日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 鮮やかです。まことに鮮やかです。重要会議の閉幕を前に党中央の機関紙たる『人民日報』が旗幟をかくも鮮明にするとは思いませんでした。これほどわかりやすい意思表示も珍しいのではないでしょうか。

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 重要会議とは言うまでもなく10月8日から開催されている
「五中全会」(党第16期中央委員会第5次全体会議)のことです。会期は4日間ですから今日(10月11日)閉幕ということになります。

 総書記による公報(コミュニケ)発表や今回の主題である
「十一五」(第11次5カ年計画、2006-2010年)の概要、また人事異動があればそれも発表されるでしょう。

 ただ五中全会は密室会議ですから、上記のあれこれが一般に公開されるのは午後から今夜でしょうか。とすれば閉会翌日である明日(12日)の新聞一面がその話題で大々的に飾られるでしょう。そして有人ロケット発射という国威発揚イベントが行われる訳です。

 国威発揚とはいかにも前時代的発想ですよね。そんなことにカネをかけるなら貧困地区や「失地農民」(土地収用で耕地を失って流民同様の境涯に堕ちた農民)をもう少し構ってやればいいのにと思います。まあ、国威発揚イベントを打たなきゃならないほど政権の求心力が低下しているということなんでしょうけど。

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 話が逸れました。五中全会の閉幕を翌日に控えた昨日(10月10日)の
『人民日報』が異様です。「重要論文」(たぶん)連発で、胡錦涛の提唱する「科学的発展観」宣伝キャンペーンの様相を呈しています。実は前日付同紙(2005/10/09)でも似たような特集が組まれていたのですが、今回は質・量ともに一段とパワーアップした観があります。

 という訳で関連記事を並べてみましょう。合計11本。……どうせ読まないから省略しろなんて言わないで下さい。これでも一生懸命集めてきたんですから。

 例によってタイトルの和訳精度には期待しないで下さい。

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 ●改革開放の帆を揚げよう(1面)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2005-10/10/content_3599412.htm

 ●調和社会を建設し社会の安定を守れ(9面)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2005-10/10/content_3599719_1.htm

 ●党による執政の社会的基盤をより強固なものに(9面)
 http://politics.people.com.cn/GB/30178/3752910.html

 ●科学的発展観――全体を統率する指導思想(13面)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2005-10/10/content_3599655.htm

 ●科学的発展観で西部大開発を統率しよう(13面)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2005-10/10/content_3599709.htm

 ●社会主義調和社会を構築する発展観(13面)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2005-10/10/content_3599690.htm

 ●節約型社会建設を加速せよ(13面)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2005-10/10/content_3599675.htm

 ●科学的発展観で正確な業績観を指導しよう(13面)
 http://theory.people.com.cn/GB/49150/49151/3753049.html

 ●科学的発展観の徹底度を高めよう(13面)
 http://theory.people.com.cn/GB/49150/49151/3753058.html

 ●発展理念を改め、新たな発展モデルの構築を(13面)
 http://theory.people.com.cn/GB/49154/49156/3753081.html

 ●より多くの若者が自ら起業へと向かうことを望む(4面)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2005-10/10/content_3599424.htm

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 ……と、合計11本です。圧倒的すぎます。ただ最後の1本「より多くの若者が起業へと向かうことを望む」だけは毛色が違っていて、

「若者よ、政府にはお前らに仕事をあてがってやるだけの甲斐性がない。だから自分でなんとかしろ」

 というのが本当の文意だと思います(笑)。

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 残る10本は
「科学的発展観」「調和社会」の大売り出しです。胡錦涛路線をうたい上げている訳ですが、これはもちろん一種の政争の反映です。「科学的発展観」を前面に押し出せば押し出す分、江沢民の指導理論であった「三つの代表」論が脇に追いやられることになるのですから。

 
「節約型社会」も規模より効率を重視する、という点で「科学的発展観」と平仄が合っています。少ない資源でより多くの業績をあげよう、効率良くやろう、という至極真っ当な考え方ですね。「効率より規模の拡大を」というGDP成長率信仰で突っ走ればよかった江沢民時代にはほとんど顧みられなかったものです。

 要するに「科学的発展観」も「節約型社会」も江沢民型の発展モデルに対するアンチテーゼです。江沢民にとってはカチンとくるでしょうし、高度成長路線で走り続けたい上海市執行部も苦虫を噛み潰したような表情になるでしょう。

 でも江沢民モデルで十年余り走った結果、耕地減少の問題に始まって石油などの資源不足、電力不足、ひいては水まで不足するようになった現状をみれば、胡錦涛の正論に表立って異を唱えることはできません。

