劇場と映画、ときどき音楽と本

オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

映画「ラプラスの魔女」

2019-07-30 10:52:20 | 映画
衛星放送の録画で2018年の日本映画「ラプラスの魔女」を観る。東野圭吾の小説の映画化で三池崇史監督作品。原作は読んでいないが、なんとなく題名に惹かれてみてみた。

学生時代などで、ラプラス変換を覚えると、電気回路の積分式などがいとも簡単に答えが出てくるので、お世話になった覚えがある。そのお世話になった名前が出てくるので、ちょっと興味を持ったわけだ。

映画での話は、温泉地近くで硫化水素中毒で二人が続けて亡くなり、殺人の可能性を考えた刑事が専門家の大学教授に調査協力を求めるところから始まる。大学教授は多くの自然条件が重ならないと硫化水素中毒とならないので、事前にそれを予測したり、自然条件を作り出したりしての、殺人は無理だろうと判断する。

しかし、すべての与件が把握できるならば、その後の未来は決定されるというラプラスの予言を、ある種の超能力で獲得した人物がいたという設定になっている。

小説は面白いのかも知れないが、映画はまったくつまらなかった。まず役者が皆よくない。主演の大学教授は櫻井翔だが、大学教授には見えないし、演技もまるでダメ。個性も感じられない。他の役者も似たようなものだ。

おまけに、だらだらした映画でテンポが感じられない。約2時間の作品だったが、再編集してテンポを出したら1時間で終わってしまうようなスカスカの映画。物語の展開をスピーディーにして、その分人間的な描写を増やさないと面白くならないだろう。

こんな映画を作っているようでは日本映画も、どんどんとダメになっていくような悲観的な気分となった。

映画「かわいい毒草」

2019-07-29 13:04:01 | 映画
衛星放送の録画で1968年のアメリカ映画「かわいい毒草」を観る。アンソニー・パーキンスとチューズデイ・ウェルドの主演。アンソニー・パーキンスはちょっと精神的に危なそうな青年を演じている。彼が若い時に、家に放火をして、不在だと思った叔母が家にいて焼け死んだために、保護観察の処分となり、成人して社会に出るが、保護観察の委員から常に連絡を取るように求められる。

それを鬱陶しく感じたパーキンスは、美人の女子高生チューズデイ・ウェルドに近づき、自分がCIAの工作員であるかのように見せて、ウェルドを使い保護観察官を騙したり、廃液をまき散らして公害の原因となっている工場の操業を邪魔しようとする。ウェルドはパーキンスに騙されて使われているように見えるが、実は口うるさいウェルドの母親を殺すために、逆にパーキンスを利用しているという話。

原作は当時ヒットした小説で、結構話は面白い。アンソニー・パーキンスは見ているだけで、なんとなく異常な性格を感じさせるような演技で、こういうのを演じさせるとぴったりだ。異常な性格を演じるという点では、ピーター・オトゥールと双璧かも知れないと思った。

ウェルドは美人だし、なかなか良く演じてはいたが、ごく普通の出来。監督はノエル・ブラックという人で、あまり知らないが、映画としてそれほどうまく描けてはいない。そこでこの作品がなんとなくB級の感じとなっているのだろうと思った。でもこういうB級作品が結構面白い。

佐渡裕の指揮した「オン・ザ・タウン」

2019-07-27 11:11:38 | ミュージカル
7月26日(金)の昼に東京文化会館で「オン・ザ・タウン」を観る。2時開演で、終演は4時40分。休憩は25分間だった。場内は約8割の入り。平日の昼間なのでこの程度か。年金生活者世代だけでなく、もう少し客層は若い。オペラファンが来ているのか、ミュージカルファンが来ているのか若干気になる。

