劇場と映画、ときどき音楽と本

オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

ラフマニノフの一夜

2023-05-31 11:19:19 | 音楽
5月30日(火)の夜にプリモ音楽工房で、「ラフマニノフの一夜」と題したコンサートを聴く。30人程度限定のライヴで、インターネット配信もある。今年はラフマニノフ生誕150年とのことで、いろいろとラフマニノフ関係のコンサートが多いが、これもその一つ。ラフマニノフの珍しい室内楽を2曲聞いた。前半がピアノ三重奏曲第2番「悲しみの三重奏曲}、後半はチェロソナタ(ト短調)。

ピアノが松本和将、チェロが江口心一、ヴァイオリンが上里はな子。3人とも素晴らしい音色を聴かせた。最初の松本氏の解説によると、ロシアでは人が亡くなると追悼のためにピアノ三重奏曲を書くらしい。ラフマニノフは、チャイコフスキーの追悼のためにこの曲を書いたとのこと。松本氏の話では、最初にチェロソナタを演奏することが決まり、もう一曲を室内楽で探したが、ラフマニノフの室内楽は少ないので、この曲を選ばざるを得なかったとのこと。あまり、音楽的には出来が良くないので、躊躇したらしい。そのため、あまり演奏される機会がないので、生で聴けるチャンスは大変貴重だとのこと。

一瞬つまらない曲かもしれないと思ったが、聴いてみると、随所にラフマニノフ節が出てきて面白い。50分近い長い曲だが、それぞれの楽器の音にも聞きほれて、あっという間に終わった印象。生誕150周年でこうした曲が聴けるのはありがたいことだ。

後半のチェロソナタは、江口氏のチェロと、松本氏のピアノの掛け合い。江口氏は都響のチェロの副主席だが、さすがにテクニックだけでなく音色が素晴らしいと思った。

ラフマニノフだけでなく、弦楽の音を堪能して、すっかり良い気分になり、またこういうのを聴きたいと思った。

家に帰って、軽い食事。キャベツのサラダ、ソーセージ、アンチョビ・オリーブ、ブリー、ブルーチーズ、クリームチーズなど。飲み物はスペイン産の白と、カオールの赤。

日生劇場の「メデア」

2023-05-28 09:32:52 | オペラ
5月27日(土)の昼に日生劇場でオペラ「メデア」を見る。18世紀末のケルビーニ作曲のオペラで日本初演。ほぼ満席。マスク比率は7~8割。午後2時に始まり、途中20分の休憩を挟み、終演は4時45分頃だった。

イタリア語の上演なので、てっきりイタリア風のオペラかと思ったが、パリで初演されたフランス語オペラのイタリア語版だという。フランス語版は台詞の入った形式だったが、後にドイツで台詞部分もレチタティーヴォ化されたので、レチタティーヴォの方が、音楽的に華やかだったりする。プログラムの解説によると、かつてマリア・カラスがイタリアで上演して大喝采を浴びたという。

そういえば、メディアの話は1960年代末頃にパッゾリーニがマリア・カラスを使って映画化していて、映画では歌っていないが、怖いほどの迫力で演じていた記憶がある。メデアの話は、ギリシャ神話のエピソードが古代のギリシャ悲劇になり、17世紀にはフランスのコルネイユが古典悲劇として書いた作品。

ケルビーニのオペラもコルネイユ版を下敷きにしたようで、きっちりと三単一の規則(時、場所、物語が単一であることという古典悲劇の規則)に沿っている。当時のオペラは三単一の規則の適用外だったので、守る必要はないが、コルネイユの書いた台本から引用した関係上、作劇も同じようになったのだろう。だからオペラでも、殺しの場面などは舞台上で描かずに、舞台外で起きた出来事を伝令役や合唱隊が伝える形式を守っている。そういうスタイルだから仕方がないが、オペラではもう少しスペクタクルな演出で見せたほうが、楽しめるという気がした。

全体は3幕構成で、最後の幕はメデアが復讐心に燃えて、一種の狂乱の場を演じるので、音楽的にもそこが聞きどころになる。メデアを歌ったのは岡田昌子で、この難役を歌い切ったが、やはり日本人では体力的に厳しいのか、若干不安定な歌唱もあった。やはりマリア・カラス級でないとこの役を歌うのは難しいかもしれない。歌唱で一番良かったのはネリス役の中島郁子で、安定して聴きごたえがあった。全体にもう少し歌唱レベルが上がると良いのだが、なかなか難しいか。

オーケストラは園田隆一郎指揮の新日本フィル。音が若干弱い印象。演出は栗山民也なので、そつなくまとめたが、フランスの古典劇風だった。

帰りにスーパーで買い物をして家で食事。しし唐とパンチェッタのソテー、マッシュルームのアヒージョ、最後はとんかつ。飲み物はフランスの白。

N響のハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン

2023-05-26 15:30:18 | 音楽
5月25日(木)の夜に、サントリー・ホールでファビオ・ルイージ指揮のN響を聴く。8割程度の入り。最近は服装のカジュアル化が進み、男性女性ともスニーカーを履いた人が多くなった。N響のオケメンバーは、昔ながらの燕尾服にオペラシューズなので、観客との落差が大きい。

