80ばあちゃんの戯言

聞いてほしくて

緊急入院(4)

2010-01-21 13:15:56 | 
 それから一ヶ月あまり、私は、毎日せっせと病院へ

通った。

 連休を目の前にしたある日、担当の先生の回診があ

って、

 ”そうですね。もう大分いいようだから、連休明け

 に退院されたらどうですか?” と、仰ったのであ

 る。

 ところが、夫はいそいそと退院の準備を始めた。

 ”あら、まだ一週間もあるのに、まだ早過ぎない?”

 と私が言うと、

 ”どうせ先生は連休中は来やしないから、家へ帰るよ。”

と宣った。

 ”だって、お父さん、ここにいるだけで十万円以上も

保険が多くいただけるのよ。先生もああ、仰っているの

だから、もう一週間我慢してよ。毎日来てあげるわよ。”

と、私は言った。

でも、夫はさっさと退院の手続きをしてきてしまった。

夫の同じ病室で、すぐ退院といわれた方は、連休明け

にしてくれと頼んでおられたのに、まあ、欲のない人。

私の懐具合もしらないでと思わず苦笑してしまった。

 息子の高校時代のお友達のお母さんが保険やさんで、

その頃始まった保険に入れられていたので、一日入院

すれば1万5千円もらえる契約だったのである。

次の日曜日、かの保険やさんが現れて、手続きをして

くれたが、ちょうど家にいた長男と次男が車で駅まで

お送りをした。

二人とも家に帰ってくるなり、お座敷でひっくり返っ

て大笑いをしていた。

あまりにもその笑い声が大きいので

 ”どうしたの?”と、聞くと、おなかを抱えながら

次男が

 ”だって、おかあさん。あの人、私は保険について

 は一切押し売りをしないんですよといったかと思っ

 たら、ところで、今度こんな保険ができましたと

 いったんだよ。”と、二人で顔を見合わせて大笑い

 をしていた。

 彼女は優秀な保険やさんで、当時彼女の支店で

 第一位の成績だったそうだから、そうでなければ
 
 到底一位にはなれないのだろうと、私は思った。

緊急入院(3)

2010-01-16 10:19:54 | 
 ところが、夫がその次にお医者さんへ行った日

夫から沈痛な声で電話があった。

 "この前の検査の結果が出て、入院しろといわれ

 たよ。”

 ”えっ?”

 ”大分長くなるかもしれないから、とにかく俺は

会社へ行ってくる。準備を頼むぞ。”

  霙の混じった雨に、私は身も心も寒くなりながら、

銀行へ行ったり、いろいろ身の回りのものを取り

揃えて夫の帰りを待っていた。

 帰ってきた夫は

 ”この前、腕を骨折して入院したときの薬が悪かっ

たそうだ。 つまり薬害だな。”

 この際理由はどうでもいいとその時は思ったが、

実際はどうであったのだろうかと、今となっては

気にかかる。(笑い)

 そんな訳で急遽入院となって大船の病院へ日参する

ことになったが、夫の荷物を整理してその日は帰っ

たが、翌日行ってみると、夫のすぐ隣のベッドに見

たような顔があった。何だか信じられないような気

になったが、よくよく見ても、それは夫の弟だった。

 弟がにやっと笑って、

 ”僕もびっくりしたんですが、姉さんもびっくりし

たでしょう?”

 と言った。

 日本語の特別上手な(?)夫のことだから、弟が隣に

いてくれるのはほっとした。

 夫は6人兄弟の長男だったし、その弟は年も一回りも

離れているので、それまではあまり家に一緒にいた事

 がなかったので、親戚のおじさんぐらいの感覚だった

 らしい。ともかく、その合宿(?)のお蔭で二人は兄弟

 の感覚を取り戻したようだった。

   (つづく)

緊急入院(2)

2010-01-15 16:26:28 | 
 一週間で夫は退院した。

 それからしばらくして、肝臓が悪いといってお医者様へ

行くようになった。

夕飯のときに

 ”今日は飲まない。”と爆弾宣言(?)があった。

 ”え? ”私は聞き間違えたかと思ったくらい、毎日

飲むことが当たり前に思っていたので、それこそ、

びっくりしたが、まあ、何時まで続くことやらと思わな

いでもなかった。案の定、三日と続かず、二日で、宣言は

取り消されたのであった。

お医者さんに言われての宣言だったわけだから、

 "飲んだらいけないんでしょう?”と一応言ってはみたが、

 そうだというわけもなく、夫は

 ”これが俺にはお薬だ。”と毎日ウイスキーを飲み続け

ていたのだが、さすがに一ヵ月後のお医者様へ行くという

前の晩は飲まなかった。

 翌日お医者様から帰ってきた夫は上機嫌で

 ”今日は医者から褒められたよ。ずいぶん良く節制され

 たんですね。本当によくなっていますだってさ。ワッハっハ”