この作品は兵庫県芸術文化センターの制作で、佐渡裕が芸術監督をやっていることから、「オペラ」として制作したようだ。佐渡裕はレナード・バーンスタインの弟子を自任しているためか、バーンスタインの作品を多く取り上げているが、今回「オン・ザ・タウン」を取りあげてくれたのはありがたい。兵庫で8回、東京で4回の公演。兵庫県で8回も上演するというのが凄い気がする。

この作品は第二次世界大戦中の1944年に作られた作品だが、あまり再演の機会がなく、ブロードウェイでも71年、98年、2014年の3回しか再演されていない。バーンスタインが結構くだけた感じの曲を書いているので、僕などは大好きなのだが、本格的な上演の機会が少ないので残念だと思っていたら、今回こうした形で上演してくれたのでうれしかった。機会があれば、「ワンダフル・タウン」も上演してほしい気がする。

今回は、兵庫芸術文化センターのオケがピットに入って演奏する。ブロードウェイだってロンドンだってこんな贅沢なフルオケのついた上演はまずない。コンサート形式ではこうしたフルオケもあるだろうが、劇場のピットにフルオケが入るのはミュージカルではまずないと言ってよい。まあ、25人程度のオケが多いだろう。それに兵庫プロデュースオペラ合唱団が入っているのもうれしい。本格的な合唱がミュージカルの入るのは夢のようだ。結果的に、出演者は50名を超えるような贅沢さ。商業的にそろばんをはじくミュージカルではまずありえず、補助金のついたオペラ公演でないと実現できないだろう。

出演者は本格的なオペラ畑の人で、歌も安心して聴ける。また、踊りも本格的なバレエ経験者を使っているので水準が高かった。全体の上演水準から見て、2014年のブロードウェイ版にも負けていないと思った。特に衣装はなかなかエレガントで当時のムードを出しながら現代風にまとめていて上出来だった。

この作品では、ジェローム・ロビンスの振り付けたバレエ場面が大きな比重を占めているので、それをどう扱うかが一番難しい点だろう。重要なバレエ場面は3つあり、1幕の「ミス改札口の紹介」と「寂しい街」、2幕の「幻想のコニー・アイランド」だ。ジェローム・ロビンスのオリジナルの振付は見たことがないので、比較のしようもないのだが、2014年のブロードウェイ版も、今回の佐渡版も、新規に振付し直されていた。

今回の振付は本格的なバレエ技術を使ったもので、主人公のアイヴィ・スミス役はトウ・シューズで見事に踊り立派だったと思う。しかし、物語との融合という点では少し弱かった。特に「幻想のコニー・アイランド」の場面では、アイヴィに近寄りたいが、なかなか実現しないもどかしさのようなものがもっと表現されても良かったのではないかと思った。初演の44年にブロードウェイでこのアイヴィ役を踊ったのは、戦争中なのに日系のソノ・オーサトで、彼女は戦前のバレエ・リュスのアメリカ公演にも参加して優れたバレエ・テクニックを持っていた。

佐渡裕の指揮したオケは、なかなか良い演奏だったと思うが、ラテン・ナンバー―のような部分ではテンポがちょっともたつき、「ノリ」が感じられなかった。しかし、まあ、これだけの水準の舞台を製作したことには敬意を表する。すっかり良い気分になって楽しんだ。

帰りは、行きつけのフランス料理屋で夕食。トビウオのマリネを前菜にして、メインは鴨のコンフィ。デザートはセミフレッド。ワインはボルドーの白を頼んだ。

ディアナ・ティシチェンコのバイオリン・コンサート

2019-07-26 10:24:58 | 音楽
7月25日(木)の夜に紀尾井ホールでウクライナの新進バイオリニストであるティシチェンコのバイオリン・コンサートを聴く。7時開演で、20分間の休憩を挟み、終演は9時10分頃だった。場内は約8割程度の入り。相変わらずこのホールは身なりの良い人が多い。今年のラ・フォル・ジュネ東京で弾いて好評だった人らしい。1990年生まれというから、未だ29歳の新進気鋭の若手といったところか。

