蛾遊庵徒然草

おこがましくもかの兼好法師にならい、暇にまかせて日頃感じたよしなし事を何方様かのお目に止まればと書きしるしました。

ハイビジョン特集、シリーズ東京モダン、「ナオキ」を視る。

2009-01-08 01:37:47 | 日常雑感
1月7日(水)

<番組紹介>から 
 ◆ハイビジョン特集、シリーズ東京モダン「ナオキ」後8:00~
『世界のドキュメンタリー、第一線級の監督が「現代ニッポン人」を見つめるシリーズ。
第2回は、「戦火のバクダットのホテルで外国人客にピアノを聴かせる音楽家の日々」を追った作品で注目を集めたイギリスのベテラン、ション・マクアリスター監督。日本人の滅私奉公ぶりの謎に迫るべく東京で心を開いてくれる人物を探し始めましたが、ついに出会った人物は山形で暮らす中年男性でした。40年前に東京で学生運動に身を投じ、のち事業で成功、バブル崩壊で転落、今はアルバイトしながら20代の恋人とアパートで暮らす男性。歳の離れた二人は何にひかれて共に暮らしているのか?男性が人生の中で大切にしてきたものは何なのか?監督もアパートに半ば住み込んで同棲生活に密着しました。』

この番組、偶然視た。近頃に無く見ごたえがあった。面白かった。哀切でもあった。このドキュメントの主人公「ナオキ」さんが、自身の過去と現在の暮らしの屈託、恋人との間の心理的葛藤を小説に書けば芥川賞ものになるのではとさえ感じさせられた。
 二人のそれぞれの生活の有り方やその間の心の行き違いに付いて、執拗に遠慮会釈なく疑問をぶつけ訊き続けていく撮影者。
 撮影者もまた、二人に絡み合って、自身の声や姿を現すことによって、このドキュメントの面白さというか深みを作り出しているのだ。

 それにしても男と女の関係ほど面白いものは無い。
 女の人というものはつくづく優しいものだと改めて思った。良い女の人には一々損得の計算がないのだ。確かに幼いわが子を川に投げ込むような恐ろしい女もいる。しかしそれは、極々稀な例外でしかない。

 これに比べて、男はどうだろうか。計算の無い良い男なんて我が身を含めて先ずお目にかかりがたいではないか。そしてすぐに奪い合い、挙句の果てが使い切れないほどの金を欲しがり、縄張りを欲しがり、殺し合いから戦争ごっこや勲章が大好きとくる。

 私は、これまでほとんど良い女の人にしか出会わなかった。みんな優しいひとばかりであった。だから女の人が大好きである。だから困る事が多い。このドキュメントの女性も良い女のひとである。

 最初の部分を視ていなかったので、二人の出会いは分からなかったが、多分、女の人が勤めている居酒屋へ「ナオキ」さんがフラーっと入ってきて、酒好きの二人で話が合って、行くあてのないナオキさんに何となく同情して、一晩の宿を貸したのが縁となったのではないだろうか。
 二人の関係を聞かれて、ナオキさんが答える。性的なものではないと。様々なストレスでお互いに駄目なんだと、父親と娘、兄と妹、家族のようなものだと…。
 言われてみれば納得できる気がする。一人暮らし人が猫や犬をわが子のように可愛がるように。
 それが、お互い人間であればなおいいわけではないか。
 心寂しい者どおし一人きりでいるよりは、二人でいることのほうがどれだけいいことだろうか。

 とは言え、二人はしょっちゅう喧嘩する。恐らく女の方としては、まだ若いのになんでこんな一文無しのおっさんと一緒にいなければならないのかと、そんな自分への自己嫌悪にかられることも時にはあるのではないか。
男は男でそんな自分の子どものような年齢の女の紐のような生活のあり方、さればといって生暖かいそこから女を振り捨てていけないやるせなさか。
そして、次第に生活苦から酒量が次第に増えていき、抗鬱剤に頼る女のひとの行く末をも案じての次第。自分が看てやら鳴ければという、女への愛…。

一方、若い女の人には近くにちゃんとした実家がある。そこへ男を伴って行きたいのだが、男は自分と同じ年齢の父親、しかも自分の置かれている惨めな状況を思えば会いたくなくて執拗に拒む。
そのことが元で二人は二週間も口をきかない。見かねた撮影者がとりもってついにナオキさんは父親に会う。会えばどうということはないのだった。

終わり近く、皆でカラオケに行く場面。視ていて救いがあった。
計算され作られたドラマよりも一瞬一瞬の会話にスリルと緊張感があってよかった。

ナオキさんは、一時は家を三軒も持ち居酒屋を経営し、700万円もの外車をキャッシュで買うほど羽振りのよかったときもあったという。
だが、バブルの崩壊で事業に失敗し、銀行も友人も親戚も金を貸してくれず丸裸になったという。
しかし、人生、所詮、貧乏するも、金持ち暮らしをするも一場の遊びと思えばどうだろうか…。