劇場と映画、ときどき音楽と本

オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

N響のベートーヴェンとブラームス

2022-09-23 13:47:33 | 音楽
9月22日(木)の夜にサントリーホールで、N響を聞く。9割程度の入り。素手でチケットをちぎってくれるようになったが、まだアルコール消毒とマスクを求められる。ブロードウェイでも、7月からはマスク不要になったので、早く日本でもやめてほしいものだ。

今シーズン開幕の演奏会で、新たに首席指揮者となったファヴィオ・ルイージの指揮。最初はベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲で、ヴァイオリンはジェームズ・エーネス。N響とはもう20年以上も共演しているというが、聞くのは初めて。素晴らしいの一言に尽きる、見事な演奏。低音から高音まで美しい音色で柔らかく聞かせるだけでなく、途中のカデンツァでは、重音を使いながら二声の旋律を、それぞれ別の表情を付けながら聞かせた。思わず聞きほれた。こういう演奏を聴くと、嬉しくなってしまう。

後半は編成を大きくしてブラームスの交響曲2番。ベートーヴェン的な雰囲気を残しながらも、ブラームスらしい音のうねりも感じさせてくれた。ルイージの指揮は端正で表情豊かな音を聞かせてくれる。イタリア人ながら、ドイツの曲を見事に聞かせた。

帰りがけにいつものスペインバルで軽い食事。トルティージャ、生ハム、キノコと卵と生ハムの炒め物、イカ墨のパエージャなど。

新演出の「ファンタスティックス」

2022-09-20 14:22:42 | ミュージカル
9月19日(月)の昼に、中目黒ウッディシアターで新演出の「ファンタスティックス」を見る。「ファンタスティックス」は1960年に初演されたオフのミュージカルで、40年以上も続演が続いた伝説的な作品。21世紀に入ってからこの作品の舞台は見ていなかったので、ずいぶんと久しぶりに見た。

改めて見る気になったのは、オリジナルの作者トム・ジョーンズの手による青年同士の恋を描いた改作版だったからだ。元の作品では、隣どおしに住む若い娘と青年の恋を描き、それを成就させようとする両方の父親の話だが、今回の作品では若い青年どおしの恋に置き換えられ、両方の母親がそれに絡む話となっている。

他には、二人の恋を助けるために雇われた3人の役者たちと、ミュートと呼ばれるパントマイムで情景描写したりする黙役があるが、今回はこの黙役の女性に置き換えられた。

不思議なようだが、男女の恋を男同志の恋に置き換えても、ほとんど台詞の変更もなく、両方の父親を母親にしても台本の変更はあまりないように感じた。それでも、話が通るのは、オペラでさんざん「読み替え」演出を見せられて、こうしたことに慣れたからだろうか。男女を置き換えるのは、最近のミュージカルでは流行りになり始めていて、「カンパニー」の再演でも、男性主人公が女性に置き換えられる再演がつい最近あったばかりだ。

それでも、今回の上演を見ると、男性が女性に対して「カッサンドラ、・・・・」などと歴史上の美女の名前を挙げる場面では、そのままではうまく行かないので、「アドニス、・・・・」などと、歴史上の美男の名前に変えてあった。これは原作を書いたトム・ジョーンズがまだ関与できたのでやりやすいのだろうが、音楽のハーヴィー・シュミットは亡くなったので、さすがに音楽の改作は難しかったようだ。

男性と女性では、同じ楽譜で歌っても1オクターヴずれるので、ソロで歌う場面は問題ないが、重唱になるとメロディラインの方が低くなったりする逆転を起こす可能性があり、ちょっと難しさがあるような気がしたが、今回の公演でも、1幕の5重唱では、エル・ガヨの旋律よりも、母親の重唱の方が声が高いのでバランスが崩れた印象があり、2幕の若い青年たちの重唱もちょっと苦しいかなという感じが残った。シュミットが生きていたら、おそらくこうした点は見直しただろうと思うので、ちょっと残念だ。

