劇場と映画、ときどき音楽と本

オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

小林紀子バレエの「二羽の鳩」

2024-07-28 11:14:03 | バレエ
7月27日(土)の昼に新国立中劇場で小林紀子バレエ・シアターの公演を見る。フレデリク・アシュトン生誕120周年といいうことで、アシュトンの「レ・ランデヴー」と「二羽の鳩」が上演された。アシュトンの世界祭にも参加するらしい。1階席はほぼ満席で若い人が多かった。2階席はあまり入っていなかったが、販売していなかったのだろうか。3時に始まり、「レ・ランデヴー」が約25分間。20分の休憩を挟み、後半は「二羽の鳩」で、これは2幕なので途中で20分の休憩があった。終演は5時30分頃。伴奏は末廣誠指揮による東京ニューフィルハーモニック。

最初の「レ・ランデヴー」は、アシュトンの初期の作品とプログラムにはあった。8組の恋人たちのランデヴーを描く。物語があるわけではなく、状況設定と性格描写が行われる。基本はクラシックのテクニックだが、ちょっとした動きに新しさもある。音楽はオーベールのフランス・オペラを編曲したもので美しい。

後半の「二羽の鳩」は、若い恋人たちを二羽の鳩に例えている。画家とモデルの娘が恋人同士だが、画家はジプシー娘に一目惚れして、一人娘を追いかけてジプシーたちのキャンプへ行く。そこで娘に求愛するが、ジプシーたちにもてあそばれて、傷付いてアトリエに戻り、モデルの娘と再会し愛を確かめ合う。アンドレ・メサジュノの古いバレエ曲を再利用している。クラシックのテックニックの中に、アシュトンらしい面白い動きが入った作品。生鳩が出てきて椅子に留まっているところに、もう一羽の鳩が飛んできて、並んで椅子に留まり幕となる。踊りもさることながら、観客は鳩の演技に喜んでいた。

二つの作品はどちらも古い19世紀の音楽を使っており、見ていて何となく安心できるし楽しい。最近のバレエは音楽が踊りに向いていないような気がするので、こうした古い音楽を使った作品というのが、光って見えるような気がした。

昔から小林紀子バレエが上演してきた作品だけあって、セットや衣装も含めて完成した美しさがある。ダンサーや楽団演奏の水準はともかく、こうした楽しめる作品を上演してくれるのはうれしい。

帰りがけにスーパーで買い物して、家に帰って食事。冷ややっこ、ナスの揚げ出し、トマトサラダ、マグロの漬け丼。飲み物はビール。


井上バレエ団の「ラ・シルフィード」

2024-07-21 11:16:03 | バレエ
7月20日(土)の夜に文京シビックセンターで、井上バレエ団のバレエ公演を見る。6時開演で、15分と20分の休憩を挟み、終演は8時30分頃。観客層は8~9割が女性で、子供が多い。ロビーには贈られた花も多く飾られていた。7~8割の入りだが、大半はバレエ団とつながりのあるバレエ教室の生徒たちという印象だった。

最初に石井竜一振付による「グラン・パ・マジャル」が20分ぐらいある。コールドとソリストが踊る賑やかな演目で、面白かった。テクニックは完全に古典バレエ。コールドの処理は「白鳥」などの雰囲気があり、ソリストたちの踊りは、ジャンプすると必ずアントルシャ(空中で何回か足を細かく交差させる)が入る。ブルノンヴィル版を上演するのだから、アントルシャが得意なのだろう。題名のマジャルはハンガリーを意味するが、音楽、振付、衣装のどれもハンガリーが感じられなかった。なぜマジャルと付けたのかは不明。

休憩を挟み、「ラ・シルフィード」。この演目は「ジゼル」よりも前の1832年の初演で、元祖ロマン派バレエみたいな作品。フィリップ・タリオーニが振付け、娘のマリーが踊ったが、この振付は残っておらず、現在上演されるのは、後に再振付されたもの。今回のブルノンヴィル版は、当時、パリでこの作品を見たブルノンヴィルが、デンマークで別の音楽で振付けたの物が、現在まで伝わっていて、井上バレエ団の創始者井上博文がベルギーの振付家を呼び上演したもの。井上バレエ団の財産となっていて、定期的に上演している。古風な振付が残っているのが見どころだろう。

これまでの上演では、主要な男性役はベルギーから呼んでいたが、今回は日本人ダンサーになっている。井上バレエ団には男性で主役を踊れる人がいないようで、東京シティバレエと谷桃子バレエ団の男性ダンサーが踊った。プリマとコールドは自前。

ロマン派バレエらしく、ジゼルと同じように1幕は現実世界を描き、2幕は妖精世界の話でバレエ・ブランシュになっている。衣装はロマンチック・チュチュと呼ばれる踝まである長いもの。全体としてよくできた面白い作品だが、1幕の結婚式を祝う踊りがよくできていた。何となく「ラ・フィーユ・マル・ガルデ」を思い出した。

