劇場と映画、ときどき音楽と本

オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

藤村シシンの「古代ギリシャのリアル」

2019-08-31 10:05:25 | 読書
実業之日本社から出ている「古代ギリシャのリアル」を読む。2015年の発行で、著者の藤村シシンはアニメ「聖闘士星矢」を見てギリシャ神話好きとなり、ギリシャ神話研究家となったようだ。270ページほどの本だが、2/3ぐらいはギリシャの神々の紹介で、それ以外の話が1/3という構成。アニメから入っただけのことはあり、文章は軽くて読みやすい。

ギリシャ神話についてはいろいろな本が出てはいるが、この本ほどは大胆にわかりやすくまとめていないので、全体像を把握するのには便利な本だ。何しろ今から3千年とか4千年前の話なので、現在の常識が通じにくいため、いろいろと補足解説してあるところが良い。また、これまでは気が付かなかったのだが、ギリシャの歴史というのは古代から近代まで飛んでいて中世がないということに改めて気が付かされた。

神々の説明では伝令の神とされるヘルメス(マーキュリー)の項が勉強になった。ある伝統的な通信系電機メーカーの高層本社の上の方に豪華なコンファレンスルームがあり、そこにはヘルメスの像のレプリカが設置されている。通信系の会社だからヘルメスを置いてあるのはぴったりだと思ったのだが、この本を読むとヘルメスには伝令だけでなく、盗賊、詐欺などの良からぬ話もあるということで、そうしたことを知っていたら、本社のコンファレンスルームには置かなかっただろうなと思った。

丹念にいろいろな本からエピソードを拾っているので、これまでは知らなかったような神々の素顔が分かった。この本のタイトル「リアル」というのは何を意味するのだろうと思ったが、読んでいくと「実際の」古代ギリシャの世界を説明するということらしい。

簡単に読めて面白いが、あくまでも入門書であって、体系的な知識を得られるわけではない。しかし、最初のとっかかりには良いと思った。

ボローニャ歌劇場の「カヴァレリア・ルスティカーナ」

2019-08-29 10:57:23 | オペラ
衛星放送の録画で「カヴァレリア・ルスティカーナ」を観る。2017年のボローニャ歌劇場の公演。ヴェリズモ・オペラの代表作ともいえる作品で、音楽が美しくて好きな作品だ。

「カヴァレリア・ルスティカーナ」とは直訳すると「田舎の騎士道」。シチリアの田舎町で、若い娘の結婚相手の男が、元カノで今は人妻になっている女と再び関係して、その元カノの夫が知って復讐をして殺してしまうという話。つまを寝取られるというのは、シチリアでは名誉の問題となるので、当然に相手を殺すしかないわけだ。これは家の問題だから、一族郎党がこれに加勢することもあるだろう。

ヴェリズモ・オペラというのは日本語で言えば、「写実主義」みたいなものだから、リアルに現実を描くことになる。だから舞台も写実的に作る公演が多いような気がするが、このボローニャ歌劇場の公演では、かなり象徴的な演出となっている。シチリアはイタリアでも最南端であり、南イタリアであると同時に北アフリカみたいな場所だが、ボローニャはフィレンツェの北にあるから、まあ、中部イタリアの北か、北イタリアの南あたりという位置づけ。ボローニャから見ると、シチリアは写実的にはいかないのかなあと思った。

この舞台のテーマとなっているのは、イエス・キリストの受難であり、十字架を背負いゴルゴダの丘に登っていくキリストが何度も登場する。それを三人の女たちが追うが、青い服、赤い服、そうしてもう一人は大きな布切れをキリストの顔にかぶせるので、図像学的に考えると、聖母マリア、マグダラのマリア、聖ヴェロニカだということが分かる。ルネッサンス絵画でのおなじみの三人だ。

このキリストが3~4回登場し、最後の場面はキリストが去った(昇天か?)後に、三人の女たちが再び出てきて、残された女を囲み、まるでムンクの「叫び」みたいな顔をして終わる。何をしているかは分かったが、このオペラとどう関係するのか、僕にはちっとも理解できなかった。キリスト教の歴史や、考え方はそれなりに理解しているつもりだが、このオペラの話とは、なかなか結び付かないのではないかという気がする。

それでも、歌手陣は充実しており、抜けの良いイタリアン・テナーを久々に聴き、女性陣の力強い歌も良かった。まあ、オペラなので、歌手が良ければ良いかという気になって観ていた。