 (つづく)

   

 
 

緊急入院

2010-01-14 04:10:27 | 
 昨日また続けてマッサージに行ったので、それを

無駄にしないためにも、たまには早く寝ようと思っ

て9時に床に入った。

目が覚めたのは3時少し前。ぐっすり眠ったので、

気持ちがいいが、眠れなくなった。

ふと、30数年も前のことが思い出された。

 夕方の6時少し前のことだった。

 "リーん"と電話のベルが鳴った。

慌てて飛んでいってみると、夫の声で、

 "今から、副社長とマージヤン屋へ行く。飯は

 要らない。”

 ”あ。そう。”

電話は切れた。

 夫は何時も日本語を習いたての外人さんのように、

 最短の日本語で話す。だから、私も、恐れ多いこと

だが、つい、どこかのやんごとないお方のような言葉

になってしまう。たまたま友達でも、傍にいようもの

なら、

”え。それだけ?”と、びっくりされてしまうのだ。

 それから、5分と経たないうちに又、電話がなった。

 ”今から入院する。明日の朝、出社前に、○○君に

 家に寄ってもらうから、下着の換えなどを持ってき

 てもらってくれ。”

 ”え?” 電話は切れた。

 狐につままれたというのはこういうことかと思った。

 ”マージャン屋”と "入院”という二つのキーワー

 ドがどうしてもつながらなかった。

  まあ、とにかく、こちらから電話ができそうもな

  いので、とりあえず、入院に要りそうなものだけ

  纏めておいた。

  翌朝、荷物を取りに来てくれた方に事情を聞いて

  びっくり仰天。

  副社長のご一行様はマージャン屋へ行くべく、

会社の前で、副社長様用の運転手つき車にお乗り

遊ばしたそうな。

  会社のすぐ10メートルぐらいの先の角を曲が

ったところで車が止まり、夫は先に降りて、

  副社長様の乗っておられるところのドアを開け

  るべく手を伸ばし掛けたところで、転倒したと

  か。それで左腕を骨折し、なんと会社の隣の

  病院へ入院したのだという。その少し前から雪

  が降り始めていて5センチほど積もっていたそ

  うだ。 渋谷は坂の町で、余計滑りやすかった

  とは言え、何か漫画みたいで思わず笑ってしま

  った。

   (つづく)


夫の誕生日

2010-01-07 14:11:40 | 
 昨日、最近お友達になった方とお食事をして

いたら、明日の七草の話になった。

私は”明日は夫の誕生日だからお赤飯を炊くの。”

といったら、彼女はくすっと笑った。

亡くなった夫の誕生日を祝う変わり者は私だけ

かもしれないが、何故だか夫の好きだったおこわ

を作りたくなるのである。

はじめの内は、二階の息子たちへお裾分けしてい

たのだが、あまり好きそうでないようなので、近頃

では、仏様にお供えしたら、後は私がいただくだけ

なので、どうしても冷凍することが多くなってしま

う。

夫が急に亡くなってから約7年になるが、後12日で

金婚式というところだった。

”お前の好きなところへどこへでも連れてってやる。”

と,言われていたのだが、まさか金婚式ができないな

んて思ってもみなかったのだが、なかなか金婚式なん

てできないものだとつくづく思う。

 私たちは社内恋愛の末結婚した。

最初に声をかけてきたのは夫の方であったが、最終的

にオーケーしたのは私だった。だからこそ、本当にい

ろいろなことがあったし、並大抵のものではなかった

と思うが、意地でも離婚なんて考えたことはなかったし、

子供からしてみれば、親を選ぶことはできないのだから、

どんなことをしても父親をなくしてはいけないと考えて

耐えに耐えてきたのである。

お蔭で今は、優しい家族たちに囲まれて、何不自由なく

過ごせるというのは感謝、感謝である。

無宗教の私が言うのはおかしいかもしれないけれど、

神様っておられるのだなあという気がしている。