もう一つ、ちょっと難しいなと感じたのは、16歳の娘ルイザを、16歳の青年ルイスにしたことだ。この作品の題名の「ファンタスティックス」は通常「素晴らしい人々」と訳されるが、「一風変わった」という意味合いもある。そしてルイザは「恋に恋する」「夢にあこがれる」ような年頃の少女的な性格に描かれているのだが、男性だとその雰囲気が感じられない。そうした夢想的なムードを描くのは、やはり少女の面影を残すような若い娘とした方が良いように感じた。

勝田安彦は一貫してジョーンズとシュミットの作品を上演してきた演出家だから、きっとベストを尽くした演出なのだろうが、この改作上演にはちょっと無理があるという気がした。

ウディ・シアターは中目黒駅から10分弱なので、天気が良ければ苦にならない距離だが、台風の影響のため大雨で息つくのに苦労した。また、100席ちょっとの小さな劇場だが、上演品質は高いので、もっときちんとした劇場で見てみたいという気がした。音楽はピアノとハーフだけだが、ピアノの酒井萌音は見事に伴奏を付けていて感心した。

雨の中を買い物して戻り、家で夕食。長いもの千切り、長いものバターソテー、豆腐とはんぺんと豆の揚げ物などを作る。飲み物はすランスの白。

文楽「奥州安達原」

2022-09-16 11:36:05 | 文楽
9月15日(木)の夜に、国立小劇場で文楽「奥州安達原」を見る。8割程度の入り。

三段目の有名な「袖萩祭文」を中心にプロローグとおまけの道行きを付けたような構成。勘十郎の遣う袖萩が見どころだった。

最初の朱雀堤は、駆け落ちした娘袖萩と親の平傔が偶然出会う場面。二線級の太夫が4人並び、三味線の清志郎だけが頑張る形。まあ、前座だからしょうがないと諦めた。

続く袖萩祭文の関係は、小住太夫、織太夫、呂勢太夫と中堅が続き、切は錣太夫。中堅の中では織太夫が突出して良い。呂勢太夫は美しい声が持ち味だが、発声が妙に技巧的過ぎて逆に聴きづらくなってしまい、伸び悩んでいる印象。呂勢太夫には三味線で清治が付いたが相変わらず素晴らしい情感を表現する演奏。しかし、しばらくぶりに見ると髪の毛も白くなり、ずいぶんと老けた印象だった。小住太夫は、伸び盛りといった印象で、これからに期待が持てそう。

切場語りとなった錣太夫だが、ちょっと活舌に問題があり、聞きづらい点が目立つ。それでも力演。三味線は宗助で、力強い響きで好感が持てた。

袖萩祭文は最後は、自害が続き、そこで終わったら後味が悪いと思ったのか、おまけに道行きが付いた。しかし、30分弱の幕だが、見ないで帰ればよかったと思うほどの出来の悪さ。万年修行中みたいな太夫が5人並んだが、聞いているのがつらい。三味線も五丁だが、タテを弾くのが錦糸なので、ちょっとかわいそう。人形も踊るのだが、これも出来が悪く、かえって気分を害する結果となった。隣の席で見ていた人は、道行きを見ないで帰ったが、それが正解という感じ。

家に帰って、軽い食事。サラダとパテ・ド・カンパーニュ、マフィン。飲み物は白でシュール・リー。

読響+辻井伸行

2022-09-15 13:46:24 | 音楽
9月14日(水)の夜にサントリーホールで、読響を聴く。セバスティアン・バイグレ指揮で、辻井伸行のピアノ。辻井が出るので満席かと思ったが、9割程度の入りだった。

最初にレズニチェクの歌劇「ドンナ・ディアナ」序曲。19世紀末のプラハ初演のオペラらしいが、初めて聞いた。前菜代わりの演奏としては、軽快で面白い。バイグレはスコアを見ないで指揮していたので、得意の曲なのかもしれない。