東京音楽コンクール 声楽部門本選

2019-08-27 11:09:21 | 音楽
8月26日(月)の夜に東京文化会館大ホールで、東京音楽コンクールの声楽部門本選を聴く。出場者は女性二人、男性三人の五人だ。18時スタートで、一人が20分の枠でオペラのアリアを3~4曲ぐらい歌う。それに途中で20分間の休憩が入るので、終了は20時10分だった。聴衆は声楽家仲間なのか若い人も多く、1階席は6割程度埋まっていた。

今回の応募者は72名で、そのうちソプラノが46名と6割程度を占める。本選に残ったのはソプラノが二人、テノールが二人、バリトンが一人という構成。伴奏は東京交響楽団で豪華なフルオケとなっている。出場者が歌ったのは8割以上がイタリア物で、それ以外では、リヒヤルト・シュトラウス、チャイコフスキー、マスネなどが混じる程度。ワーグナーなどを歌う人はいなかった。

オペラでは、オケはピットの中に入っているので、オケの音量は少し抑えられるが、舞台でオケが並び、その前で歌うとなると、かなりの声量がないとオケに負けてしまう。日本人の歌手はうまく歌える人はそれなりにいるような気もするが、オケと張り合えるだけの声量の持ち主というのは少ない。だかラ、室内のピアノ伴奏で歌曲を歌うだけならば問題はないが、大劇場でオペラを歌える人は限られてくる。審査の重点をどこに置くのかということもあるが、フルオケをバックに大ホールで歌うのだから、やはり声量は大事だろう。

そうした点で、今回の出場者はどの人も物足りず、優勝者は該当なしとなった。過去の受賞者一覧を見ても声楽部門では3回ほど該当なしがある。要するにレベルが低いのだ。良い人がいなければ該当なしで良いと思った。

以前、有名なヴァイオリニスト自伝を読んだ時に、コンクールに出場したが、予選落ちしたことがあって、それは使った楽器が良くなかったことも一因として、銀行から融資を受けて高価な楽器を入手しようと努力するくだりがあった。弦楽器などはストラディバリウスが有名だが、よく響く楽器が大事なのだ。声楽家の場合には、自分自身が楽器みたいなものだから、自分自身の体が良く声を響かせられるように、作っていいかねばならないわけだ。

もちろん、ピアノだったら手が大きく指が長くなければいくら練習してもだめだが、声楽家は自分自身の体をいかに良い楽器にできるのかということが問われているのだと思う。それに加えて、音楽的な訓練が必要だし、イタリア語やその他の言語で歌う時のディクションの問題も大きい。今回の出場者の中にも、どう聞いてもカタカナにしか聞こえない発音で歌った人もいて、本当に声楽家というのは大変だなあと改めて思った。

今回のオケは、東京交響楽団で、男性楽団員はホワイトタイだったが、なんとエンジ色のカマーバンドをしていた。カマーバンドはブラックタイの時の略式なので、どう見ても違和感がある。ホワイトタイならばウエストコートをキチンと着用してほしい。エンジ色のカマーバンドを見てなんとなく安キャバレーの楽団みたいだと思ってしまった。

月曜で行きつけの店が休みだったので、家に戻って食事。サラダとパスタ。飲み物はカヴァ。


東京音楽コンクール ピアノ部門本選

2019-08-25 10:19:34 | 音楽
8月24日(土)の16時から東京音楽コンクールのピアノ部門本選を聴く。16時から始まり、4人の出場者がオケと共演して協奏曲を弾き、終了は18時40分だった。場内は満席で、1階は完全に埋まり、2階正面は審査員席、2階左右も満席、3階の正面にも人が入っている様子だった。観客は若い人から年寄りまで幅広い印象。土曜の夕刻ということもあり、ピアノの人気が高いこともあり、観客数が多いので驚いた。

最初の出場者は男性でラフマニノフの有名な2番を弾いた。生真面目できちんとした演奏のイメージ。聞きなれた曲だが、何度聞いてもこの曲は良いと感じる。この人は二次予選ではモーツアルトとリストを弾き、本選ではラフマニノフという、王道を行くような選択。オケは東フィルで、安心して聴ける。

次は女性でラヴェルのピアノ協奏曲。初めて聞いた曲だが、まるでガーシュウィンを思わせるようなジャズっぽい響きが取り入れられている。この出場者は二次予選ではラヴェルとシューマンを弾いている。ラヴェルが好きなのだろう。うまくオケと絡んだ演奏。

