80ばあちゃんの戯言

聞いてほしくて

塾の先生(5)

2010-07-25 19:42:01 | 思い出
 私のところに勉強に来ていた6年生だった男の子が私立の高校に

入ったと言ってきたので、夕方帰宅した息子たちに、そのことを話し

たら、よく入れたなあと二人とも感心していたが、翌日彼の家にお祝

いに行ったら、ご本人が出てきて、
 
 ”荒武先生にあの時教えていただいたお蔭で入れました。”と言っ

 てくれたので、

 ああ、成長したものだと思っていたら、お母さんの言い分は違っていた。

ご主人のご親戚のお子達は一流高校から東大、早稲田、慶応に入っている

ので、うちの子は本当に駄目なんですよと言われたのである。

 


それから数ヶ月して、夜中に電話がなった。 そのお宅からの電話で、

 ”○○がバイクで怪我をして死ぬかもしれない”と言う話しであった。

 眠い目をこすりながら、いろいろ聞いてみたが、どうも余りよくわか

らない。

 とにかく病院へ入院していると言う事だったし、聞いているとそうすぐにも

 死にそうなことにも思えなかったのだが、

 ”お母さん。とにかく落ち着いてください。お医者さんはどうおっしゃって

  いるのですか? おかあさんがしっかりされないとこれからどんな展開に

  なっていくのかわかりませんから、しっかりしてください。 私は、明日

 必ず病院へ行きますから”と言うと、

 ”お医者さんはこれからどうなるかわからないと言っているので、

  もう心配で心配でしようがないから占いさんに見てもらったら、

  一応大丈夫だと言われた。”と言うのであった。

 ”お医者さんはいつでも最悪の状態もありうると言う事を想定して

 ものを仰るのですからご心配は要りませんよ。”と言ってっ電話をきったが、

 私なりにいろいろ想像してなかなか眠れなくなってしまった。

 翌日いろいろと考えてお見舞いの品を持って茅ヶ崎から横浜の病院まで出か

けていったが、部屋番号を聞いてあたふたと廊下を歩いていくと、なんだか

聞いたことのあるような男の子たちの話し声や笑い声が部屋の中から聞こえて

きたのである。

 なんと夕べ今にも死にそうだと言われたご本人がどっかとベッドに座り、友達と二人

で大口を開けて談笑しながらパンをかじっていたのである。

 私は自分の目を疑ったが、

 ”まあ、よかった。たいしたことないようで。夕べお母さんから、あなたが

死にそうだと言う電話をいただいてびっくりして飛んできたのよ。”

 彼は全く普段と同じように友達とおしゃべりを楽しんでいた。ただ足のくる

ぶし辺りを骨折して、ギブスがついていたが・・・。


 この親子さんからは時々びっくりさせられたものだったが、ご主人が亡くなら

 れた後には、お母さんからあれほど聞かされていた東大の話しは全くなくな

った。