劇場と映画、ときどき音楽と本

オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

新国立のジゼル

2022-10-30 13:17:21 | バレエ
10月29日(土)の夜に、新国立劇場で新製作のバレエ「ジゼル」を見る。場内はほぼ満席で、人気の高さがうかがえる。今回のプロダクションは、ロイヤルバレエで上演している振付、演出版で、美術や衣装もほぼそのままといった印象。小野絢子、米沢唯、木村優里、池田理沙子、柴山紗帆と5人が交代で、全9回の公演だ。誰を見るか迷うが、硬いところでベテランの米沢唯と渡邉峻郁の回を見た。

全体として、ロイヤルで練り上げられただけあって、演劇的にわかりやすく、衣装やセットも豪華で面白い。ジゼルを踊った米沢は、一幕の若い村娘のおきゃんさ、王子に裏切られたと知った時の絶望感と狂乱、2幕の王子をウィリーからかばう優しさなどをうまく表現した見事な踊りだった。王子アルブレヒトの渡邉も、いかにも王子らしい立ち振る舞いが良いだけでなく、見せ場の踊りを見事に踊った。

ミルタ役はまだ若い根岸祐衣だが、役柄にあっていて、若々しいウィリの女王だった。全体としてよくできたプロダクションで、こういう上質のバレエをいつも見せてほしいと思った。オーケストラは東京フィルでウクライナ出身のアレクセイ・バクランの指揮も良かった。聴衆も大喜びで、1階席は総立ちのスタンディング・オベイションとなり、場内が明るくなっても、拍手はなかなか鳴りやまなかった。

気分が良くなって、帰りがけに中華料理屋で軽い食事。乾し豆腐の和え物、山芋の岩ノリの揚げ物、小籠包、イカの香味炒めなどを肴として、5年物の紹興酒を飲む。シーズンなので、上海ガニを注文しようと思ったら、昨年までの価格の1.5倍ぐらいになっていたので、怯んで注文できなかった。円安の影響おそるべし。





N響の北欧プログラム

2022-10-28 17:24:24 | 音楽
10月27日(木)の夜に、サントリーホールでN響の北欧プログラムを聞く。指揮者はヘルベルト・ブロムシュテット、ピアノがオリ・ムストネン。8~9割の入り。

ブロムシュテットは、95歳ぐらいだが、まだ現役で指揮している。昨年聞いた折には、自分で歩いていたが、今回はコンマスに支えられて歩き、指揮の時には座って振っていた。それでも、2時間近いコンサートを指揮するだけの体力があり、驚異的だと思った。元気な様子を見ると、尊顔を拝するだけでありがたいという気がしてくる。

プログラムは、前半がグリークのピアノ協奏曲。フィンランド出身のムストネンのピアノ。ムストネンはピアノだけでなく指揮の活動もしているようだが、ピアノは超絶技巧系の弾き方で、あんなに早いテンポでこの曲を聞いたのは初めて。一音一音が独立して美しく際立つような弾き方で、すべての音がクリアに響いた。いつも聞くスタインウェイのピアノだが、その音色まで普段と違って聞こえたのでちょっと驚いた。あまりのピアノのすごさに、ぐいぐいと引き込まれて、オーケストラを聞くのを忘れるほど。近年聞いたピアノの中では一番ショッキングな演奏だった。

後半はニルセンの交響曲3番で、コントラバス8本のフル編成の弦が大音響で響いた。金管の響きなどはやはり20世紀初頭と響きだが、今聞いても十分面白かった。

全体としては、ピアノの印象が強く残って、グリーグの曲をいろいろと聞き比べてみたくなった。

帰りがけにいつものスペインバルで軽い食事。トルティージャ、ハモン、イワシのエスカベッシェ、しし唐のソテー、サケのソテーなど。

レオポルドシュタット

2022-10-26 11:20:19 | 演劇
10月25日(火)の昼に国立中劇場で、「レオポルドシュタット」を見る。1時開演で、休憩なしの2時間20分。高校の団体が入っていたが、サイドには空席があり、7~8割の入り。

イギリスの劇作家トム・ストッパードの最新作の劇で、もしかするとこれが最後の作品かもしれないとも言われている。題名のレオポルドシュタットとはウィーンのユダヤ人ゲットー地区の名称だが、物語はそこから抜け出るために、キリスト教に改宗して金持ちの工場経営者になった男とその一族の話。

1899年から始まり、1924年、1938年、1955年と移っていく。この時代設定が大きな意味を持っているので、この年代からピンと来るように事前にウィーンの歴史を読んでおかないと、事前知識なしの日本人にはちょっとわかりにくいかもしれない。

1899年は、ハプスブルグ王朝最後の黄金時代で、支配地域からウィーンを目指して多くの才能ある人々が集まってきた時代だ。フロイトの「夢判断」、クリムトの絵画、数学者リーマンの予想、シュニッツラーの小説、マーラーの話などが話題に登場する。主人公のヘルマンはユダヤ人だが改宗してキリスト教徒となり、キリスト教徒の妻と結婚するが、その妻が非ユダヤの軍人将校と浮気するので、ユダヤ人であることを思い知らされる。一家の子供たちは過ぎ越しの祭りの種無しパンに夢中になったりしている。ユダヤの風俗習慣が丹念に描かれている。