休憩を挟んで、後半の一人目は女性でプロコフィエフのピアノ協奏曲2番を弾いた。今回の出場者の中では一番若い21歳。とても力強い演奏で感心する。結局、この人が優勝となった。二次予選ではシューマンとプロコフィエフを弾いているのでプロコフィエフが好きなのかも知れない。

最後は男性でシューマンのピアノ協奏曲。シューマンのピアノ協奏曲も生ではあまり聞かない作品。ピアノの独奏部分は面白いが、オケの伴奏が単調で少し飽きると感じるのは僕だけだろうか。この人は予選ではブラームスとベルクを弾いている。

ピアノ部門はパンフレットによると131人の応募者がいて、その中から選ばれた4人なので、本選に残った人は甲乙つけがたいと思ったが、ピアノの独奏ではなくオケとの共演なので、オケの演奏に負けないだけの存在感と迫力が求められるのではないかという気がした。

本選の課題曲は、モーツァルト、ベートヴェンから始まり、バルトークやプロコフィエフまでの古典派、ロマン派、近代曲が24曲も挙げられている。これをどれでも演奏できる東フィルもすごいなと思ったが、2次予選に出た13人の選んだ課題曲を見てみると、ベートーヴェン3人、ラフマニノフ3人、プロコフィエフ2人、ラヴェル2人、チャイコフスキー、ショパン、シューマンが一人ずつとなっていた。モーツアルト好きとしては、誰もモーツアルトを選んでいないのがちょっと残念。

ちょうど良い時間帯に終わったので、クラフト・ビールを飲ませるビール屋で食事。クラフトビールを7種類飲み比べる。軽い物から始めてだんだんと強い種類を飲んでいく。最初はベルギー風の香りが良い物、最後はインディアン・ペール・エールで、番外として黒ビールという形。食べ物はサラダやソーセージ、若鳥のローストなど。

今年の夏は一番暑い!

2019-08-24 10:57:37 | 日記
7月終わりの梅雨明けから一気に暑くなり、24時間冷房生活になってしまったが、ここへきてやっと涼しくなる気配が感じられるようになった。なんとなく、これだけ暑いのは生まれて初めてのような気がしたので、気象庁の統計データにより調べてみた。

東京で一番暑いのは8月なので、測定データが残る1875年以降の8月の平均気温を見ると、29度を超えている年はこれまでに6回あった。平均気温というのは、1時間ごとの気温の計測値を平均して算出するものだ。その平均気温が29度を超えているというのは、これはもう熱帯並みではないかという気がする。

これまでで一番平均気温が高かったのは、2010年の8月で29.6度となっていた。今年は8月が終わっていないので、これまでの暫定値だが29.1度となっている。ちなみに、気象庁の東京の観測地点は2014年末に移動したので、それ以降で平均気温が29度を超えたのは今年が初めてだ。

これまでのデータを平均気温と平均湿度だけピックアップすると

1995年 29.4度 68%
2007年 29.0度 66%
2010年 29.6度 67%
2012年 29.1度 69%
2013年 29.2度 70%
2019年 29.1度 80%(暫定値)

ということで、温度は今年が一番というわけではないが、今年は湿度がやけに高いということが分かる。他の年よりも約10%ぐらい高いのだ。

そこで、環境庁が算出している暑さ指数(WBGT)の考えてみる。この暑さ指数というのは熱中症になる危険性を表す数字で、気温が乾球による測定なのに対して、主に湿球温度で計測する方法だ。そのほかにも輻射熱なども計算に入れるようだが、気温と湿度からの近似計算は煩瑣なので、早見表で確認すると、

気温29度で湿度65%の場合の暑さ指数は27度
気温29度で湿度70%の場合の暑さ指数は28度
気温29度で湿度80%の場合の暑さ指数は29度
となっている。

湿度が10ポイント上がると、暑さ指数は1~1.5ポイント程度上がると考えてよい。

そうしたことを考慮に入れると、体感温度としては、今年の夏が史上最も暑い夏だということになりそうだ。

これは地球温暖化のためなのか、東京の都市化のためなのか、あるいはその両方なのかは専門家ではないので判らないが、早く涼しくなってほしい。

ちなみに、都市化の影響を受けていないと思われる小笠原諸島の父島の観測データを見てみると、平均気温が29度を超えたことは一度もないし、1960年代と現在を比較しても、平均気温はほとんど変わっていないようにも感じられる。だから、東京が暑いのは主に都市化によるものだという気がする。

こういう問題は気象の専門家がきちんと分析をして、説明してほしいと思った。