劇場と映画、ときどき音楽と本

オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

サントリー・ホールの「ベアトリーチェ・ディ・テンダ」

2018-07-30 11:00:58 | オペラ
7月29日夕方から、サントリ―の小ホールで開催されたベリーニのオペラ「ベアトリーチェ・ディ・テンダ」を観る。南條年章オペラ研究室によるベリーニ全オペラ連続演奏企画の8回目の作品で、ベリーニは10作品しか書いていないから、もう終わりの方だ。ピアノ1台の伴奏による演奏会形式で、日本語字幕付きでありがたい。出演はソリストが5人と男性合唱7人、女声合唱は男性の倍以上いた感じ。

サントリー・ホールのブルーローズと呼ばれる小ホールは300席ぐらいあると思うが、大体6~7割程度の入りで、オペラ公演にしては女性比率が高い気がした。もちろん年齢層はかなり高め。17時開演で、20分間の休憩を挟んで、終演は19時35分頃だった。

ベリーニの作品としては9番目の作品で、「ノルマ」の次に書かれて、この作品の後は「清教徒」なので、なかなか音楽的にも良いと思ったが、なぜかあまり上演されない。パンフレットによると、完全上演は日本初めてとなっていた。

ミラノ大公は妻のベアトリーチェが権力を持っていることが気に入らず、女官のアニェーゼの思いを寄せているが、当のアニェーゼは別のオロンベッロという貴族に思いがある。アニェーゼは、オロンベッロに思いを伝えようとするが、オロンベッロはベアトリーチェに思いを寄せていたことが分かり、逆上したアニェーゼは、ベアトリーチェがオロンベッロと通じているとミラノ大公に訴える。大公は本心では信じていないが、ベアトリーチェを疎ましく感じていたため、裁判にかけて死刑にしようとする。自分の告発が招いた結果を後悔したアニェーゼはベアトリーチェに真実を打ち明けるが、ベアトリーチェはそれを許し、刑場に向かっていく。

実話に基づいた話で、結構複雑な四角関係で分かりにくいが、あらすじを読んで、字幕付きで公演を観たらよく理解できた。ベアトリーチェの立場は、なんとなく、前作の「ノルマ」にも似ているし、ミラノ大公が動き出した裁判を止めることができずに悩むところなどは、アーサー王伝説を描いたミュージカルのキャメロットのアーサー王にも似ている感じがする。1833年当時にこうした実話を題材とした作品を上演できたことは驚きだが、ミラノのスキャンダルなので、ヴェネチアでは上演の許可が得られたのではないかという気がする。イタリアが統一されるのは確か1861年頃なので、その前は地域ごとに別々に統治されていたからだ。

歌手のレベルは概ね満足すべきもので、小さなホールでは十分に響く声量だった。ベアトリーチェを歌った出口正子は、恐らく70歳近い年齢ではないかと思うが、若々しく美しい歌声を披露した。しかし、前半でエネルギーを使い果たしたためか、後半では音程が不安定で、ちょっと聞き苦しい点もあった。企業で言えば、とっくに定年となっている年齢で、未だ活躍できるのは素晴らしいと思うが、長時間の公演ではやはり体力的に問題があるように思えた。

アニェーゼの鳥木弥生は前半よりも後半の方が調子を上げて、声がよく出ていた。ミラノ大公の坂本伸司は素晴らしいバリトンで、声量も歌唱も満足な水準。一番良いと思ったのはオレオンベッロ役を歌ったテノールの琉子健太郎で、高音が美しいテノールで、聞きほれた。

全体的にいかにもベリーニらしいというようなアジリタでの歌唱は、うまく歌えていなかったような気がする。やはり昔風の歌い方の上手な歌手が登場してくれると嬉しいと思った。いろいろと問題もあるが、初めての演目で十分に楽しんだ。

サントリー・ホールを出ると、カラヤン広場にビア・ガーデンができていて、「よなよなビール」の生が出ていた。サントリー・ビールではないのだと思ったが、クラフト・ビールで結構人気のある「よなよな」なので、帰りがけにビールだけ飲んだ。ペール・エールの「よなよな」と、もっと香りの強いインディアン・ペール・エールの「インドの青鬼」を飲む。缶ビールで知っている味と同じだったが、生なのでちょっとすっきりとした感じ。ただしエール・ビールにしては温度が低すぎるような気もした。