続いて辻井のピアノで、ベートーヴェンのピアノ協奏曲3番。久々に辻井のピアノを聞いたが、相変わらず透明感のある音で、しっかりとした演奏ぶりを堪能した。聴衆も辻井に大きな拍手を送り、アンコールで「月光」の第一楽章を弾いた。これも素晴らしい演奏。聴く価値が十分にあると思った。

休憩を挟んで、後半はリヒャルト・シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」。45分間、ノン・ストップの演奏で大熱演。コントラバス8本の大編成で、管は4管編成という感じ。ホルンは何と9本で、ハープも2台。100名を超える大オーケストラで、サントリー・ホールの舞台からはみ出しそうなぐらい大勢並んだ。リヒャルト・シュトラウスらしく、ホルンや金管がうなり、大音響の波が押し寄せる。その中で、ヴァイオリンやヴィオラの美しいソロが時折入った。コンマスの長原幸太のソロの音色をたっぷりと聞いたが、美しい音色で感心した。

大迫力の演奏で、美しい部分もあるが、ベートーヴェンの後に聴くと何となく物足りない印象。やはりベートーヴェンは偉大な存在と、改めて感じた。

帰りがけに、いつものスペインバルで軽い食事。トルティージャ、生ハム、しし唐のニンニク炒め、砂肝のアヒージョ、塩タラのローマ風フライなど。

物集女純子デビュー30周年コンサート

2022-09-10 10:56:22 | 音楽
9月9日(金)の夜に、ヴァイオリニスト物集女純子の30周年コンサートを聴く。横浜を拠点に活動しているらしく、場所は神奈川県立音楽堂。桜木町駅から7~8分だが、坂を上っていく必要があり、夏場にはあまり行きたくないが、幸いそれほど暑くなくて助かった。

初めて行ったホールなので見て回ったが、約1000席で1~3階が連続して繋がった形。客席はかなり急な勾配が付いているので、舞台は見やすいが、座席の列間隔が少し狭いので、出入りがしにくい欠点もある。勾配がきついので、舞台を見下ろす印象となる。

舞台は奥行きがあまりなさそうで、オーケストラの並びは左右に広がる形。残響は長めで、オケの演奏ならばよいが、話などは聞き取りにくい。個人的には残響の長いホールは好きになれない。2階部分で左右のロビーが繋がっていないので、下手側にしかない洗面所に行くのはちょっと不便な印象。

物集女純子はジュリアードに留学して学び、その後もアメリカで長く演奏活動をしていたらしく、ジュリアード時代にはレナード・バーンスタインに教えを受けたとパンフレットにはあった。

演奏される曲目も、前半はバーンスタインの「ヴァイオリン独奏、弦楽、ハープと打楽器のためのセレナーデ」だった。プラトンの「饗宴」をテーマにした曲で、饗宴について少し知識があると面白い。いかにもバーンスタインらしい曲で、「ウエスト・サイド物語」の曲と同じような一風変わった独特のフレーズや複雑なリズムが楽しめる。随分と複雑なリズムだったが、オーケストラは乱れずに見事に演奏した。日本橋交響楽団という初めて聞くオケだったので心配したが、見事な演奏。指揮は志村健一。物集女のヴァイオリンは力強いしっかりとした音色で、途中でマルモササキのチェロと掛け合うところなど、見事な演奏だった。

前半は、管楽器なしだが、後半には管楽器が入ってチャイコフスキーの交響曲4番。志村健一の得意の曲らしく、スコアも見ないで指揮していた。第一楽章は管と弦が溶け合わずにバラバラな印象で心配したが、だんだんと調子が出て、最後にはうまくまとめた印象。

桜木町から1時間以上電車に乗って帰宅。自宅で軽い食事。キャベツのサラダ、サラミ、ツナペースト、イベリコ豚のペーストとパンなど。飲み物はカヴァ。