劇場と映画、ときどき音楽と本

オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

中村蓉の「邦子狂詩曲」

2024-08-10 14:33:41 | ダンス
8月9日(金)の夜に東京芸術劇場のシアターウエストで、中村蓉のダンス「邦子狂騒曲」を見る。7時半開演で、途中10分間の休憩があり、終演は9時25分頃。9時30分から15分程度の対談もあった。途中で神奈川の地震があり、安全確認のため約10分ほど中断があったが、無事再開された。エプロンステージの張り出しがあるので、収容人数は200名ちょっとだろうと思うが、ほぼ満席で、比較的若い年齢層が多かった。

東芸ダンス・シリーズの一環で、コンテンポラリー・ダンサーの作品を紹介するシリーズのようで、今回は中村蓉のダブルビル。二期会のオペラの演出・振付を中村蓉が担当したのを見て面白く感じたので、彼女の作品がどんなものだろうと思って見た次第。今回の作品は向田邦子の作品にインスパイアされたもので、「向田邦子へのオマージュ」といってよいような内容。

前半は短編小説「花の名前」に題材をとったもので、俳優の福原冠が朗読調で語るのをバックに、中村蓉が主人公役となって踊る。もう一人、二期会のメゾソプラノ和田美樹子が長谷川ミキのピアノに合わせて少し歌う。ダンスと朗読、歌と別れるのではなく、中村蓉も台詞を語り、福原や和田も登場人物の一人を演じて踊る。原作の小説を読んで、こんな話がコンテ(ンポラリー・ダンス)になるのだろうかと思ったが、見てみると朗読劇といった印象。大半は朗読に合わせたマイム調の動きだが、途中で主人公の心理が動揺する場面はトルコ調の音楽で心理描写をした。終わりはドビッシーの音楽が流れ、最後には「恋人よわが胸に帰れ」という曲が使われていた。浮気した旦那に未練があるのを表現したのだろうか。福原はマイクを使っていたが、小さな劇場なので生声でやったほうが良い。マイクを通すと、かえって聞きづらいし、細かいニュアンスが出ないので、損をしている。

後半の「禍福はあざなえる縄のごとし」は、ダンサーの島地保武と西山友貴が大半を踊る。いくつかの向田邦子作品からテーマを選び、それをダンスで表現する。前半は物語があったが、後半は言語化されたテーマを踊るイメージで、テーマを身体表現するのだが、何となく昔のテレビ番組「ジェスチャー」を思い出した。表現が日本舞踊でいうところの「あてぶり」なのだ。途中で前半の3人も加わり「シチュエーション」が示される場面は、前半と同じように物語性が感じられた。島地の踊りは、動きの一つ一つにクラシック・バレエの基礎が感じられて、美しさがあった。

コンテは、抽象的な作品やテーマが多く、退屈させられることが多いが、中村蓉の作品は演劇の延長線上にあるとも言え、退屈せずに楽しめる。前半の「花の名前」でのダンスの役割は、オペラにおける歌と同じように、心理描写に使われたわけで、それ以外はマイム。逆に後半は全体がマイム的なダンスでとなっていて、途中で簡単なプロットが出るという構造になっていた。

これをコンテと呼ぶのが良いのかはよくわからないが、面白かったことは確か。ブロードウェイでも、ジャスティン・ペックの振付けた新作「イリノイ州」が、果たしてミュージカルなのか、何なのかと話題になっており、ダンス界でもいろいろと面白い動きがあるのだなあと、思った。全体として面白いのだが、衣装は陳腐。まるで美大生の習作のようだった。

夜になっても暑いので、買い物して帰宅し、家で軽い食事。生ハム、サラミ、アンチョビ・オリーブ、バゲットとチーズ。飲み物はイタリア産スプマンテ。

踊りの祭典

2019-11-10 10:01:41 | ダンス
11月9日(土)に、新宿文化センタ―で行われた「国際都市新宿・踊りの祭典2019」を観る。「国際都市」を標榜する新宿区が毎年実施している世界各国の踊りの発表会で、居ながらにしていろいろな国の踊りを見ることができるので面白い。大ホールと中ホールと、エントランスの三か所を使って15~20分ぐらいの枠でいろいろなグループが踊る。もちろん、ジャズ・ダンスみたいなものもあるが、メインとなるのは世界各国に民族舞踊。日本の踊りもある。新宿区で活動しているグループが中心だが、特に規定があるわけではなさそうで、近県からも来ていた。