その後はいつものスペインバルで、ウサギ肉の煮込みなどを食べた。

新国立劇場の「バレエ・アステラス」2018

2018-07-29 10:13:27 | バレエ
7月28日の午後に新国立劇場のオペラ・パレスで「バレエ・アステラス」を観る。台風が来ていたので心配したが、あまり大雨にならなかったので助かった。毎年、夏に行われているバレエのイヴェントで、海外で活躍している日本人の若手バレエ・ダンサーを呼んで、ガラ形式でみせる。今回は7組が出演したほか、新国立の米沢唯、奥村康祐チームが出演。目玉はは特別ゲストで出演したロイヤルでプリンシパルになった高田茜と平野亮一の二人だ。そのほかに、ミラノ・スカラ座のバレエ・アカデミーのゲストと新国立バレエ研修所の出演もあった。

たった1回の公演なので、満席で大賑わい。夏休みに入ったためか若いバレリーナの卵たちも沢山見かけて、劇場はいつもよりも華やいだムードだった。次期芸術監督就任に内定した吉田都も客席で見かけた。午後3時に始まり、25分雄休憩を挟んで、終演は5時半過ぎだった。

最初はバレエ研修所の研修生たちによる「ケークウォーク」。初めて観る演目だが、あんまりケークウォークのムードが出ていない。気になったので、オックスフォードのダンス事典で調べると、ミンストレルのパロディとなっていて、最後のフィナーレがケークウォークのようになっているらしい。基はもっと長い作品だが、一部だけを上演したのかも知れないという気がした。

前半の一部では、ほかに「夏の夜の夢」、「End of Eternity」、「サタネラ」、「ロメオとジュリエット」。「サタネラ」がプティパの振付で古典的な美しい作品。バーミンガムの水谷実喜が踊ったが、相手役がバーミンガムのプリンシパルのツーチャオ・チョウで素晴らしいジャンプを見せた。ピルエットよりもジャンプを得意とした人だ。

後半の2部はかなり充実した内容。新国立研修生による「シンフォニエッタ」、ミラノ・スカラ座アカデミー生による「ジム・ノペディ」と「エスメラルダ」。米沢・奥村チームによる「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」、ボリショイバレエの千野円句による「ジゼル」、ペンシルベニアの伊勢田由香による「海賊」、トゥールーズの小笠原由紀による「ノクターン」、そして最後がロイヤルの高田・平野チームによる「ジュビリー」という内容。

ボリショイの「ジゼル」を踊ったスタニスラヴァ・ポストノーヴァはボリショイ・バレエ学校を卒業したばかりの若手だが、ジゼルになりきって踊っていて、ロシアにはなかなか凄い若手がいるものだと感心した。

最後に踊ったロイヤルの高田茜と平野亮一は、それまでの踊りとは別格といえるほどの貫禄と端正さを示す素晴らしい踊りだった。やはりロイヤルでプリンシパルになるというのはこれだけの実力があるのだなあと、改めて感心。素晴らしい踊りだったので、機会があれば追っかけをして見に行こうかと考えた。

終演後は台風が近づいていたので、急いで家に帰り、食事。アナゴの天ぷらと吟醸酒の組み合わせ。

「ヴェルディ/オペラ変革者の素顔と作品」

2018-07-26 10:48:33 | 読書
平凡社新書から出ている、加藤浩子の「ヴェルディ/オペラ変革者の素顔と作品」を読む。2013年の出版、約300ページの新書本。第一部が評伝で約100ページ。第二部がヴェルディ論みたいな感じで40ページ弱。第三部が各作品の紹介で約150ページという構成。この本1冊だけで、ヴェルディのことが大体わかるというのを狙ったのだろうが、逆にどの記述も中途半端に終わったきらいがある。

