ベストセラー自叙伝「筆談ホステス」の著者で、銀座のNO・1ホステスも経験した聴覚障害者の斉藤りえ(本名・里恵)さん(31)が4月の統一地方選立候補を決め25日、国会内で会見した。出馬する東京都北区議選(4月19日告示、26日投開票)では初となる聴覚障害者の選挙戦。「筆談」が公職選挙法の壁に阻まれる可能性もある。
スケッチブックにあらかじめ書いた出馬理由を、斉藤さんは記者団の目線に気を配りながら、ゆっくりとめくった。「バリアフリー社会」「女性の社会進出」「子育て・少子化問題」が取り組みたい課題だ。
質疑応答もした。決断理由を聞かれ「聴覚障害者であり、母であり、女性でもあります。当事者として(社会を)変えていきたいです」とペンを走らせた。
斉藤さんは、日本を元気にする会の公認候補。代表の松田公太参院議員は聴覚障害者の立候補に「議会が変わらないと街も変わらない。議会でコミュニケーションが取れるよう、斉藤さんが当選して改革してほしい」と背中を押した。
しかし、選挙戦に壁があるのも事実。北区の選挙管理委員会によると、聴覚障害者の区議選立候補は初めて。都の選管担当者も「聞いたことがない」と異例中の異例だ。
ネックは筆談だ。区議選ではビラ配布が禁止されている。また、都の選管によると公職選挙法の「文書図画(とが)の掲示」は主に「選挙事務所」「選挙カー」「候補者が身に着けるもの」「演説会場」「選挙ポスター」の5項目に限られており、それ以外は違反となる可能性があるという。
選挙活動の王道「街頭演説」を複数人に向けて筆談で行った場合、「掲示に当たる可能性が強い」(都選管)という。有権者と1対1で筆談するのは問題ないが「書いたものを渡してはビラ配布に当たる可能性がある」という。
では街頭で、どのように政治方針を伝えれば良いのか-。都選管は「メッセージを選挙カーに掲示するのは問題ない」と話す。273センチ×73センチ以内の文書であれば掲示枚数に制限はないという。手話演説も認められており、斉藤さんの手話を選対関係者が訳して演説する活動は可能だ。
斉藤さんは自身の立候補、そして当選で、「本当の『障害者へのバリアフリー』が起こること」を期待している。
◆斉藤(さいとう)りえ 1984年(昭59)2月3日、青森県生まれ。髄膜炎の後遺症で1歳10カ月で聴力を失う。青森・東奥学園高を01年中退。07年に上京し、銀座のクラブで人気ホステスとして活躍。09年には青森市観光大使も経験。10年6月に栄万(えま)ちゃんを出産。東京都北区在住。
◆「筆談ホステス」 09年に光文社から発売された自叙伝。酒、たばこ、盗みを働くなどの問題児で「青森一の不良娘」とまで呼ばれたが、接客業の楽しさに目覚め、水商売の道で成功していく内容。10年にはTBS系でドラマ化。女優北川景子が斉藤さんを演じた。10年発売の同シリーズ3作目の「母になる ハワイより61の愛言葉とともに…」ではマタニティーヌードも披露した。
[2015年2月26日10時9分 紙面から]