もちろん、プロではなくアマチュアのグループだから、うまい下手はあるが、民族衣装などで着飾った姿は一流だ。凝ったグループは伴奏の音楽も生演奏で、これもまた楽しい。

午前11時から始まり、19時頃までやるので、とても全部は見切れないので、タイム・テーブルを見て面白そうなところだけ見てきた。

お昼前に近所のネパール料理屋でカレーのランチを食べてから見に行った。最初はミャンマーの踊り、続いてスコットランド、ギリシャ、オーストリアの宮廷ダンス、西アフリカのアフリカン・ダンス、タイの舞踊、メキシコの踊り、韓国の踊り、インドの民族舞踊、キューバのサルサ、ベリーダンス、ガムラン音楽の生演奏と踊り、と約3時間の間に12種類の踊りを楽しんだ。

それにしても、踊りの中心となっているのはおばちゃんや、おばあちゃんの世代で、その元気さには驚いた。日本人だけのグループ、各国の人が指導しているグループなど様々だが、世界にはいろいろなスタイルの音楽や、ダンスがあると実感して面白かった。

新国立劇場の「夏ノ夜ノ夢」

2018-08-25 17:13:48 | ダンス
8月25日(土)の昼に新国立の中劇場で「夏ノ夜ノ夢」を観る。japon dance projectと新国立バレエ団のコラボによる作品。題名からしてシェイクスピアの作品のダンス化だと分かるが、それ以上の情報はない。米沢唯も出るので観ておこうという程度。配られたパンフレットを見ると、音楽に何を使うのかが書いていない。追加音楽として井上裕二と書いてあるので、ベースとしてはメンデルスゾーンかななどと思う。台本とか構成というのがないのも僕には不思議で、突然に演出・振付がjapon dance projectとなっている。5人の合作らしい。

作品は一部と二部に分かれていて、一部は約1時間、20分の休憩が入り、二部は約30分だった。客席は満席だった。

一部はシェイクスピアの話をベースとしているようで、オベロン、タイターニア、パックのほかに二組の恋人たちが登場し、そのほかに森の精らしきダンサーが7人ほど登場。米沢唯と渡邊峻郁が一組の恋人役を踊る。恋人たちの衣装は似ていて、役柄の紹介部分もあまりないので、原作の話を知っている人しか物語は判らないだろう。いずれにしろ、あまり明確なプロットで踊るわけではなく、コンテの寄せ集めのような踊りが続く。

音楽は最初はメンデルスゾーンで始まるが、途中でパーカッションと管楽器になったり、タンゴになったりして、踊りに合わせたのかも知れないが、統一感は感じられない。一幕を観終わって、一体何が言いたいのだろうと、意味不明な舞台と感じた。

二幕は、舞台の上方にそれまでの舞台衣装が吊るされていて、ダンサーたちは白っぽいレオタード姿で登場。ただし、皆仮面をかぶっている。仮面を取ろうとして様子を見るが、周りが仮面をかぶっているので、自分も被り続けたままで集合写真を撮ったりして、その後に解散。皆で走り回り、奥の扉が開いて光り輝く空間に一人が出て行く。

役が終わっても、出演者たちはまだ仮面をかぶって演じていると言いたいのかなと思って見る。踊りのムードはピナ・バウシュの亜流といった感じ。途中で、君が代の曲が流れたりして、どんな意味があるのか判らぬが、電子音のような音が次第に大きくなる。なんとなく、映画「2001年宇宙の旅」の最後の場面を思い出す。

終わっても拍手はまばらな感じ。観客も良く分からなかったのではないだろうか。ブーイングがなかったのが不思議なくらい。時間と体力の無駄だった。

いつも外食する時には、事前にその店のメニューをきちんと見て、どのような料理を出すのかいつも研究することにしている。初めての店で、なんとなく入ると、期待外れに終わり、一食損をした気分になるからだ。毎日、朝食は別として昼と夜で二食を食べる。一年間で、食べるのはせいぜい730食だ。そのうち一回分を損すると大変だから、メニューの検討は慎重にする。

