劇場と映画、ときどき音楽と本

オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

東京音楽コンクール 弦楽部門 本選

2018-08-30 12:33:55 | 音楽
8月29日(水)の夜に、東京文化会館で東京音楽コンクールの弦楽部門本選を聴く。6時に始まり、20分間の休憩を挟み、終了は8時45分。その後9時半ごろから表彰式となっていたが、それは観ないで帰った。会場は大ホールで、1階部分で6割ぐらいの入りか。

弦楽部門は応募総数が84人で、ヴァイオリンが約半数、ヴィオラが1/4、チェロとコントラバスは10人程度となっていて、ほぼオーケストラの編成と同じような比率だ。一次予選と二次予選は、無伴奏の課題曲が中心で、2次予選に進んだのが10人。ヴァイオリンは7人、ヴィオラ、チェロ、コントラバスが各1人。その結果本選に進んだのが、4人で、ヴァイオリン3人とヴィオラ1人で、女性3人男性一人だった。

本選は課題曲の中から選ぶのだが、課題曲はオーケストラとの共演の協奏曲だった。今回はチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲が二人、シベリウスのヴァイオリン協奏曲が一人、バルトークのヴィオラ協奏曲が一人となっている。オケは東京フィルハーモニーで、指揮は大井剛史。

恐らくはくじ引きで決められた演奏順だが、最初の二人がチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲で重なった。同じ曲を続けて二回聞くというのは、飽きるかなとも思ったが、実際に聞いてみると二人の演奏は大きく異なり、違いを大きく感じることができて面白かった。

一人目の北田千尋は桐朋音大の4年生で、よく言えば上品で美しい演奏だが、ある意味オーケストラとの掛け合いの面白さはなく、自分の演奏部分だけきれいにまとまっている印象。それに対して、二人目の高木凜々子は東京芸大の4年生で、野性的で激しい魅力。どんどんと引っ張り、オーケストラといかにも協奏している感じが伝わってくる。聞いているうちにどんどんと引き込まれたし、オケもつられて盛り上がった演奏を見せた。

休憩後の有冨萌々子はウィーン国立音大在学中でバルトークのヴィオラ協奏曲。初めて聞く曲だが、いかにもバルトークらしいムード。チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲とバルトークのヴィオラ協奏曲で、演奏者の優劣をつけるのは審査員も大変だろうなと思ったが、専門家は迷うことなく優劣が聞き分けられるのだろうか。演奏は中庸的。

最後の関朋岳は東京音楽大学の2年生なので、一番若い。唯一の男性。シベリウスのヴァイオリン協奏曲。この曲も初めて聞いた。よく言えば端正で美しい中に大胆さも併せ持つ演奏だが、悪く言うとちょっと神経質そうなムードも感じられた。

結果は、関氏が優勝。観客が投票する聴衆賞は高木氏だった。個人的には高木氏の演奏に強く惹かれた。

配られたパンフレットの後ろに過去の受賞者一覧が出ていたので、チェックすると、コンクールが2003年に始まったときには、ピアノ、弦楽、木管、金管、声楽の5部門だったが、2006年に突然2部門になった後、2007年からはしばらく4部門で運営、それが2015年からは3部門に減ってしまったので、各部門ごとで見ると2年に一度ぐらいしか開催されない状況だ。予算的な制約のためだろうという気もするが、是非とも5部門で毎年開催してほしいという気がする。近年は海外からの参加もあるようなので、東京「国際」音楽コンクールと名前も変えて、大々的に宣伝して来日客を増やす手も考えられる。漫画などの輸出にお金をかけるよりも、よっぽど高い評価を受けると思うのだがどうだろう。

帰りはいつものスペインバルで食事。生ハム、トルティージャ、マッシュルームのアヒージョ、牛筋の赤ワイン煮込みなどを食べる。




東京音楽コンクール 声楽部門 本選

2018-08-28 11:38:53 | 音楽
8月27日夜に東京音楽コンクールの声楽部門の本選を聴く。午後6時に開始で、20分間の休憩を挟んで8時過ぎに終了。その後45分間の選考協議が行われて8時45分から結果発表だったが、45分間も待てないので、歌が終わった時点で帰った。

今回の声楽部門はエントリー数が91人で、ソプラノが57人と6割を占めている。男性ではテノールとバリトンが10人ぐらいずつという感じ。二次予選12人に残ったのは女性7人、男性5人だったが、本選5人へ進んだのはソプラノ4人、テノール1人だった。

二次予選まではピアノ伴奏で、歌曲とアリアという課題だが、本選ではオケの伴奏で20分以内、アリアまたはオケ伴奏の曲となっている。オケ伴奏だと、ほとんどがオペラの曲かなとも思ったが、中にはヘンデルのオラトリオを歌った人もいた。