曲目は20世紀前半の曲が多かった。前半はラヴェルのヴァイオリンソナタと、エスネクのヴァイオリン・ソナタ第3番、休憩の後にシマノフスキ―の神話Op.30、最後がプロコフィエフのヴァイオリン・ソナタ第1番。アンコールはバルトークの舞曲だった。

どれも現代風の曲だが、なんとなく美しいメロディを感じさせるものがあり、退屈しない。また、技巧的にもかなり高度なテクニックが要求されそうな作品だった。ティシチェンコの演奏は若々しく力強いだけでなく、繊細さを兼ね備えていて感心した。特にピアニッシモの美しさに魅惑された。

また、選曲にも彼女の世界観が現れているようにも思えた。彼女自身はウクライナの出身だとしているが、紹介の文章ではクリミア半島の出身だというので、2014年に武力によりロシアに併合されてしまった問題の場所だ。本人の意識がウクライナ人にもかかわらず、故郷を喪失してしまったのだ。昔で言えばポーランドの祖国を失ったショパンのような感じか。

そうした観点で選曲を見てみると、

ラヴェル ⇒フランス(バスク)
エスネク ⇒ルーマニア
シマノフスキ― ⇒ポーランド
プロコフィエフ ⇒ウクライナ(ドネツク)
バルトーク ⇒ハンガリー

であり、旧東欧諸国が多い。プロコフィエフが生まれた時には、ドネツク地方は旧ロシア帝国の一部であり、その後ソ連でも活動もしたので、一般的にはロシア人とされることも多く、会場で配られたプログラムでも「ロシアを代表する作曲家」と書かれていたが、ティシチェンコにとってはあくまでもウクライナの作曲家プロコフィエフとなっているはずだ。

ドネツクもウクライナとロシアの間で問題になっている土地だ。そう言えばウクライナでは新しい大統領が誕生している。こんなところにも、現代の世界情勢がなんとなく透けて見えるような雰囲気を感じた。

遅くなったので、家に帰って食事。ボローニャ・ソーセージを前菜に、カポナータにショートパスタを入れて軽い食事。スペイン産のカヴァを飲む。

映画「バンガー・シスターズ」

2019-07-25 06:13:45 | 映画
衛星放送の録画で2002年のアメリカ映画「バンガー・シスターズ」を観る。1969年に「サボテンの花」を見て以来のゴールディ―・ホーンのファンだが、この映画は見逃していたので、放映してくれて助かった。

都会のロックを聴かせるバーでバーテンダーとして働いていたゴールディ―・ホーンが、勤務態度が悪く首にされてしまい、持ち金もなく困って、昔にグルーピー仲間として一緒に遊びまくっていた親友を訪ねて、アリゾナ州のフェニックスまで行く。途中で神経質すぎて脚本を書けなくなったシナリオライターと知り合い、ガソリン代を払ってもらい、何とかフェニックスまでたどり着く。

会いに行った親友の女は、今では弁護士と結婚してセレブとなり、高校生の二人の娘を持ち、昔のことがバレないように暮らしていたので、ゴールディ―の来訪を迷惑がる。しかし、自分を殺して行儀のよい生活を送っているが、二人の娘は飛んだわがまま娘で、卒業記念のプロムなどで羽目を外している。そんな家庭にゴールディ―は一石を投じて、家族の絆を取り戻す働きをする。

ざっと、そんな話だが、映画としては2流の出来でさして面白いわけではないが、何しろゴールディ―を見ているだけで楽しい。ゴールディ―はこの映画に出た時には50歳代後半で60歳近いと思われるが、驚異的な若さで溌溂とした元気さや、ちょっととぼけた面白みを維持していて、昔のままだ。

こういう、画面に出ているだけで楽しい女優というのはなかなか貴重で、最近はあまりお目にかからない。時代が変わってしまったのかなあと、考えた。