劇団四季でミュージカルの小道具などを制作していた元美術担当の女性が、その技術を生かし、大阪市内の知的障害者施設を拠点に、知的障害者たちの絵や文字などをおしゃれなデザインにアート化し、かばんなどの商品にして販売する活動に取り組んでいる。施設では障害者対象の美術教室を開いているほか、商品の販路拡大にも尽力しており、「知的障害者が社会参加する懸け橋になりたい」と目を輝かせる。
女性は、大阪市東淀川区の知的障害者施設「西淡路希望の家」職員、金武啓子さん。
最近では、施設で働く知的障害者が紙に書いた文字をもとに、外部のグラフィックデザイナー、近藤聡さんとデザインを考案し、月めくりカレンダーを制作した。
日付の数字は、筆やクレヨン、ボールペンなどさまざまな筆記用具で自由に書かれている。台紙の色も、パステルカラーの水色やたまご色など多彩だ。少し崩れた数字もあるが、それが逆にアート性を感じさせる。
サイズはB3判。1000円で販売している。購入者からは「いろんな文字が出てくるのがおもしろい」と好評で、すでに約700部が売れ、現在も販売中。
金武さんは「重度の知的障害者でも、文字なら書くことができる人もいて、商品作りに参加しやすい」と話す。
金武さんは兵庫県出身。演劇鑑賞が好きで、舞台美術の仕事を夢見て宝塚造形芸術大(現宝塚大)に入学。芸術センスが評価され、劇団四季(横浜市)に入団した。技術部門でミュージカル「キャッツ」の舞台に設置されたごみ風の置物や、「オペラ座の怪人」のファントム役のマスク、ヒロインをまねた人形など、物語で重要な役割を担う小道具を数多く手掛けた。
約3年間活躍した後、「ひと通りの仕事をやりきった」と感じて退団。兵庫県宝塚市に移住した。美術関係の職を探していたところ、知的障害者に絵を指導するボランティアの募集を見つけ、応募。知的障害者と交流を深める中で「もっと支援に関わりたい」と思い、平成12年、西淡路希望の家にボランティアとして参加した。
西淡路希望の家では当時、美術の専門知識がある職員はいなかったため、さっそく絵に関心のある利用者たちを集めて月3回、美術教室を開いた。
利用者の描いた絵や文字、手作りした織物などを素材に、手鏡とポーチのセットやぬいぐるみ、髪飾り、バッジなど、アート性の高い商品に仕上げて販売した。次第に口コミなどで人気となり、商品数も10種類以上に増えた。
いまは東淀川区役所で第2、第4金曜の午前11時から販売しているほか、兵庫県と東京都の雑貨店にも流通している。ただ、まだ府内でも販売店がないため、金武さんは販路拡大を目指しており、21~23日には東京都内で開かれる作品展に商品の一部を出品する予定だ。
金武さんは「知的障害者たちが日々の生活で生み出したデザインを、これからも幅広くアレンジして商品化していきたい」と意欲をみせている。
問い合わせは西淡路希望の家(電)06・6323・4991。
2015.2.14 産経ニュース