日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 うーん悔しいです。せっかく温めておいたネタなのに、先を越されてしまいました。……いや、相手が中国国家統計局+「新華網」なんですから文句を言っても仕方ないのですが。

 全人代(全国人民代表大会=立法機関)の話なんですけど、私にとってこのイベントをみる楽しみのひとつは、首相の政府活動報告を読んで中央政府の言い分を聞いたあと、地域ごとの分科会をのぞくことにあります。流れからいえば経済引き締め基調の2年目にあたる今年はあまり期待できないのですが、それでも「地方の本音」がにじみ出る場所として見逃すことはできません。

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 以前から強調していることですが、中国は多くの対立軸を抱えています。その多くは「不公平」や「格差」で括ることのできるものです。例えば、

 沿海部vs内陸部
 都市vs農村
 官vs民
 富裕層vs貧困層

 ……もちろん沿海部は沿海部同士、内陸部は内陸部同士での争いもあります。これらはトウ小平の「先富論」を掲げ、競争原理の導入と分権化を骨子とした改革・開放政策の導入によって顕在化し、改革・開放の深化によって対立の度が深刻になってきているものです。

 一度この不満が充満して爆発したのを軍隊で押さえ込んだのが1989年の天安門事件です。これで趙紫陽総書記が失脚し、そのあとを継いだ江沢民は「愛国主義教育」「反日キャンペーン」という、目先を逸らすやり方でしのいできました。その初期に経済政策が引き締めから積極路線に転じて、イケイケドンドン状態になったのも幸いしました。

 ただ前述したように、様々な対立軸は改革・開放を進めるほど、つまり経済を走らせれば走らせるほど深刻化するものなのです。その不均衡を是正するために趙紫陽が考えていたのが政治制度改革でしたが、江沢民はこれに手をつけることなく十数年も走ってしまいました。当然ながらいったん押さえ込んだ各対立軸の矛盾が再びどんどん蓄積されて、江沢民から胡錦涛へとバトンが渡されたときには危険水域に入っていました。

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 江沢民が十数年行った「愛国主義教育」「反日キャンペーン」によって、若年層には糞青(自称愛国者の反日教信者)に代表されるような「江沢民チルドレン」が数多く育ち、反日基調の「ネット世論」も生まれた訳ですが、江沢民が引退し、胡錦涛政権が昨秋にスタートしたときにはどの対立軸も危険水域に達しているため、もう「反日」で盛り上がることも難しくなっていました。

 うかつに「反日」で盛り上がってみたらいつの間にか中共政権へと鉾先が向いているかも知れない、という可能性が出てきたのです。胡錦涛政権が江沢民時代に比べ反日度を抑制しているのはそのためです。

 一例として、小泉首相が靖国神社に参拝する。中国政府が抗議声明を出す。で、ネット世論はどうかというと、日本を罵る一方で、日本に対し「抗議・遺憾」としか言えない中国政府の「弱腰」をもなじるのです。「反日」だけでもそうなるのですから、深刻化した各対立軸に火がついてしまうと取り返しがつかないことになります。現に、昨年後半には農民暴動や都市でのデモや暴動、あるいはプチ暴動が多発しました。

 こうした対立軸の矛盾を緩和して中共の延命を図る、というのが私見ながら胡錦涛政権の至上課題です。

 そのために「庶民派」色を打ち出し、汚職撲滅を呼号し、炭坑事故で責任者のクビを飛ばし(また温家宝首相が遺族の肩を抱いてウソ泣きしてみたり)、貧富の格差や失業問題に真剣に取り組んでいるというポーズを示したり、西部大開発を鳴り物入りで宣伝したり、GDP偏重の規模重視型成長へのアンチテーゼとして効率重視の「科学的発展観」を打ち出したり……いずれも危険水域に達している対立軸への対処です。今回の全人代で打ち出された「調和のとれた社会」などは、つまり「不公平」をなくしていこうということで、非常に象徴的なスローガンです。

