日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 先日速報した広西チワン族自治区・博白県下の各鎮で発生した同時多発的な農民暴動の続報です。

 最大のトピックは中国の国営通信社・新華社が事件のニュースを国内メディアに配信したことでしょう。昨日(5月22日)夜遅くに記事が出たようで、大手ポータルなどでは日付が変わったばかりのタイミングでこれを掲載しています。あまり意味はありませんが並べておきます。

 ●「鳳凰網」(2007/05/22/21:02)
 http://news.phoenixtv.com/mainland/200705/0522_17_122514.shtml

 ●「網易」(2007/05/23/00:19)
 http://news.163.com/07/0523/00/3F4TFS0V0001124J.html

 ●「新浪網」(2007/05/23/00:49)
 http://news.sina.com.cn/c/2007-05-23/004913050407.shtml

 ●「華商報」(2007/05/23/00:54)
 http://news.huash.com/2007-05/23/content_6297851.htm

 ●捜狐新聞(2007/05/23/01:09)
 http://news.sohu.com/20070523/n250166755.shtml

 ●四川在線(2007/05/23/02:03)
 http://www.scol.com.cn/focus/zgsz/20070523/200752320344.htm

 内容はみんな同じで、新華社の配信記事をそのまま掲載しています。一字一句改めずに掲載するよう強要されているのでしょう。独自記事はNG。この「新華社の記事をそのまま使え」というのは日中首脳会談のような大ネタや政治的に敏感なニュースに際して採られる措置です。

 それだけ党中央が今回の事件にナーバスになっているともいえますし、この事態をどう裁いて落着させるか苦慮している最中、ともいえます。

 この記事がなかなか興味深い内容で、かなり気を使って書かれている様子がうかがえます。

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 まず今回の事件について、当局は箝口令を敷いたのですが、ネット上では事件発生後ほどなく掲示板やブログなどを通じて中国国内に情報が流れました。ネット世論は相当義憤したようです。……で、記事はその冒頭で暴動による混乱がすでに終息したことをまず報じているのですが、書き出しが「この事件みんなもう知っていると思うけどさあ」というノリを漂わせていてナイスです。

 続いて博白県当局の公報によれば、という形で事件の推移が語られます。まず5月17日午前に頓谷鎮の政府庁舎を群衆300余名が包囲し、官民衝突が発生。警官隊は先頭に立って煽っていた連中を法に基づいて召喚したとのこと。逮捕とか拘束ではなく「法に基づいて召喚」という珍しい表現に地元当局の腰が引けている様子がうかがえます。

 それから18日から19日にかけて、同県内の6カ鎮・郷で騒乱が発生し、状況が最も深刻だった段階では3000名近い群衆が政府庁舎を取り巻いて正門や壁、事務設備や書類など多数を破壊し、少数の不満分子というか騒ぎ屋によって自動車やオートバイへの放火や破壊行為が行われたとしています。……前代未聞の同時多発暴動なのですが、それについての描写はここまでです。

 ここで明確な線引きが行われていることに留意しておきましょう。「悪いのは一部のならず者」といった形で締めくくられ、一緒に暴動に加わっていた何百何千の怒れる農民たちを悪者にはしていません。お咎めなしです。

 これが博白県当局の公報なのです。棍棒やハンマーや手錠を携えてトラックに乗り込み県下各村を襲撃して回っていた土匪そのものの振る舞いから打って変わって大人しくなっていることがわかります。事件が党中央の耳に入ってしまったことで一転して下手に出てみた、というところでしょう。

 党中央以前に、自治区トップである劉奇葆・自治区党書記の知るところとなったのがまず痛いでしょう。香港の最大手紙『蘋果日報』(2007/05/22)によると、この劉奇葆は胡錦涛直系の「団派」(胡錦涛の出身母体である共産主義青年団人脈)です。いままで体よく祭り上げていたのでしょうが、地元のボスどもの悪事が露呈してしまうこととなりました。

 香港各紙の報道によると、今回の悪事は博白県やその上級部門である玉林市ばかりでなく、自治区政府の計画出産部門を頂点としたもののようです。

 劉奇葆自治区党書記は事態の深刻さに驚いたのか、あるいは隠忍自重しつつこの機を待っていたのか、ともかく「団派」ですから胡錦涛との間にホットラインがあるので素早く北京に動いてもらうことができます。それ「諸侯」退治だとばかりに中央政府、つまり国家計画出産部門の特別調査チームがすでに現地入りしたとのことです。

