医療マーケティングの片隅から

医療ライター・医療系定性調査インタビューアーとして活動しています。独立30年を機に改題しました。

「病の皇帝『がん』に挑む」

2015年03月18日 | レビュー

 

がん研究の歴史書。わたしのような素人にもとても面白く読めました。

本の内容は、Amazonからの引用によれば、「地球全体で、年間700万以上の人命を奪うがん。紀元前の昔から現代まで、人間を苦しめてきた「病の皇帝」の真の姿を、患者、医師の苦闘の歴史をとおして迫真の筆致で明らかにし、ピュリッツァー賞、ガーディアン賞を受賞した傑作ノンフィクション」なのです。
わたしは、小説よりもノンフィクションが好き。小説もリアルに取材がされたものを再構成したようなのが好きなのですが、この本の「事実」の集積には圧倒されます。 

著者、シッダールタ・ムカジー Siddhartha Mukherjee 氏はコロンビア大学の現役の腫瘍内科医です。
1947年からのがん治療の歴史がほぼ薬物療法中心に描かれているのは、腫瘍内科医という視点からかもしれませんが、それにしてもこの50年の腫瘍内科の発展にはめざましいものがあったと思います。最初はマスタードガスの成分を使ったまさに「毒をもって毒を制す」的な治療だったのです。思わず「いまの時代に生まれてよかった~」と思ってしまいました。

実在のさまざまな人物のなかで、主役と言えるのは、がん化学療法を確立した米国の医師、シドニー・ファーバーと、米国の世論、ひいては政府を動かしてがん研究を推し進めたメアリー・ラスカーというロビイスト。前者は、現在米国でも最も有名ながん専門病院のひとつ、ダナ・ファーバー癌研究所の創設者ですね。 

でも、個人的にはさらに印象的だったのはダナ・ファーバー研究所で1993年、慢性骨髄性白血病の治療薬グリベックの有用性に最初に気づき、製品化を推し進めたブライアン・ドラッカーという医師でした。
自社の研究員がキナーゼ阻害剤を発見したのにもかかわらず、動物実験、臨床試験に1~2億ドルの費用を投じることに「尻込み」していたノバルティス社に、しつこくもあきらめずに繰り返し「薬の開発を中止しないでほしい」と説得し続けたのです。これってふつうは逆ですが、ドラッカー医師は「(ノバルティス側で)薬の臨床試験をするか、さもなければ、私が(個人で)行うのを許可してくれ。さあ、どちらにするか決めるんだ」と迫り、最悪、ノバルティスに創薬するつもりがないなら、ドラッカー医師が「地下の研究室でつくるはめになるかもしれないと考えていた」そうです。

グリベックのおかげで慢性骨髄性白血病は9割近くが治癒するようになり、この薬が分子標的薬の草分けとなりました。
最近、ノバルティス社がグリベックの副作用報告に虚偽があるとか、いろいろ問題点は指摘されていますが、白血病治療において大きな貢献をした薬であることはたしかです。

 
ちなみに上巻を読み終えたのが、2013年の12月。で、下巻読了は昨日(2015年3月)。
電子書籍で読んでいたのですが、途中で前のKindleをお風呂で沈没させてしまったりして、その後、2度目の購入。そんなわけで、えらく長い旅路を終えたような気がしています。
「いくらなんでも遅すぎるだろ」という批判は甘受しますが(笑)、上下巻合わせて800ページを超える大著を出張先などに持ち歩いて読むのはとても無理だったので、電子書籍の恩恵を感じた次第。
今日の日経朝刊によれば、まだ74%の人が電子書籍未経験だそうですが、文字の大きさも変えられるので、高齢の方にもお勧めですよ。
 
 

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