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オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

菅原伝授手習鑑

2023-05-17 11:21:50 | 文楽
5月16日(火)の昼に、国立小劇場で文楽「菅原伝授手習鑑」の初段、二段目を続けてみる。朝の10時45分に開演で、終わったのは17時15分頃。国立劇場建て替えのためのさよなら公演ということで、50年ぶりに出た「安井汐待」などがあり、見逃せないという気がするが、平日ということもあり7割程度しか入っておらず、もったいない気がした。客層は、年金生活者が中心か。マスク率は高く9割ぐらい。

「菅原伝授」は歌舞伎でもよく出るが、寺子屋や賀の祝が中心で、ほかの段はあまり出ない。しかし、通しで見ると、複雑な人間関係や芝居の背景などがよく理解できるので、見逃すのはもったいない気がする。今回は、全五段のうち、初段と二段目の上演で、三段目から五段目までは9月に上演ということで、早くも待ちきれない気がする。

初段は、事件の発端が描かれ、天皇が病気のため中国からやって来た僧に似顔絵を描かせることが出来ず、代わりに天皇の弟を描かせたことから、後の問題に繋がっていくことがよくわかる。また、三つ子として生まれた、松王丸、梅王丸、桜丸がどのような経緯で舎人になったかもよくわかる。そして、菅原道真の「筆法伝授」では、武部源蔵夫婦がどのような経緯で勘当されたかも描かれ、道真の子供を預かる経緯が明らかになる。さらに、天皇の弟と道真の養女の恋も描かれて、二人が駆け落ちする。後の二段目、三段目、四段目の芝居の前提がすべて出てくるので、やはりこれは重要だ。

二段目は、道真が追放となり九州へ向かう途中で母と会う経緯が描かれ、道真を暗殺しようとする事件も起きる。道真誘拐のために、鶏を無理やり鳴かせようとするエピソードなどもある。今回久々に出た汐待の段は、杖折檻の背景を知るためにも大事な場面なので、通しで見るとくっきりと物語が浮かんで面白かった。

これだけの大作なので、語れる太夫が揃うかどうかが一番の心配事だったが、危ないながらもなんとか聴ける水準になっていた。初段の大内は御簾の中で若手が何しろ元気よく声を出す。加茂堤のあいびき場面では希太夫が桜丸を語って頑張っていたが、ちょっと心配。筆法伝授は奥を織大夫が語ったので、これは安心して聴けた。

二段目の道行きは気迫の清志郎が三味線で引っ張るが、太夫は若手が元気よくといった印象。桜丸が希太夫で、斎世が小住太夫、刈谷姫が碩太夫で、碩太夫が大抜擢という印象。東天紅の段を語った小住太夫は長足の進歩を遂げた印象。これならば将来の切場語りも見えてくる。住大夫が18年に亡くなり5年を経過して、やっと呪縛から逃れて大きく語れるようになった印象だった。続く詮議の段は呂勢太夫で、三味線が清治。呂勢はしばらく声の出し方が力んでいて心配だったが、清治が付いて少し良くなった印象。最後は千歳太夫で、安定した語りだった。

太夫も以前は心配していたが、少しずつ次世代が見えてきた気がする。

久々に堪能して、家に帰って食事。しし唐のアンチョビ・ソテー、豚ヒレ肉のカツ。飲み物はカヴァ。食後にチーズと赤。

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