舞台を観るのも同じで、よっぽど事前にスタッフやキャストを確認しないと危ないという気分になった。劇場を出るとまだひどい暑さが残っていて、とても出歩く気にならず、まっすぐ家に帰り、家の冷蔵庫にあるもので食事することにした。

振付のジリアン・リンが92歳で亡くなる

2018-07-03 14:11:20 | ダンス
ニュースを読んでいたら、7月1日に振付家のジリアン・リンが亡くなったとのこと。イギリスの振付、演出家なので日本ではなじみがないかも知れないが、「キャッツ」や「オペラ座の怪人」の振付家で、「オペラ座」の映画版の振り付けも担当した。

もとはバレエ畑の人で、今でいうロイヤルバレエの前身のサドラーズ・ウェルズのバレエ団に所属していた。デビューは第二次世界大戦中で、当時は「眠れる森の美女」のリラの精とか、「ジゼル」のミルタ役を踊っていたので、それなりに優れた踊り手だったのだろう。その後もいろいろな舞台で踊っていたが、振り付けに転じるのは1960年代中頃から。

ブロードウェイでアンソニー・ニューリーの「ドーランの叫び」やイギリスのミュージカル「ピックウィック」の振り付けを担当した。テレビやオペラなどの演出や振り付けも担当して、映画版の「心を繋ぐ六ペンス」も振付けている。

その後名前がよく知られるようになったのは、「キャッツ」や「オペラ座の怪人」の振り付けを担当してから。21世紀に入ってからも活躍していたが、7月1日にロンドンで亡くなったとのこと。ロンドンの劇場では彼女の死を悼んで、1分間の消灯を7月2日に行ったらしい。

久しぶりに「心を繋ぐ六ペンス」の踊りを見ようかと思った。

新国立劇場バレエ研修所の発表会

2017-11-19 12:46:06 | ダンス
「オータム・コンサート2017」と題されて実施された、新国立劇場バレエ研修所の発表公演を11月18日に観る。公演は中劇場で、18日と19日の2回公演で、演目は同じだが、配役は異なる。概ね6~7割程度の入りで、バレエ関係者が多いムード。オペラ公演とは異なり、年齢層はぐっと若く、すらりとした人が多い。バレエをやっている人は首が延びて、美しく立っている。

今回のプログラムは、2部制で、途中の25分の休憩を入れて全体が2時間。1部は『海と真珠』、『ジゼル』、『海賊』、『ガイーヌ』などからのパ・ド・ドゥなどが踊られ、ヴィデオ映像で、研修所でのレッスン風景の紹介がある。一部の最後は、バーを使ったキャラクター・ダンスのレッスンが舞台上で行われる。

2部は『くるみ割り人形』の2幕からのディヴェルティスマンの抜粋で、『スペイン』、『中国』、『棒キャンディ』、『金平糖と王子のパ・ド・ドゥ』、『フィナーレ』といった構成で、最後は4月に新しく入った14期生の簡単な自己紹介があって終わる。

今回は13期と14期の発表会という位置づけで、それぞれ6人ずつ。予科生5人も加わっているので、全体で出演者は17名+ゲスト出演の男性ダンサー一人。研修生の男女比は男性3人と女性9人。予科生は5人全部女性という比率。

オペラ研修所は、大学修士卒程度というから20歳代半ばぐらいで入り、3年間学び30歳弱での卒業だが、バレエの方は10歳ほど若い。予科生は中学卒業後の15~16歳が対象。研修生は17~18歳が対象で、いずれも2年間の研修期間。どちらのコースも授業料がかかるが、研修生の方はそれを上回る奨学金が得られる。ローザンヌのバレエ・コンテストで時折日本人が入賞してニュースになるが、ローザンヌでの出場資格は15~18歳なので、バレエ研修所というのは大体その位の人たちが対象だと考えればよいのだろう。

だから、発表会の舞台でもそれほどすごくうまいと感じるわけではなく、若い人が一生懸命に踊っているというのを見る感じ。しかし、現在は新国立のプリマとなっている小野絢子もバレエ研修所の出身だし、最近では木村優里のようなスターも輩出しているので、気になって観ておこうという気になる。

音楽は録音音源だが、『くるみ割り人形』では簡単な書割の背景もあり、衣装も豪華なので、見ている方も踊っている方も結構楽しい気分になる。

少し雨模様だったので、家の近所のスペインバルにて軽く飲む。タコのガリシア風や、カキのアヒージョなど。