全人代(全国人民代表大会)とともに開催されていた政協(全国政治協商会議)が昨日(12日)、閉幕しました。
閉幕に先立って、政協は噂の「反国家分裂法」を採択しました。採択といっても中国の立法機関は全人代であって政協はその口添え役ですから、「この法律を通すことに賛成」という程度のことです。
「反国家分裂法」については各方面から色々な反発が出ていますが、明日(14日)の全人代閉幕前に正式に採択されることでしょう。
それにしても何というか、中共に焼きが回りつつあることを感じさせる法律ですね。実効支配すらしたこともない台湾を「中国の不可分の領土」などと言っても、実態がないのですから。つまりは虚構を基礎にしているのが「反国家分裂法」です。この理屈、中共の脳内では成立しても、いかに「一つの中国」を承認してもらって各国と国交を結んでいても、ターゲットにされた当の台湾はもとより、国際社会は正面から認知してはくれないでしょう。
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「焼きが回っている」というのは、中共の焦りもそこまできたのかい、という意味でもあります。
前にコメント欄で書きましたが、私は、台湾は時間が経てば経つほど独立派と潜在的独立派(表面上は現状維持)に有利になると考えています。それは、民主化された台湾で生まれ、一党独裁で民主も自由もカケラすら存在しない中共社会に対し著しい違和感・異質感を感じつつ育った世代が増えれば増えるほど、「台湾人」意識が強まり、同時にごく自然に独立意識が高まる(統一にリアリティを感じなくなる)と思うからです。枝葉に構わず、ざっくりとした斬り方でいえば、そういうことになります。
中共にしても武力統一が国運に致命的なリスクを伴うことは理解しているでしょうから、話し合いで統一を実現できるに越したことはない。しかし、時が経つにつれ両者の意識はどんどん隔たっていく訳ですから、統一を捨てない限り、それは武力行使の可能性が高まっていくことに等しい。
とはいえ統一は捨てられない。だから台湾独立派の動きを封じようと、つまり時計の針が進むのを無理矢理押さえ込もう、というのが「反国家分裂法」を持ち出してきた理由のひとつではないかと思います。もちろん、軍部の機嫌取りや先代の江沢民との経緯もあるでしょう。もしかすると、江沢民が「反日」で国民の視線を外に向けさせたように、「反国家分裂法」で中共政権への求心力を高めようという狙いもあるのかも知れません。まあそれを狙ってみても、効果は薄いと思いますけど。
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しかしこれらは中国の手前勝手な理屈であって、国際社会がそれを素直に受け取ってくれるとは考えにくい。現に日米が「2+2」で台湾問題を共同戦略目標に織り込んだ理由のひとつにはこの法案の存在があったでしょうし、シラク訪中でEUの対中武器輸出規制の解禁が実現しそうな雰囲気になってきたのに、日米が口を酸っぱくして反対論を唱えている。もしこの法案を通せば、EUの態度も少し変わるかも知れません。
……ということは馬鹿な御家人でも想像できるのですから、全人代に集った人民代表の中にも同じことを考える人が当然大勢いたことでしょう。実際、大勢いたようなのです。この法案に修正意見が相次ぎ、反体制系ニュースサイト「大紀元」では「その数は200カ所以上」というネット上で流れている情報を紹介しています。
その情報の真偽の程は定かではありませんが、実際に今まで全人代を生中継していた全国ネットのテレビ局・中央電視台がこの法案に限ってはそれを取り止め(上から待ったがかかったとか)、やはり中継しようとしたCNNは例によってプツリと回線を切られてしまったようです(※1)。とりあえず国民に見せたくない場面が多々出て来ると当局は事前予想したのでしょう。たぶんその根拠は政協で、「採択した」とはいえ、また報道には一切出て来ないとはいえ、審議中に色々異論が出たのではないかと思います。
異論は条文の字句、表現の強弱に対するものもあったでしょうし、「どうして台湾だけ?チベットやウイグルとかは範疇に入れなくていいのか?」という意見もあったでしょう。さらに「そもそもこんな法律通して国際的に孤立しないか?」という真っ当なものもあったでしょう。
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現に日米は反発していますし、EU方面の雲行きも怪しくなってきており、少なくともこの法案を支持する姿勢ではないようです(※2)。そして当の台湾では、この法案が採択された際には50万人だか100万人だかの大規模な反対デモが予定されています。陳水扁総統をはじめ、李登輝・前総統もすでにこのデモへの参加を表明。さらには国民党の馬英九・台北市長も「参加しない可能性も排除しないが」と言いつつ、一応参加姿勢を示しているのです(※3)。
先刻NHKのニュース(2005/03/13/20:45)が、中国は法案内の表現を緩和するようだとの報道を行っていましたが、所詮は程度問題であって、要するに字句の表現ではなく、こういう前近代的な趣旨の法律を通そうとしていることに周囲は反発しているのです。それは中共もわかっているでしょうが、それでも通そうというのですから、「焼きが回ったな」としか言いようがありません。
中共の思惑がどうあれ、この法律は日台ないしは日米台の紐帯を強めることになるでしょう。有り難い話です。
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それにしてもやっぱり中共だなと思うのは、テレビ中継の中止にせよ今回の法案にせよ、やることの程度が低すぎるという点です。
愚民政策によって民度の低い社会に胡座をかいてきた中共は、その環境にすっかり慣れてしまって、実は統治者である中共自身の民度も低いまま進歩していないということに気付いていませんね。ですから、愚民を押さえ込む方法には精通していても、一定以上の民度(例えば普通選挙を実施できるレベル)を持った社会に対する有効な働きかけができない。説得力が全くないのです。
例えば、ここに美人がいるとします。一緒になりたいと思っていくらめかしこんで(と自分では思っている)彼女に声をかけてみても、話が合わず、口説けなければ意味がないでしょう。……そして実際、口説き落とせない。だから最後にはこういう力づくの法律に走ってしまう。対香港政策でも明らかになっていることですけど、今回もそれをよく反映していると思います。
性犯罪者レベルとでも言いましょうか(笑)。いやいや真面目な話です。
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【※1】http://www.epochtimes.com/b5/5/3/10/n843993.htm
【※2】http://www.epochtimes.com/b5/5/3/11/n844905.htm
http://www.epochtimes.com/b5/5/3/11/n844930.htm
【※3】http://tw.news.yahoo.com/050312/43/1kxyx.html
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【追記】コメント欄にも書きましたが、全人代は今日(14日)午前、「反国家分裂法」を採択して閉幕しました。賛成票2896、棄権票2、そして反対票0。いやあ久しぶりに「全人代らしさ」を見せてもらいました。(2005/03/14/14:37)
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