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 新華社の記事を続けます。

 博白県の公報に基づいてサラリと同時多発暴動にふれたあと、記者が現場で野次馬から聞いた話として、事件の原因は地元当局の人口抑制政策の進め方の悪辣さにあり、それで民衆が騒いでいるのだと報じています。おやおやです。

 さらにこの記事は最大規模の暴動に発展した沙陂鎮の民衆多数が、計画出産政策の職員が粗暴でしかもあれこれと名目をつけては罰金を農民からむしり取っていったと話したとも伝えています。

 さあこの辺で雲行きが怪しくなってきました。上で
「博白県が公表した資料では」と暴動にふれてから、今度は「野次馬の話」「民衆多数が語った」として地元当局の「官匪」ぶりが暴動を招いたと言わんばかりの内容に転じているのです。国営通信社の独占配信記事ですから党中央の意思が濃厚に反映されているといっていいでしょう。

 「少数のならず者」を罰する一方で地元当局のトップ、例えば博白県の蘇建中・党書記、さらに同県に出向いて前線視察を行い督戦までしたとされる玉林市の文明・市党書記あたりは腹を切らされることになるかも知れません。これがさらに上の自治区政府内に巣食っているボスにまで手をつけられるかどうかは胡錦涛政権の指導力と劉奇葆自治区党書記の腕次第ということになるでしょう。

 とはいえ人口抑制は国策ですから、ゴネ得の模倣犯が続出することになっては困ります。このため記事はこの国策たることについて言及し、その政策がいかに重要で必要なものかを説いた上で、博白県の農民はその重要性を理解することが少なく、このため局面を打開しようと計画出産政策を大々的に展開してきた、という地元当局筋の話を紹介しています。

 そして博白県の黄少明・県長によるコメント、

「一部の民衆が現在展開されている計画出産活動を理解せずに反発した。これは多くの民衆が計画出産に対する観念と遵法意識に乏しかったという側面がある一方で、当局による計画出産活動の執行状況にも些かの問題があり、このため民衆の恨みを買うことになった」

 ……というやや自己批判を含んだ談話が登場。何やら上からどれほどの雷が落ちてくるかを計っているかのようで、このあたりは官僚臭が漂います。

 最後に、別の企図を有した一部の者の策動により、民衆の反発を巧みにとらえて煽動し云々……というくだりはいつものお飾りですから無視して構いません。とりあえず現時点で拘束されている者は28名。総計すれば4~5万人が参加した暴動なのにたった28名というのも、農民への無用な刺激は暫く避けようという姿勢の表れかも知れません。ただ当局発表なので実際にはもっと多くの逮捕者が出ている可能性があります。

 で、いま現在、玉林市及び博白県当局による慰撫活動を目的とした28チーム・約200名が県内各地に入って応急処置を施しているとのこと。香港各紙の報道によると、1000名規模の治安部隊が派遣されて現地は戒厳令同然の状況にあるようです。

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 とりあえず、殉職した関連部門の職員に対し「優秀な共産党員」との称号を追認し顕彰することで、農民たちと真っ向からぶつかる構えを示していた博白県の腰は見事に砕けてしまったようです。

 一方で新華社電の内容は「地元当局の言い分」と「民衆の言い分」を併記した形に終始して事件に対する政治的評価は下しておらず、党中央が未だに断を下せない状況にあることを感じさせます。まあ目下のところ状況把握に全力を挙げている、といったところでしょうか。

 ……ところで上に並べた大手ポータルなどの報道ぶり、いずれも新華社電をそのまま掲載させられているのですが、その中にあって反骨精神?をチラリとのぞかせたのが「網易」です。

 確かに新華社の記事を一字一句動かすことなく掲載しているのですが、その上にリードが加えられており、「ポイント」として暴動の概略を手短にまとめた上で、事件の原因が当局の鬼畜なやり口にあったとする「民衆の言い分」を書き連ねているのが心憎いです。

 さらにこの記事に付帯した掲示板があり、私がのぞいた時点では300件近い書き込みが寄せられていました。少しだけ目を通しましたが、

「よっしゃー」
「新華社がこういうニュースを流すとは、まあ進歩といってよかろうw」
「公僕は反省汁」
「ガハハハ、ビクついている奴らがいるぜ」
「正義がどちらにあるかは言わずもがな」
「はいはい別の企みを持った少数の者たち別の企みを持った少数の者たち」
「おれたち庶民にとっては嬉しい日になったな」
「今日は天気がいい。人民も大喜びだ」