 ついでに言えば、対立軸を改善するためには既得権益層(抵抗勢力)に対し大ナタを振るう必要も出てきます。ですから胡錦涛政権は統制力を強化するため、一方で言論統制や民間の先走りを封じる施策を進めています。昨年来、胡錦涛の人脈に連なる共青団(共産主義青年団)系の幹部を地方政府の重職に送り込んでいるのもそうです。一方で党内には古臭い政治キャンペーンで浮かれた党幹部に風紀粛正と危機感を持つよう求める。国民に対してもそうです。これが私のいうところの「強権政治・準戦時態勢」です。

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 余談が長くなり申し訳ありません。お察しの通り、標題の「中央vs地方」も中国における深刻な対立軸のひとつです。これも一種の「不公平」を反映したものでしょう。それは「地方vs地方」により増幅された面もあるでしょうが、基本的には地元の開発欲求に中央が資源配分や分権化などで満足に応えてくれない、といったものです。

 でも、もし各地方の開発欲求を中央が全てのんでいたら経済過熱やらインフレやらで大変なことになりますし、資源も資金もとてもじゃないですが賄い切れません。そこで中央は「マクロコントロール(宏観調控)は緩めない」だの「大局を重視せよ」といったことを強調することになります。が、それで地方の不満が解消される訳ではありませんから、注意して眺めていれば、各地の「不満」が機を見て顔をのぞかせることがわかります。そのひとつが全人代の分科会なのです。

 もうひとつ。ワールドカップには地区予選があり、高校野球の甲子園(全国大会)にもまず都道府県ごとの予選があるように、全国大会である全人代にも開催前(だいたい1~2月)に地区ごとの人民代表大会が行われます。例えば省・自治区・直轄市レベルの人民代表大会も形式は全人代と大差ありません。省であれば、省政府トップである省長が政府活動報告を行い、前年の総括と今年の発展計画を明らかにします。

 当然のことながら、温家宝首相が全人代で今年の経済成長目標をGDP対前年比8%増としたように、各地域でも同じような目標設定がなされます。……ここが、面白いところなのです。

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 各地方政府の人民代表大会で発表される新しい1年の成長目標は、往々にして非常に気前がいいです。その結果、その後に開かれる全人代で示される全国成長目標を上回ることになります。もし各地方政府が地元で定めた年間目標を達成したなら……経済は当初の予定よりも過熱し、生産財が争奪戦で値上がりし(その過程は汚職の温床でもある)、インフレ率も予想より深刻な数字となるでしょう。

 例えば中央のお膝元である北京市。昨年のGDP成長率は13.2%。昨年の全国平均実績(9.5%)を大きく上回っていますが、今年の成長目標も9%と、これも温家宝の掲げた全国平均(8%)より高いのです(※1)。だいたい五輪を控え建設ラッシュである筈の北京で、13.2%から9%への急減速が可能なのでしょうか。

 上海市も昨年実績が13.5%、今年の目標は11%前後(※2)でこれも全国平均目標を上回っています。広東省は昨年推計が14.2%、今年の目標は10%(※3)。全国のGDPに占める沿海部の割合は高いでしょうから、北京、上海、広東がこの調子では今年も目標をオーバーすることになるでしょう。

 一方で、内陸地区も負けてはいません。例えばあの「貧困省」である貴州省も今年の成長目標を10%前後としていますし(※4)、甘粛省も昨年の成長率が11%、今年の目標は10%です(※5)。これでは温家宝がホントに泣き出してしまいます(笑)。

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 こういう地方の「暴走」を戒める声も出ています。

 ●両会新華視点:「8%」が示すもの
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-03/05/content_2654350.htm