2幕のバレエ・ブランシュも、コールドのフォーメーションを見せるだけでなく、ドラマ性が強く出ていてなかなか良かった。現代のバレエよりもマイムでの表現が多いので、上演前に振付家が、マイムの説明をしてくれたのは良かった。

音楽はロイヤルチェンバーオーケストラで、指揮は富田美里。バレエを専門に振っているだけあって、踊りとピタリと合った音楽で、それほど大きくないオケから、十分な音を引き出しており、優れた指揮だと感心した。

客席に応援団が多かったのか、見どころではブラボーなどの掛け声や、拍手が多く、盛り上がっていた。

雨が降りそうだったので、レストランに寄るのは諦めて、帰りがけにスーパーに寄って買い物をしたら、その間に雷が鳴って豪雨に見舞われた。スーパーで30分近く雨宿りをして、店で傘を借りて帰宅。簡単な食事をとる。前日の残りのガスパチョ、トマトサラダ、イワシのオーブン焼き、サラミ、生ハム、チュダーチーズなど。飲み物はシェリーとボルドーの白。

新国立劇場の「アラジン」

2024-06-15 10:59:26 | バレエ
6月14日(金)の夜に新国立劇場でデイヴィッド・ビントレイのバレエ「アラジン」を見る。ほぼ満席。夜だが、子供も結構来ていて、ほぼ満席。7時開演で、25分と20分の休憩を挟み、終演は10時頃。皇族の一人が来ていたので、SPも警戒していたが、荷物検査はなかった。皇族の隣は芸術監督の吉田都、その隣には振付のデイヴィッド・ビントレイが座っていた。

キャストは4組あり、9回公演で、各組基本は2回だが、福岡雄大と小野絢子の組だけが3回踊る。今回は初日の福岡、小野組を見た。ベテラン二人で安定した踊り。マグリブ人の魔術師役は中家正博、ランプの精ジーンは渡邊峻郁、サファイアの踊りは池田理沙子、ルビーの踊りは木村優里と井澤駿、ダイアモンドは奥田花純という豪華な配役。

ビントレイのこの作品は以前にも見ているが、原作を活かしてアラジンは中国風で、最後には獅子舞やドラゴンの踊りも出てくる。一方、プリンセスの方は中東のイメージで王様は何となくスルタンのイメージ、王宮もイスラム的な美術。魔術師はマグリブ人となっているが、いわゆるマグレブ(北アフリカ)で、ムーア人のイメージ。中国と中東が出てくるので、何となく不思議な印象だが、楽しめる、面白い作品に仕上がっている。

音楽は映画音楽畑のカール・デイヴィスで、バレエ向けのブンチャカ音楽だが、ボロディン風のエキゾチックな旋律などを入れ、モダンな響きを作っている。日本のバレエが全幕物の面白い作品を作れないのは、こうした音楽を書く人がいないからだと思う。音楽的な価値は別として、バレエに相応しい音楽となっている。今回は東京フィルでポール・マーフィの指揮。

1幕は物語の導入で、アラジンのキャラクター紹介、プリンセスとの出会い、魔術師マグリブ人に助けられての洞窟冒険だが、見どころは洞窟内での宝石たちの踊り。どれも面白いが、やはり御贔屓の木村優里が踊るルビーの踊りが良かった。そのほかではダイアモンドの奥田花純も印象的。

2幕ハマーム(浴場)でのプリンセスとアラジンの再会。アラジンが不法侵入で打ち首となりかけるがランプの精を呼び出して王子となり、プリンセスと結婚。

3幕は、魔術師にランプを奪われてプリンセスもさらわれるが、アラジンがプリンセスと協力してランプを取り返し、魔法のじゅうたんで王宮に戻ってめでたしとなる。

ビントレイの振付は、基本的にクラシックの技術を使っているが、少し変わった動きや素早く変化するフォーメーションで、見るものを飽きさせない。ごちゃごちゃ動くので、好き嫌いはあるかも知れないが、スピーディな群舞は面白いと思う。

小野絢子はやっぱり良いなあと思い、すっかり楽しい気分になった。金曜日の夜で混んでいたが、帰りがけにパブで飲みながら軽い食事。サラダ、生ハムとサラミ、シュリンプのフライ、エールビールと黒ビール。飲んでいたら、振付のビントレイと指揮者のポール・マーフィが二人でやって来て飲み始めたので、簡単に挨拶して帰った。

新国立劇場「バヤデール」

2024-04-29 14:15:23 | バレエ
4月28日(日)の昼に、新国立劇場でバレエ「バヤデール」を見る。8回公演で4組のキャストが交替で踊る。いつもベテランで見ることが多いので、今回は初役を踊る若い人の回を選んで見に行った。客席は9割程度の入り。

この作品で中心となるのは、巫女役ニキア、王女役ガムザッティと、ニキヤの恋人役で王女との結婚を求められるソロルの3人。この手の三角関係はオペラ「アイーダ」とも似ている。今回はニキア役に廣川みくり、ガムザッティ役には直塚美穂、二人とパドドゥを踊る男性ニキヤ役は井澤駿だった。廣川と直塚はまだソリストで、井澤はプリンシパル。オーケストラは東フィルで、指揮はいつものアレクセイ・バクラン。