1924年になると第一次世界大戦の結果、王朝はなくなり、若い娘はチャールストンを踊り、共和国では社会党が政権を取り、労働運動も盛んになっている。一家の話題は、新しく誕生した男の子に割礼をすることだ。ここでもユダヤの慣習が続いている。

1938年になると、ナチスドイツはオーストリアを併合して、ユダヤ人を迫害する「水晶の夜」の事件が起き、一家も住居を強制退去させられて、チリジリとなってしまう。

最後の1955年の場面では、第二次世界大戦後、やっと独立したオーストリアの時代だ。一族では大半の人が亡くなり、残った3人が再会するが、8歳でイギリスに渡って育った青年は、ウィーン出身のユダヤ人であることをすっかりと忘れて、現在の自分の生活を築いている。しかし、3人が衝突して、昔の家系図を確認する中で、そのルーツを思い起こす。

1899年部分が1時間で、その後の時代は20~30分ずつという構成。さすがにトム・ストッパードだと思わせる魅力的な芝居で、何となく感動した。

美術や演出も的確だが、主演のヘルマンを演じた浜中文一の演技が際立ってお粗末。どうしてこういうキャスティングをするのか疑問だ。もっとうまい役者はいくらでもいるだろう。あと、場面転換時に流れる音楽の音量が妙に大きすぎて耳が痛くなる。普通の音量にしてほしい。

まあ、久しぶりに面白い芝居を見て、家に帰って食事。かぼちゃのスープ、ほうれん草のクリーム・ソテー、サルティンボッカなど。飲み物はイタリア南部の赤。

バッハの教会音楽のゆうべ

2022-10-24 14:35:51 | 音楽
10月23日(日)の昼に、杉並公会堂でバッハの「教会音楽のゆうべ」を聞く。バッハ研究会合唱団の第39回演奏会で、演奏会には「夕べ」となっているが、昼の2時から4時のコンサート。聴衆は3~4割といった感じ。小編成のオーケストラとソプラノ、カウンターテナー、テノール、バスの独唱者がいて、40~50名程度の合唱団が歌う。合唱団は女性比率が高い。また、皆マスク付きで歌っていた。

演目はカンタータが4曲。バッハは教会がスポンサーだったから、毎週のように教会音楽を書いていたので、教会音楽は多いがまとめて聞いたのは初めて。聴いていると、オーケストラの短い演奏に続き、合唱があり、続いて独唱者が歌い、また合唱、独唱、合唱となり終わる感じ。同じような曲に聞こえても、それなりに構成は工夫してある。

曲調から判断すると、歌詞の内容と曲には密接な関係があるようだが、演奏が始まると場内の照明が落ちて暗くなるため、せっかく配られた歌詞を見ることが出来ず、残念だった。こうした歌詞を見るような演奏会では、場内の照明は明るいままでよいのではないかと思う。

2番目のカンタータ「汝平和の君、主イエス・キリスト」BWW116の第4曲はソプラノ、テノール、バスによる3重唱のアリアで、カノンのように旋律が積み重なっていて大変面白かった。

カンタータでもアリアとレティタティーヴォが区別されていて、アリアはオケの伴奏、レチタティーヴォは通雄低音楽器(チェロとオルガン)といった感じだが、レチタティーボの中にも、オーケストラの伴奏つきがあったので、結構何が違うのだろうと考えた。

2台のピアノが奏でるバレエの世界

2022-10-23 10:33:57 | 音楽
10月22日(土)の昼に、東京芸大奏楽堂で2台のピアノの演奏するバレエ音楽を聴く。芸大の企画で、芸大の卒業生や教授などが、6組12人登場して、有名なバレエ曲を弾いた。1000席程度のホールだが、8割近い入りだった。奏楽堂は初めてだったが、なかなか良いホールという印象。ただし、椅子が革製の凝ったものなので、長く座っていると腰が痛くなる。

曲目は、チャイコフスキー(くるみ割り人形)、ファリャ(三角帽子)、ラヴェル(ダフニスとクロエ)、ドビュッシー(牧神の午後への前奏曲)、プロコフィエフ(ロメオとジュリエット)、ストラヴィンスキー(火の鳥)。半分ぐらいはディアギレフのロシア・バレエ団が初演した曲目。バレエ曲はリズムが明確でどれも楽しいので好きだが、連続して聴いた中では、ファリャとストラヴィンスキーが突出して面白かった。ファリャはスペインの土着的な旋律感があり、ストラヴィンスキーは独特の激しいリズムが魅力的だ。

コンサートで聴いたことのある人は、伊藤恵しかいなかったが、やはり芸大の教授クラスだとうまい人がたくさんいるのだなあと、改めて感心した。ピアノ1台だとオーケストラ編曲版から音を間引かないと成り立たないが、2台あるとほとんどの音が入っているので、面白い。ただし、音色は同じなので、リズムや旋律に変化があったほうが楽しめるという印象。

途中15分間の休憩を挟み、各組20分程度の演奏だったので、17時過ぎに終演。帰りがけに行きつけのビストロで食事。ブータンノワールのテリーヌ、鴨のマーマレード煮込み、レモンのタルトなど。飲み物はラングドックの赤。