劇場と映画、ときどき音楽と本

オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

野村芳太郎監督の「事件」

2020-04-30 10:29:18 | 映画
衛星放送の録画で、野村芳太郎監督の映画「事件」を観る。1978年の松竹映画で、原作は大岡昇平の小説。

19歳の少年が、スナックののママを刺殺した事件の話で、犯人とされた少年は被害者の妹と恋仲で同棲中という背景。事件が起きるまでを描くのではなく、当該事件の裁判劇になっていて、裁判の中で、被害者や被告人たちの背景が徐々に浮き上がってくる。

野村芳太郎の映画なので、重厚というか何か重苦しいムードがあるが、最近の妙に軽い映画よりも面白い。何よりも役者が良い。被告人の少年は永島敏行で、被害者は松阪慶子、その妹で同棲相手の娘は大竹しのぶが演じている。

裁判劇なので、検事役と弁護人が重要だが、検事には芦田伸介、弁護士は丹波哲郎ということで、裁判中のやり取りも、なかなか面白い。実際の刑事事件の裁判を見たり聞いたりしたことはないが、こんな風なのかなあと勉強になる。

一番の面白さは、検事側の主張と、その証人に対して、矛盾点を弁護人が指摘して、証言を突き崩していく点にあり、裁判では殺人が意図的であったのか、予期せぬ事故だったのかが争われる。

アメリカ映画では、裁判劇も多いが、アメリカでは陪審員裁判だから、検事と弁護人の役割は陪審員に対するアピールというか、心証形成を図る点に重点が置かれているが、日本では当時は陪審員制度ではないので、裁判官に対する心証形成を狙うのと、裁判官の真実探求に対する姿勢とのぶつかり合いもあるように感じられた。

やはり、役者のそろった芝居は面白いなあと、改めて感じた。

映画「ファンシーダンス」

2020-04-28 10:41:53 | 映画
衛星放送の録画で1989年の日本映画「ファンシーダンス」を観る。ロックバンドをやっていた青年が、寺の跡取りとなるために、禅宗の寺で1年間修業に行くこととなり、その修行の模様を描いている。

入門から始まり、食事、掃除、睡眠方法などが紹介されていき、隠れてお菓子を食べたりする様子がユーモラスに描かれる。禅宗の寺での修行などを間近に見たことはないので、ある意味勉強になるというか、こんなことをやるのかということが分かって面白い。

原作は漫画らしいが、そういえばいかにもキャラクターの作りが漫画っぽいところを感じさせる。主演は元木雅弘で、体の動きというか仕草がとても美しく撮れている。先輩役に竹中直人がいて、元木との対比がなかなか面白い。

監督は周防正行で、一般映画では初期の作品だろうが、リズムよくできている。原作の漫画を読んでいないので何とも言えないが、主人公の元木の役は背景がうまく描かれているが、一緒に入門する修行僧たちの修行の背景や個性が十分に描けているとは言えないような気がする。そこらがあれば、もっと面白かったという気がした。

映画「ゼロ・ダーク・サーティ」

2020-04-24 12:57:00 | 映画
衛星放送の録画で、2012年のアメリカ映画「ゼロ・ダーク・サーティ」を観る。題名からはどんな映画かわからないが、ウサマ・ビン・ラディンをアメリカの特殊部隊が殺害するまでを描いた映画だ。

日本語のウィキで見てみると「ゼロ・ダーク・サーティ」という題名は、「未明」となっているが、英語のウィキで調べると、真夜中を30分ほど過ぎた時間帯を表す軍隊用語となっている。これは英語版のほうが信用できそうだが、日本語題名はカタカナでなく、もう少しわかりやすい題名をつけないと損しているのではないかという気がした。

さて映画は、ウサマを追うCIAの係官を描いたもので、決して主流でもなさそうな若い女性の捜査官が、粘り強く捜査を進めて、遂にアジトを発見して特殊部隊を送り込むという展開になる。

