「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

「無意識の彷徨」 (23)

2007年05月14日 20時49分51秒 | 車椅子社長/無意識の彷徨/コンビンサー
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/47496171.html からの続き)
 

○空

  高い空。
  白い雲。
  清々しい……。
  

○霊園

  広大な空間。青々とした木々。
  明るい花が咲き競う花壇。
  則子の墓石の前に裕司,なつみ,友辺。
  線香の煙が燻る。
  裕司、則子の墓に水をかけて手を合わせ
  る。
裕司「(墓石に)……この頃、お母さんのこ
 と、少しずつ思い出してきたよ……優しか
 ったお母さんのこと……」
なつみ「(目を細めて)よかったね、裕司く
 ん……」
裕司「(ゆっくり立ち上がり)……でも、母
 の事故の光景が目に焼きついて……(辛そ
 うに目を伏せる)」
なつみ「(思いを寄せる)……その強烈な記
 憶はもう消えることはないでしょうね…
 …」
裕司「……僕、考えたんです……もう、逃げ
 てたらいけないんじゃないかって……過去
 から目を背けていたら、僕はまた自分をな
 くしてしまうから……」
なつみ「9才の裕司くんは逃げるしか自分を
 守るすべがなかった。でも今のあなたは…
 …」
裕司「向き合っていくことが必要なんじゃな
 いかって思ってます、消されてしまった記
 憶と……」
なつみ「トラウマを克服するには心のケアが
 大切なの。でもそれは一人でできる作業じ
 ゃない。カウンセリングを受けながらじっ
 くり時間をかけていかなければ……」
裕司「……僕は、本当の自分になりたいんで
 す……」
なつみ「楽な道じゃないけれど、これを乗り
 越えなければ裕司くんの傷は一生消えない
 と思う……。裕司くん、本当にそれをやる
 気持ちがある?」
裕司「……はい(意思の強い目)」
なつみ「(頷く)その言葉を待ってた。カウ
 ンセリングは本人からその気にならなけれ
 ばできないことだから。いいドクターのい
 る病院、紹介するわ」
裕司「お願いします(頭を下げる)」
なつみ「私は警察の心理士だから、ここまで
 しかできないのが本当に残念……(裕司の
 手を取り、じっと目を見つめる)きっと裕
 司くんの心が癒されることを祈ってるよ…
 …(心を込めて)」
裕司「……本当は、恐いんです……でも、き
 っと母が、僕を守ってくれると思います…
 …」
なつみ「(感慨深く)裕司くん……」
友辺「………」
  初めて裕司に穏やかな笑顔が見られる。
  友辺、裕司の肩を叩く。
  裕司の手を握るなつみ。
  三人の姿を見守る則子の墓石、則子の顔
  が浮かんで重なる。
  大きな愛で裕司を慈しむような則子。
裕司M『……お母さん……』
  清爽とした裕司の表情。
なつみ「………(笑顔)」
  見上げる上空に鳥が舞う。

        (終)
 

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