一幕は物語の説明で、3人の関係が描かれる。二幕はガムザッティとソロルの結婚式で、黄金の神像などの踊りやガムザッティとソロルのパドドゥがある。直塚は、そつなく踊ったが、最後に見せたイタリアン・フェッテの連続が、大きな動きで美しかった。二幕の最後はニキアのソロの踊りがあり、蛇に噛まれて亡くなる。このソロの場面ではチェロが憂いのある響きを聴かせる。

三幕は、ニキアを失ったソロルが悲嘆に暮れて、水たばこを吸いながら夢を見て「影の王国」が始まる。映画「愛と喝采の日々」のタイトルバックにも使われた、延々と続くアラベスクの行列があり、美しいコールドバレエを見せる。新国立のコールドの美しさはいつ見てもため息が出るほど素晴らしい。夢の中でニキアとソロルのパドドゥがあるが、今度はヴァイオリンのソロに乗せて美しく踊る。廣川はジャンプも大きいが、演技がうまく、よく情感が伝わった。ソロルの井澤は二人の相手をするので大変だが、とても安定した踊りで、さすがプリンシパルだと思った。

牧阿左美の振付けた版だが、オーソドックスな振付でとても良い。「白鳥」も牧阿左美版が好きだったのだが、ロイヤル版になってしまって残念だ。

新国立のバレエは層が厚いなあと感心して、帰る。帰りにスーパーで買い物して、家で食事。たけのこの水煮があったので、たけのこの若竹煮、たけのこご飯、豆腐のあんかけなどを作って食べる。飲み物は大吟醸。


バレエ「パキータ」

2024-03-11 13:48:47 | バレエ
3月10日(日)の夜に東京文化会館で日本バレエ協会の「パキータ」を見る。3回公演の最終日。3回ともキャストは異なり、題名役を踊るのは、上野水香、吉田早織、米沢唯なので、最もきちんと踊りそうな米沢唯の回を見に行った。それぞれ、東京バレエ、Kバレエ、新国立からの代表か? そのほかのキャストはよくわからないが、各バレエ団からの参加なのだろう。1階席はほぼ満席で、4階席や5階席は空いていた。観客の経済レベルが高いのか、出演者にチケットノルマがあったのか、どちらかだろう。

パキータの踊りは、ガラなどよく出るので、題名はよく知っているが、全幕を通しで見たことがなかったので、こうした機会はありがたい。アメリカ育ちのアンナ=マリー・ホームズの復元版との説明だった。開幕の10分前にプレトークが始まり、ホームズも娘と一緒に出てきて、簡単な挨拶をした。それは良いのだが、バレエが始まったのは開幕予定時刻の15分遅れ。クラシック系の音楽界では遅れてきた人に配慮してか、5分遅れで始まることが多いが、15分も遅れて開演するのは、時間にルーズすぎる。日本の伝統芸能のように時間ぴったりに始めればよいと思う。遅れて入場できないのは本人の責任だから、配慮は必要ないのではないだろうか。1幕50分、休憩20分、2幕1時間という構成。

物語は、貴族の青年がジプシー娘パキータと恋仲になるものの、身分違いで恋は成就しない。しかし、ジプシー娘は昔さらわれた貴族の娘だったことがわかっためでたく結婚というもの。1幕は二人の出会いだが、ジプシー娘たちの踊りが大半を占める。

2幕は、青年の毒殺を目論むスペインの総督がジプシーの親玉と組んで毒殺しようとするのを、パキータが機転を利かせて防止する。そして本当の身分が明らかとなり、最後は結婚式のディヴェルティスマンとなる。

話は分かりやすく、音楽も踊りも楽しい作品で、大いに楽しめる。アメリカ人の振付だから、物語はわかりやすく、照明もきちんとスポットを当てて、見やすい舞台となっている。パキータ役の米沢唯は安定した踊りだけでなく、演技も充実していてさすが新国立のプリマと思った。グランドフェッテでは、36回転したような気がした。相手役の中家正博も新国のダンサーだが、王子様然とした風貌で抜群の存在感があった。新国立劇場では王子然とした男性ダンサーがたくさんそろっているので、あまり感じなかったが、こうした寄せ集めの中で踊ると、素晴らしさが際立つ。

敵役のジプシーの親玉イニゴを踊ったのは二山治雄。昔ローザンヌで1位になった人で、踊りは切れがあってすごくうまかったが、何しろ身長が足りない。170cmないようで、小柄なのでジプシーの悪い親玉に見えない。バレエは言葉がない分見てくれが重要だから、こうしたダンサーは踊りがうまくても主役級は難しく、キャラクター・ダンサーになるしかないような気がする。

衣装は大変豪華で、申し分なし。オーケストラも寄せ集めだが、問題なく演奏していた。指揮はバレエを得意とする井田勝大。

真冬のような寒さの中を急いで家に帰り、作っておいたトマト煮込みのポトフで食事。飲み物はボルドーの白。