それはそれで面白いのだが、主役の若い女性係員がどうして、そんなに懸命に長期間粘り強く取り組んだのかが描けていない。例えば肉親を9.11で失ったとか、幼いころの体験が正義感を目覚めさせたとか、なんでもよいのだが、その背景描写みたいなものがないと、単にシコシコと頑張るだけの無性格な人間に見えてしまう。

そうはいっても、見ている間は結構ハラハラドキドキしながら、一時はコロナ問題も忘れて集中できた。

映画「愛と銃弾」

2020-04-20 11:09:15 | 映画
衛星放送の録画で、2017年のイタリア映画「愛と銃弾」を観る。イタリア映画は、もともと地方色が強いが、この映画は純粋なポリ映画という感じ。

ナポリは美しい観光名所として有名だが、南部なのでマフィアというかギャングの力が強い地域だ。この映画でも、そのギャングの様子がよく描かれている。

主人公は海産物の養殖や販売を大規模に手掛けている男だが、敵に狙われたりするので嫌気がさして、自分に似た男を殺して、自分が亡くなったことにして引退しようとする。

この主人公の男のボディ・ガードは、子供の時からこの男の世話になって成長したので、、恩義があるのだが、自分の好きだった元恋人が、この犯行の目撃者となって、そのために殺すように命じられるので、恩義と忠誠をとるか、恋人を守るかの選択を迫られる。こんな設定は日本の歌舞伎などともよく似ている。

結局、恋人を守ることにして、自分の親類に頼んで匿ってもらう。ここらの展開は、イタリアだから、血がつながっているかどうかが一番大事だ。

しかし、ギャング側もあらゆる手段で、匿っている娘を探し出して、裏切り者のボディガードを殺そうとする。それに対して、ボディガードの若者は、またもや死んだふりをして切り抜けるという展開。

ギャング映画としてそれなりにスリリングにできているが、なんと途中で出演者たちは歌いだしてミュージカルになってしまう。そういえば、ナポリ民謡もナポリの名物だと思い出す。確か10年ぐらい前にも、こういうギャングもので歌が入るというナポリ映画があったことを思い出した。

観ていると、ナポリの名所がたくさん出てくる。宮殿、卵城、スパッカナポリなどが出てくるので、また、ナポリに行きたくなった。

出てくる連中の性格もイタリア丸出しで、やっぱりイタリア映画は面白いなと、感心した。

カルラ・フラッチの「ジゼル」

2020-04-18 10:52:31 | バレエ
新型コロナのために劇場での公演はなくなってしまったが、気を取り直して家でビデオを観る。衛星放送を録画してカルラ・フラッチの「ジゼル」を観た。アメリカン・バレエ・シアターによる映画フィルムによる記録で、スタンダード・サイズ。1960年代末の収録だと思うが、画像は驚くほど鮮明で色もきれいだった。

カルラ・フラッチは、もちろんイタリア出身のバレリーナだが、話には聞くが実際の映像は見たことがなかったので、今でも美しい映像が見られるのはありがたい。劇場での公演の収録ではなく、スタジオのセットで撮影されている。

フラッチは「ジゼル」が得意だったというだけあって、1幕の踊りがとても良い。王子とのパ・ド・ドゥもよいが、狂乱の場面の迫真の演技も、映画なのでクローズ・アップで表情がとてもよく分かった。

2幕はコールド・バレエで見せる幕だが、スタジオ収録ということもあり、俯瞰撮影したりして変化をつけているが、何となく、俯瞰で撮るとバレエというよりも、30年代のワーナー映画のレヴュー場面のように見えた。また、群舞の場面が、水に映る映像になったりして、好きな場面が見れずにちょっとストレスがたまる。要するにカルラ・フレッチの踊りを中心に取ろうという姿勢だった。

それにしても、伝説的と思われたダンサーの踊る姿を本格的にみることができたので、大満足だった。