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 とすれば『人民日報』による胡錦涛路線の大々的なキャンペーン、これは五中全会で胡錦涛派が大局を制しつつあることの表れでしょうか。……実はそこが難しいところです。常識的にみればこれは一種の「勝ち名乗り」と捉えてよく、されば人事もある程度胡錦涛の思い通りに動かせた可能性があります。

 ただ今回の最重要議題である「十一五」の内容を考えれば、果たして実の伴った「勝鬨」とみていいのかどうか、ちょっと迷ってしまいます。

 省・自治区・直轄市といった本来の行政区分をまたぐ形で経済の役割分担を行い、それによって行政区分を超えた協力や一体感が生まれることで、今なお根強い行政区分ごとの縄張り意識、対抗意識といった
「諸侯」心理を薄めていこう。……というのが「十一五」の主題のひとつです。上海市という「大諸侯」が中央の言うことをなかなか聞かない、というのは「諸侯」心理の最も顕著な実例でしょう。

 他の地区にしても、どこもかしこも開発欲求が高い上にもともと根強い成長率信仰(大きいことはいいことだ)があります。そこには沿海・内陸の別はありません。どの地区も
「上海みたいになりたい」と考えているのです。

 ●都市化の進展を阻む盲目的成長志向、百余都市が「国際的大都市」目指す(「新華網」2005/10/08)
 http://news.xinhuanet.com/fortune/2005-10/08/content_3591687.htm

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 ところが、地理的条件の差というものがあります。内需も見込める現在はともかく十数年前の話です。もし外資が進出するとしたら、輸送コストが節減できインフラも比較的整っていて何かと便利な沿海部がやっぱりいいね、ということになるでしょう。内陸部は内陸であること自体が不利ですし、インフラなどでも立ち後れていますから、どうしようもありません。資源にも限りがありますので、外資の進出している地区が優遇され、さらに有利となります。

 つまり内陸部はこれまでずっと、スタート地点の違う不平等な徒競走を強いられてきた訳です。しかも脚力においても沿海部より劣っている。その結果、経済が走れば走るほど、成長すればするほど、「沿海部>内陸部」という地域間格差が拡大する結果になりました。内陸部が10成長した間に、沿海部は40も50も成長している。勝負になりません。深セン、広州、上海、大連など、同じ沿海部の都市同士でも似たような地域間格差があり、競争意識があるでしょう。

 そこへ「十一五」を持ってきて、

「内陸チームはエネルギー供給役に徹してくれ。中部6省は物流と農業をよろしく」

 などと指示されても、素直にはいわかりましたとは言えないでしょう。みんな上海のようになりたいからです。承諾してみせても面従腹背で、
「上有政策,下有対策」(中央の政策を地方で骨抜きにしてしまう)ということになります。だからこそ胡錦涛は先日ふれたように、自分の子分である「団派」(共青団人脈)をどんどん地方各省・自治区のトップに送り込んでいるのです。同時に中央に従わない上海市のトップを更迭しようと画策しています()。

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 そうやって各地方を中央政府の統制下に置こうとしている訳ですが、地方のトップになったからといってその地域を掌握できるかどうかは別です。

 時代劇風にいえば、江戸から派遣されたお代官様は、地元出身の手代を手なずけなければ仕事が円滑に進みません。その手代に相当するのが市党委書記や県党委書記。地方の真の実力者であり、手なずけようとした代官が逆に手代に踊らされて操り人形になってしまうケースもあります。

 繰り返しますが、みんなが「上海みたいになりたい」と思っているのです(くどいようですがこの点が最も重要なのです)。一方でハコものを造ったり成長率を高めることが業績アップに直結する(効率軽視)という毛沢東時代以来の伝統的な評価基準があります。

 それを崩して効率や環境保護も重視する評価法に改めるというのが胡錦涛のやり方ですが、現実には新しい評価法も固まっていませんし、そうである以上、地方幹部の意識改革も進んでいません。

 ですから胡錦涛・温家宝が苦労して練り上げた「十一五」の「行政区分を超えた経済的役割分担」は、沿海部、内陸部あるいは中部地区のいずれをも満足させるものではないと私は思います。

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 そこで『人民日報』による大々的な胡錦涛路線キャンペーンです。これほどの特集を組めるのですから少なくとも胡錦涛側が頽勢でないことは確かですし、江沢民の指導理論が胡錦涛派によって色褪せたものにされつつあるのも確かです。

 でも、これが果たして真の勝利宣言なのか、地方の承諾(面従腹背)を示すものか、それとも各地方が明確な拒否姿勢を示したため、翻意するよう懸命に呼びかけているのか。現時点の私は判断に迷っているところです。



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