いつもこうした声楽コンクールで考えるのは、いったいどういう基準で選ぶのだろうということだ。オペラ向きの歌手を育てるのであれば、演目にもよるが大劇場でオケに負けない声量を持つことが第一だ。日本人は多くの場合、声量が乏しいので、ピアノ伴奏の歌曲ならば美しく歌っても、フルオケの伴奏で歌うのは結構難しいという人が多いように感じられる。

だから、最終的に歌のうまさだけでなく、オペラ向きのデカ声歌手を発掘しようというならば、予選の段階から、そうした基準で選らばないと、本選にデカ声歌手が残らない事態にもなりかねない。

今回の本選を聴いていても、声は美しく、上手に歌うのだが、声量の点で皆問題を抱えていたと言わざるを得ない。特に、日本人の中には声量に自信がないためか、小編成のオケで静かに伴奏する曲しか選ばないという人もいて、ちょっとどうかと思った。せっかくフルオケで歌うチャンスなので、もっとどんどんとチャレンジしてほしい。

結局、最後に歌ったザリナ・アルティエンバエヴァ(ソプラノ)がヴェルディの「椿姫」とグノーの「ロメオとジュリエット」を歌い、声の大きさ、そつなくまとめた歌唱によって抜群であり、1位となったがオペラ歌手としてはもう少し声量が欲しい。

日本人は皆、声が小さく箱庭的にまとめた印象が強いが、2位になった種村典子はその中でも表現力や声の大きさでバランスがとれていた。同じく2位の小堀雄介は、美しい声のテノール聞かせてくれて、声量もまあまあ、だったが、イタリア語の発音というかディクションが良くなるとさらに評価されると思った。

声が大きいという点では、2次予選で敗退した伊藤達人は大きな声の持ち主だったので、オケの伴奏で歌える本選まで残ってくれると良いなと思ったが、残念ながら、本選には出れなかった。

8時過ぎに終了して表に出ると、すさまじい雷雨でとても食事にいけないので、すぐに電車に乗って家に戻り、冷凍してあった激辛のキーマ・カレーで食事を済ませた。カレーの時にはいつも飲み物に迷うのだが、なんにでも合いやすいカヴァを選択した。

新国立劇場の「夏ノ夜ノ夢」

2018-08-25 17:13:48 | ダンス
8月25日(土)の昼に新国立の中劇場で「夏ノ夜ノ夢」を観る。japon dance projectと新国立バレエ団のコラボによる作品。題名からしてシェイクスピアの作品のダンス化だと分かるが、それ以上の情報はない。米沢唯も出るので観ておこうという程度。配られたパンフレットを見ると、音楽に何を使うのかが書いていない。追加音楽として井上裕二と書いてあるので、ベースとしてはメンデルスゾーンかななどと思う。台本とか構成というのがないのも僕には不思議で、突然に演出・振付がjapon dance projectとなっている。5人の合作らしい。

作品は一部と二部に分かれていて、一部は約1時間、20分の休憩が入り、二部は約30分だった。客席は満席だった。

一部はシェイクスピアの話をベースとしているようで、オベロン、タイターニア、パックのほかに二組の恋人たちが登場し、そのほかに森の精らしきダンサーが7人ほど登場。米沢唯と渡邊峻郁が一組の恋人役を踊る。恋人たちの衣装は似ていて、役柄の紹介部分もあまりないので、原作の話を知っている人しか物語は判らないだろう。いずれにしろ、あまり明確なプロットで踊るわけではなく、コンテの寄せ集めのような踊りが続く。

音楽は最初はメンデルスゾーンで始まるが、途中でパーカッションと管楽器になったり、タンゴになったりして、踊りに合わせたのかも知れないが、統一感は感じられない。一幕を観終わって、一体何が言いたいのだろうと、意味不明な舞台と感じた。

二幕は、舞台の上方にそれまでの舞台衣装が吊るされていて、ダンサーたちは白っぽいレオタード姿で登場。ただし、皆仮面をかぶっている。仮面を取ろうとして様子を見るが、周りが仮面をかぶっているので、自分も被り続けたままで集合写真を撮ったりして、その後に解散。皆で走り回り、奥の扉が開いて光り輝く空間に一人が出て行く。

役が終わっても、出演者たちはまだ仮面をかぶって演じていると言いたいのかなと思って見る。踊りのムードはピナ・バウシュの亜流といった感じ。途中で、君が代の曲が流れたりして、どんな意味があるのか判らぬが、電子音のような音が次第に大きくなる。なんとなく、映画「2001年宇宙の旅」の最後の場面を思い出す。