 この記事では上述した地方政府の「気前よさ」について、

「現在、地方政府の定める目標は一般に国家の示した目標より1ポイント高い。今年でいえば省(自治区・直轄市)なら9%で、その下の市では10%、さらにその下である県レベルでは11%というところだ。これは各地の発展熱が非常に高いことを示しており喜ぶべきことではある。だがこれではどのレベルでも速度の競い合いに終始していることになる。これは一部の地方の執政理念が未だ完全に転換されておらず、科学的発展観が十分に浸透していないことを示すもので、警戒を要する」

 と警鐘を鳴らしています。また同じ記事の中で、于学信・人民代表がその心理について分析を試みてもいます。

「東部(沿海地区)の言い分は『高速成長なしに、全国に率先して基本的な近代化を実現することなどできやしない』というもの。西部地区は『元々の基数が(東部に比べ)低いというのに、成長スピードが低ければ格差は開くばかりだ』と言う。中部地区は『東部と西部が発展しつつあるのに、我々だけ取り残されていい筈がない』となる。だが、いくら理由が1000個あったとしても、考えなければならない点がひとつある。可能性ということだ」

 記事を締めるのは楊聖明・人民代表の言葉です。

「大切なのは自分の地区の現実に立脚して考えることだ。(成長率は)高いところがあっても、低いところがあってもいい。低いのは必ずしも悪いという訳ではないし、高いからといってそれが褒められるべきことかといえば一概にそうだともいえない。経済成長のスピードだけを追い求めることで、我々は今までに何度も痛い目にあってきた」

 人民代表というより中央政府代表という感じですが(笑)、正論であることは確かです。「大躍進」あたりからの伝統がいまなお根強く残っているというところでしょう。

 ただそれにも理由がありまして、地方幹部の実績評価がこれまでずっと規模(成長率)重視一辺倒で、胡錦涛が提唱する科学的発展観に基づいた「効率重視」の査定が行われてない、あるいは浸透していない。だから非効率でも規模の拡大を優先しがちになるのです。……こういう現実を見ずに上のことを言っても誰も聞いてはくれないでしょう。

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 で、こうして各地の昨年実績及び今年の目標値を集めつつ、中央政府の定める目標値との格差をみていこうと資料を集めていたのですが……まあ、愚痴はよしましょう。先を越されてしまったのですから、兜を脱いで「新華網」の報道を持ち出すことにします。

 ●各地のGDP成長率、総計すると全国平均を3.9ポイント超過――国務院(中央政府)が問題視
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-03/07/content_2663385.htm

 もちろん「人民網」などにも転載された記事です。李徳水・国家統計局長が7日明らかにしたところによると、各省・自治区・直轄市から中央に報告された昨年(2004年)のGDPを取りまとめたところ、国家統計局が発表したGDP成長率(9.5%)を3.9ポイント上回り、額面の差は26582億元にも達したとのこと。国家統計局は統計局で独自の調査チームが各地の数値をはじき出して「9.5%」となっているのですが、各地からの報告に頼ってまとめると「13.4%」になるというのです。

 この報道によれば、中央と地方の間ではこれまでもずっとGDPの数値について開きが存在しており、特に経済成長のスピードが速いときほど開きも大きくなるという傾向があるそうです。国家統計局の立場から言っている訳ですから「地方が水増ししている」ということになるのですが、統計局の発表した「9.5%」が正確だという保証もありません。海外の研究者にしてみれば、「どちらもアテにはならないけど、国家統計局は一応全国調査を独自に行った訳だから、そっちの言い分を通してやろうか」というのが正直なところではないでしょうか。

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 ちょっと長くなり過ぎました。言い足りない部分がまだ少しあるのですが、これは次回に譲ります。


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 【※1】http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-01/26/content_2509159.htm

 【※2】http://www.jfdaily.com.cn/gb/node2/node142/node169/userobject1ai782515.html

 【※3】http://www.southcn.com/news/gdnews/sz/hxgd/qh/200501140579.htm

 【※4】http://www.gz.xinhuanet.com/ztpd/2005-01/21/content_3610173.htm

 【※5】http://www.gansu.gov.cn/zwywDitail.asp?id=1930


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