な日本婦人といった感じの日本語を話す恩師が、

「あの人の日本語がいちばん正しい」

 と常々激賞しているのが李登輝・前台湾総統です。

 きょう(5月30日)のお昼過ぎに成田着の飛行機で、東京に入るそうです。何だか信じられない、というか実感が湧きません。……いや、李登輝氏がきょう来日する、ということがです。

 だって前回(2004年末)は中国がそりゃもう大騒ぎでしたから。当ブログ左サイドの「CATEGORY」の中の「李登輝氏訪日」で古いエントリーにあたって頂ければ、中共政権の恫喝めいた狂乱ぶりと、実際には手の出しようがないので口だけで終わってしまい余りにカコワルな尻すぼみで終わったことがわかります。

 ところが今回は『朝日新聞』がいかにもな御注進記事(たぶん中国側にとっては有難迷惑)を掲載したくらいで、中国国内メディアを含め、騒動めいたものは一切ありませんでした。

 昨日(5月29日)の中国外交部による定例記者会見で報道官が、

「厳重に抗議する。日本側が『日中共同声明』などを遵守することを望む」

 などと言っていました。それだけです。ちなみにこの「日中共同声明」で中国側は「台湾は中国の領土の一部」と主張し、日本側はその主張を「理解し尊重する」とはしているものの、「台湾は中国の一部」ということを正式に承認していません。

 面白いですね。中国側は「日中共同声明」を持ち出して抗議している。日本側は同じ「日中共同声明」に拠って「別に問題なし」としている。そういえば台湾人だけノービザですしね(笑)。これもたぶん「日中共同声明」という大原則に照らしたものでしょう。

 ――――

 ともあれ、中国側の反応は形式だけのもので気合いが入っていません気合いが。例えば昨年の小泉純一郎・首相(当時)による「八・一五靖国参拝」のときと様子が似ています。騒ぐまい。これで騒いじゃだめだぞ騒いじゃ、といった気配です。

 ●騒ぐだけムダでカッコ悪いことを前回の李登輝氏訪日で学習した。
 ●一応の日中友好ムードに水を差したくない。
 ●日米安保「2プラス2」の共同戦略目標で「台湾問題」が明記されなくなった空気を維持しておきたい。
 ●ただでさえ暴動が頻発している中国社会が反日で熱くなるとどう転じるのかわからないのでマズい。
 ●5年に1度の党大会を今秋に控えているので、この問題で党上層部に不協和音が生じては困る。
 ●胡錦涛政権の指導力が2004年末に比べて段違いに強まっている。

 ……てなところでしょうか。とりあえずメディアには騒がせない方向で、という意思統一がなされているようにみえます。そういう軽度の規制を敷ける程度の力はいまの胡錦涛政権にはあるということでしょう。まあ前回は胡錦涛政権発足後の試用期間3カ月を終えてアンチ胡錦涛諸派や軍部からダメ出しが行われた時期だった、そのため必要以上に騒いだ、ということもあるかも知れません。
 
 今回は東京ということで、歴史に名を残すことになるであろう哲人政治家の風貌に、遠くからでもひと目でもいいから接しておきたい、という野次馬根性が私にはあります。

 そこはそれ、上海留学中に民主化運動が生起したのを振り出しに現場運だけは恵まれていますから。去年の「八・一五靖国参拝」は混むのを避けるために早出したのに、逆にそのためにナマ小泉さんに遭遇してしまいましたし。

 今回はわざわざ近所に立ち寄ってくれるようなので、楽しみにしているのです。

 上天気であれかし。




コメント ( 6 ) | Trackback ( 0 )