 ……といったコメントが削除されることなく残っていました(笑)。そういえば前回のリンク先の写真の中に鎮政府庁舎の正門から引っぱがした「××鎮中国共産党委員会」という看板を皆が足で踏みにじっている一枚がありました。私はあの写真に、反中共というより「官vs民」という対立軸、また特権にありつける「官」に対する「民」の怒りや絶望的・致命的な距離感を感じました。

 上で博白県のトップである蘇建中党書記や黄少明県長の名前が出てきましたが、暴動の起きた一部の鎮では、

「蘇建中を打倒せよ」
「黄少明は銃殺刑だ」

 といったスローガンが随所に貼り出されたそうです。

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 さて標題の「不妊手術より上納金」ですけど、今回のケースは「計画出産利権」ともいうべき構造が自治区政府内の担当部門を頂点に形成されていたように思えてなりません。

 もちろん違法出産に対する取り締まりが甘かった可能性もあります。地元では、

「一人生んだら避妊リング、二人生んだら結紮手術、三人目四人目は殺、殺、殺」

 という極端なスローガンが叫ばれていたそうですから。……ただ「実行部隊」の数々の暴虐も、子供を取っ捕まえたり女性に不妊手術を強制したりするよりは、村そのものを襲撃して金目のものを強奪していくことに重点が置かれていたように思います。

 それからいわれのない罰金。規定を越えた出産に対する罰金の金額が急に何倍にもはね上がったり、親がすでに罰金を払っている子供がすでに成人しているところで、今度は「社会扶養費」(規定より多く生まれた子供を社会が養ってきたのだ、という罰金)なるものを新たに設けて1980年までさかのぼって罰金を徴収したり。

 それを拒めば「実行部隊」が家に押し掛けて家財道具を一切合切持ち去ってしまいます。銀行口座の凍結という形での資産差し押さえもあったようです。違反していないのに村ぐるみでまとめて襲撃されたため生計が立たなくなってしまった人もいます。

 博白県当局がそこまで必死になったのも、

「ノルマをこなしていない。9月までに目標に達していなかったらお前らクビ」

 と上から圧力がかかったためで、そのノルマなるものは国策の徹底といったことよりも「上納金が少ない」というのが実際のところではないかと。ちなみに
「不妊手術約1万7200件を行うとともに、『社会扶養費』788万元を取り立てろ」というのがその「ノルマ」だったようですが、地方党幹部の行動原理からすれば、軸足は後者に置かれていたとみるべきでしょう。

 罰金を取れるだけ取り立てて上納すれば見返りに何らかの特権を与えられるというのは、末端に近いため上からの監視の目が行き届かない割に支配権は意外に大きいという県の党幹部レベルにはありそうな話です。……まあ、私の邪推にすぎませんけど。

 イエローカードをつきつけられた博白県とは裏腹に、同じ玉林市でも容県は成績優秀。5月頭の一週間に及ぶ大型連休中に人海戦術で取り立てを行い、その期間だけで「社会扶養費」3400万元を集めたそうです。

 そこで博白県当局も見境のない行動に出た訳ですが、裕福な農村ではなくむしろ貧困地区に属する場所での苛酷で不条理な年貢取り立て(というか本来の年貢だった「農業税」は昨年で廃止されたので新種の年貢)に、とうとう農民たちがムシロ旗を掲げて立ち上がったのでしょう。

 その意味で、今回の同時多発的暴動は近年発生している様々な農村暴動の中でも、典型的な百姓一揆に最も近いケースだったのではないかと考えているところです。

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 ここから先は、中央から派遣された「進駐軍」がどこまで巨悪を暴き立てることができるかに注目です。また、別の地区でもこの「計画出産利権」が明るみになるか、あるいは今回同様暴動という形で白日の下にさらされるか、といった点にも期待できそうです。

 利権というかカネの話だと都市部住民の株狂いからも目が離せません。マネーゲームの参加者がこれだけ広範かつ多人数になってしまうと、いったん暴落めいた動きがあれば噂が噂を呼んで雪崩現象に発展するでしょう。マクロコントロールなんて小手先技でどうにかなるものではありません。

 それによって中国経済がどうなるかということにも関心はありますけど、何より社会的な影響に興味津々です。いま現在、すでに放っておいても散発的に暴動が起きるような状況なんですから。




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