プログラムは古典派のど真ん中といった感じで、最初にハイドンの交響曲82番「熊」、次いでモーツアルトのホルン協奏曲3番、20分の休憩の後ベートーヴェンの交響曲6番「田園」。ホルンの独奏は、N響の首席奏者からフリーになった福川伸陽。

曲目はどれも安心して聴けるもので、ルイージの指揮も端正なので、久々にすがすがしいほどすっきりとした音楽を聴いた。最初のハイドンは、本当に人を楽しませる音楽で、サービス精神旺盛な曲。楽しさがあふれ出た。次のホルン協奏曲は、演奏時間は短いが、今回の目玉。福川の演奏は素晴らしい音色で、うまい人が吹くとホルンは本当に美しい音色だと実感した。管楽器の中でも難しい楽器なので、時々プロのオケでも、ホルンが不安定でハラハラするが、今回は音色を堪能。こういう音を聴きたい。

最後は「田園」で、何度も聞いた曲だが、新発見もあった。これまでは単にウィーンの郊外の森を描いた情景音楽だと思っていたが、解説を読むと「田園」はパストラーレであり、演劇界でいえば「牧歌劇」を意味すると記されていて、そうかと思った。昔の演劇では神話世界や英雄譚を描くことが多かったが、そこから離れて普通の人間世界を描くようになったきっかけが、「牧歌劇」とされる。音楽でも、王侯貴族や教会の都合に合わせて書くのではなく、自分の書きたいものを書くというきっかけが「パストラーレ」だったのではないかという気がしてきた。

ルイージの指揮を楽しんだ後は、いつものスペインバルで軽い食事。生ハム、オムレツ、エスカベッシェ、生ハムのコロッケ、イカのフリットスなど。

新国立劇場の「リゴレット」

2023-05-22 20:10:49 | オペラ
5月21日(日)の昼に新国立劇場でオペラ「リゴレット」を見る。新演出によるヴェルディの名作の上演だが、満席ではなく、9割程度の入り。カフェなどの営業はすっかりとコロナ前に戻り、昔の雰囲気が戻ってきた感じ。主演のリゴレットと娘のジルダ、マンドヴァ公爵は外国からの招聘だが、殺し屋のスパラフチーフは妻屋秀和。

外国から呼んだ3人は、歌がよく、オペラを堪能できた。特にリゴレット役のヴェテラン、ロベルト・フロンターリは貫禄ある見事な歌唱。マントヴァ公爵役のイヴァン・アヨン・リヴァスは輝かしいテノールで、久々にこもらない高音を聴いた。ジルダ役のハスミック・トロシャンも見事に歌った。

ほかの日本人も含めて、歌唱はおおむね満足すべき水準で、マウリッツィオ・ベニーニ指揮の東京フィルも素晴らしい演奏を聴かせた。惜しむらくは演出で、低調な印象。夜の場面が多いので暗い場面が多いのは仕方がないが、宮廷場面などは明るく華やかな舞台を作ってほしかった。最初から最後まで、照明も暗く単調な演出だった。

それでもオペラは歌唱が第一なので、音楽が良かったので満足して帰宅。アラブ風の鶏肉炊き込みご飯と、サラダを食べる。飲み物はイタリアの白。

読響+ミシェル・カミロ

2023-05-20 11:14:27 | 音楽
5月19日(金)の夜にサントリー・ホールで、鈴木優人指揮の読響を聴く。ジャズ・ピアニストとして高名なミシェル・カミロ本人のピアノによるピアノ協奏曲2番の日本初演。観客の入りは7~8割程度。マスク比率も7~8割だが、2階のバーカウンターも開いて、賑わっていた。

最初にモーツアルトの「ドン・ジョヴァンニ」序曲があり、続いてカミロのピアノ協奏曲2番。15分の休憩を挟み、後半はモーツアルトの交響曲28番があり、最後はラヴェルの「ボレロ」で締めくくられた。メインの演目はカミロのピアノ協奏曲で、現代的な音楽でジャズやラテンの雰囲気の入った曲。カミロは中米のドミニカ共和国の出身らしいが、スペイン系に見えた。ジャズ・ピアノの流れを汲んだ雰囲気だが、猛烈な勢いで鍵盤を叩くような演奏で、大量の音がピアノからあふれ出て、まるで連弾しているような演奏だった。音が大迫力なので、大編成オーケストラにも負けずに大迫力の演奏を聴かせた。アンコールでピアノソロを演奏したが、これも大迫力で、個人的には協奏曲よりもソロの方が面白いと感じた。

大迫力の演奏だったので、後半のモーツアルトは何となく物足りなく感じた。最後はお馴染みのボレロで、どの曲もまあ、面白いのだが、まったく雰囲気の異なる曲を並べて、一体だれが選曲したのだろうと思った。ちょっと趣味が悪すぎるのではないだろうか。デパートの食堂のようなメニューで、何でもあり。とんかつの後にざるそばを食べて、チョコレート・パフェで締めくくったような気分になった。プログラムには、曲目解説だけでなく、選曲の意図を示すべきだろう。

9時前に終了したが、まだ雨が少し降っていた。帰りがけにいつものスペインバルで軽く食事。トルティージャ、ハモン、ほうれん草とひよこ豆の煮込み卵添え、塩だらのフライなど。