終わっても拍手はまばらな感じ。観客も良く分からなかったのではないだろうか。ブーイングがなかったのが不思議なくらい。時間と体力の無駄だった。

いつも外食する時には、事前にその店のメニューをきちんと見て、どのような料理を出すのかいつも研究することにしている。初めての店で、なんとなく入ると、期待外れに終わり、一食損をした気分になるからだ。毎日、朝食は別として昼と夜で二食を食べる。一年間で、食べるのはせいぜい730食だ。そのうち一回分を損すると大変だから、メニューの検討は慎重にする。

舞台を観るのも同じで、よっぽど事前にスタッフやキャストを確認しないと危ないという気分になった。劇場を出るとまだひどい暑さが残っていて、とても出歩く気にならず、まっすぐ家に帰り、家の冷蔵庫にあるもので食事することにした。

読響のサマーフェスティバル2018

2018-08-24 15:17:38 | 音楽
あまりに暑いので、しばらくブログの更新をさぼっていたが、また、劇場通いが始まったので、再開することに。

8月21日(火)の夜に、池袋の東京芸術劇場で読響のコンサートを聴く。三大協奏曲ということで、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲、ドヴォルジャークのチェロ協奏曲、チャイコフスキーのピアノ協奏曲(1番)を続けて聞く。ソリスト、指揮者とも若手の人だ。場内は完全に満席で、結構若い人も多かった。前半がヴァイオリンとチェロで、1時間15分ぐらい、15分間の休憩を挟んで、後半はピアノで40分ぐらいだった。

指揮者は大井剛士。最初のヴァイオリン協奏曲は岡本誠司で、若い割には落ち着いた演奏だが、ちょっと元気がないというか、もう少し個性を出した弾き方でもよいかと感じた。二番目のチェロは、イギリスの女性チェリストで、ラウラ・ファン・デル・ヘイデン。たいへん力強い演奏で、好感が持てる。この日の演奏では、一番バランスがとれていると感じられた。このドヴォルジャークの曲は、結構好きなのだが、第三楽章になるとオケの音が大きくてチェロの音が聞こえなくなる部分もあり、やはり、協奏曲は、独奏の楽器が主役なのだから、オケはあまり出しゃばらないでほしいと感じる。

後半のピアノは反田恭平で、最近人気の新進気鋭なので、観客も一番反応していた。凄いテクニックで、後半の演奏のテンポは恐ろしいほど早い。こんなに早い演奏は初めて聞く感じでまるで別の曲のようにも聞こえたが、オケも良くそのテンポに追随して乱れなかったので、感心した。ピアノのソロ部分は、変幻自在に歌わせて弾く感じで、チャイコフスキーというよりもジャズでも聞いているイメージ。演奏を終えると観客席からはブラボーの嵐だったが、こうした演奏は賛否両論ではないかと感じる。

9時半ごろに終わったので、久しぶりに池袋で食事。お目当てにしていたピザ屋が満席で入れなかったので、インド風の料理を出す店に入り、食事。インドのワインはリスキーなので、チリのソーヴィニヨン・ブランを注文。野菜や肉をクミンなどで炒めたインド風の炒め物などを何品かと、カレー風味のコロッケを頂く。客はほとんど入らずにガラガラだったので心配したが、結構ちゃんとした料理で満足した。

西川尚生の「モーツアルト」人と作品

2018-08-12 19:13:01 | 読書
音楽之友社から出ている西川尚生の「モーツァルト:人と作品」を読む。2005年の刊行で約330ページ。評伝が200ページで、作品解説が50ページ。巻末に詳細な作品一覧と年譜が付いている。コンパクトにまとまっていて読みやすかった。

モーツアルトの場合には、ザルツブルクの大司教との関係や、多くの借金を残して亡くなったので本当に収入が少なかったのかどうかなどの疑問点があったが、この本を読むとそこらがよく検証されていて、よくわかった。評伝が詳しいので、各作品を書いた時代の背景もよくわかる。

また、サリエリとの関係や、コンスタンツァの実像などもこの本を読むとイメージが湧く。

モーツァルトなどの大作曲家はこれまでにも多くの評伝がでているし、手紙も多く残っているので、いまさら新しいネタがあるのかとも思ったが、世界中でいろいろと研究している人がいて、新事実などが明らかになっているので、そうした最新の成果を踏まえた新しい評伝も読む価値があるのだなあと、よくわかった。

この音楽之友社の「人と評伝」シリーズは、コンパクトにまとまっていて読みやすく、わかりやすいので、ほかの本も読んでみようという気になった。