最初の評伝はいかにも判りにくい。すでにヴェルディの生涯を読んだことのある人でないと、全体像が判らないのではないか。特に、ヴェルディが晩年、田舎に引っ込んでいたのに、なぜ「オテロ」と「ファルスタッフ」を書く気になったのか。また、なぜ作風が大きく変わったのかを知りたいと思ったのだが、全く得るところがなかった。途中のヴェルディ論的な部分は大半がインタビューで、特になくても良いような部分だと思う。

本の大半を占めているのは後半の作品個別紹介だが、各作品が「あらすじ」、「聴きどころ(見どころではない!)」、「背景と特徴」という形で紹介されているが、こうした作品紹介はこれまでに多くの本が出ているし、この本の特徴とはなっていない。大体オペラなどは聴いたり観たりしないと判らないので、本だけで理解することは難しい。そうしたことを考えると、全体的にいかにも中途半端な印象の本だった。

美空ひばりの「お夏清十郎」

2018-07-24 11:30:15 | 映画
衛星放送で古い美空ひばりの映画をやっていたので、録画して観る。1954年の「歌ごよみ お夏清十郎」で、美空ひばりがたっぷり歌う。相手役は珍しく市川雷蔵が務めている。米問屋の娘と手代の恋物語で、駆け落ちするところを捕えられて、手代の清十郎は打ち首にされて、お夏は狂乱するという話で、歌舞伎でも「お夏狂乱」などの演目になっている。

美空ひばりの作品なので、ひばりが狂乱を演じるのかな、と思いながら見たら、なんと最後はハッピーエンドに書き換えられていた。ひばりの映画だから、それでも良いかなという感じ。

駆け落ちして捕えられるところまでは、同じだが、清十郎は島流しとなり、そこを抜け出して戻り、冤罪が晴れてお夏と結ばれる。島流しから戻ってきた場面などは、切られの与三のような雰囲気の場面がある。

この時代までは、こうした題材が日本でもよく知られていてポピュラーだったが、今では「お夏清十郎」といっても若い人はピンと来ないかも知れない。

観ていて、確か1920年ごろに宝塚でもこの題材が舞台化されて「お夏籠目狂」(うる覚えの題名なので自信はないが)となり、結構名作とされていた気がする。

確か宝塚で今でもよく歌われている「おお宝塚」の歌詞の中で、昔の名作の題名が出てくるが、その中にあったような気がする。

美空ひばりの映画版も、若い時の美空ひばりの映像と歌が楽しめるという点ではなかなか良かった。

映画「ホワイト・ナイツ/白夜」

2018-07-22 11:04:54 | 映画
衛星放送でやっていた「ホワイト・ナイツ/白夜」を録画で観る。1985年のアメリカ映画で、バレエで有名なミハエル・バリシニコフと、タップダンスで有名なグレゴリー・ハインズの競演した作品。東西冷戦時代に作られた作品で、バリシニコフはソ連からの亡命ダンサー役で出ていて、ロンドンから日本へ移動中に飛行機の故障でシベリアに不時着して、ソ連に連れ戻されてしまうのを、元恋人がアメリカ領事館と連絡を取り、脱出させるという話。グレゴリー・ハインズは黒人差別にうんざりしてアメリカからソ連に亡命したという設定になっている。

まあ、冷戦時代のスパイ映画のような雰囲気もあるが、見どころはダンサー二人の踊りの部分だ。タイトル・バックで踊られるのはローラン・プティの「若者と死」で、バリシニコフが素晴らしい踊りを見せる。一方のグレゴリー・ハインズはシベリアの寒村でガーシュウィンの「ポーギーとベス」でスポーティング・ライフに扮してタップを見せるが、それよりも後半のソロでタップを踊る場面の方が良い。放送の字幕で「ポーギー」が「ボギー」と訳されていたのはご愛敬か。

最後の方にバリシニコフとハインズが一緒に踊る場面もあり、この場面は恐らくトワイラ・サープの振付だろうが、二人で同じに踊れるように最大公約数的な振付となっていて、二人の個性が出ずに面白くなかった。

そのほか、サンクトペテルブルクのマリインスキー劇場やその練習場が出てくるが、冷戦時代に実際にロケができたのだろうか、それともそっくりに作ったとしたらなかなか凄いと思った。ロケも含めて、スパイ映画的な部分もなかなか良くできていて、楽しめる作品だった。