ミラノ・スカラ座の新シーズンの開幕公演となった「蝶々夫人」をテレビで見た。2016年は日伊国交150周年ということもあり、スカラ座の開幕に「蝶々夫人」が選ばれたようだ。原題はMadama Butterflyで、バタフライ(イタリア語はファルファッラ)は英語が使われているので、マダムと言いたくなるが、ここはイタリア語でマダマとなっている。分かりにくいが、原作はアメリカの演劇で、出演者もアメリカ人だからバタフライなのだろう。プッチーニは旅先のロンドンでこのベラスコの芝居を観て、オペラ化を決心したという。
スカラ座のシーズン開幕公演は少し遅めで、2016年12月7日だった。シーズンの開幕とあって平土間席の観客は皆ブラック・タイで、オーケストラメンバーも見なホワイト・タイの正装という伝統を感じさせる中継で、序曲の前にはイタリア国家が演奏された。
さて、肝心の演目だが、「蝶々夫人」の1904年の初演版での上演というのが珍しい。初演も同じスカラ座だったが、この時には悪評で、それを受けてプッチーニは何度か書き直して、特に2幕を整理して現在上演されている版に仕上げて観客からも高い評価を得たという。その評判の悪かった初演版なので、すっかりその後は忘れられていたのではないかと思うが、今回初めて見るので、本当に出来が悪いのかどうなのか確かめたいと思った。
というわけで、いろいろな意味で興味深く見たが、初演版の方がドラマ的にも充実していて面白いのではないかと思わせるものがあった。これは作品だけでなく、演出の力も大きいと思う。演出はアルヴィス・エルナミスで、美術も彼自身が担当しており、その美術と一体となった演出が今回の公演の最大の成果ではないかと思える。クリスティーネ・ジュルジャネの衣装は日本人の目から見るとかなり違和感のあるものだったが、エルミナスのセットはよく日本を研究して美しい日本を見せた。日本の美人画や風景、浮世絵などをうまく背景に取り入れて、2幕で蝶々さんが「私はピンカートン婦人」と言い切る場面では和服ではなく洋装として、2幕の後半の花を集める場面では満開の桜を登場させるなど工夫に富んでいる。
よく研究しているが、やり過ぎかなと思う場面もあり、2幕最後で蝶々さんが自害する場面では、2畳大の白い布で覆われたマットが運びこまれて、そのうえでの自害ということになるのだが、この場面は歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」四段目の演出をそのまま取り入れたムードとなっている。
歌手は素晴らしく、特にピンカートン役のブライアン・ヒメルは明るくぬけの良いテノールで聞きほれる。こう言うぬけの良いテノールはなかなか貴重な存在だ。蝶々さん役のマリア・ホセ・シリも美しい声で、鈴木役のアンナニーサ・ストロッパは歌だけでなく演技も優れていた。指揮はリッカルド・チャイリー。
こういうテレビ中継を見ると、やはりスカラ座に行って観なくちゃいけないなという気分になり、さっそく今シーズンの演目と切符の売れ行きをチャックしたが、2~3月にアンナ・ネトレプコが歌う「椿姫」は売り切れだった。残念。
スカラ座のシーズン開幕公演は少し遅めで、2016年12月7日だった。シーズンの開幕とあって平土間席の観客は皆ブラック・タイで、オーケストラメンバーも見なホワイト・タイの正装という伝統を感じさせる中継で、序曲の前にはイタリア国家が演奏された。
さて、肝心の演目だが、「蝶々夫人」の1904年の初演版での上演というのが珍しい。初演も同じスカラ座だったが、この時には悪評で、それを受けてプッチーニは何度か書き直して、特に2幕を整理して現在上演されている版に仕上げて観客からも高い評価を得たという。その評判の悪かった初演版なので、すっかりその後は忘れられていたのではないかと思うが、今回初めて見るので、本当に出来が悪いのかどうなのか確かめたいと思った。
というわけで、いろいろな意味で興味深く見たが、初演版の方がドラマ的にも充実していて面白いのではないかと思わせるものがあった。これは作品だけでなく、演出の力も大きいと思う。演出はアルヴィス・エルナミスで、美術も彼自身が担当しており、その美術と一体となった演出が今回の公演の最大の成果ではないかと思える。クリスティーネ・ジュルジャネの衣装は日本人の目から見るとかなり違和感のあるものだったが、エルミナスのセットはよく日本を研究して美しい日本を見せた。日本の美人画や風景、浮世絵などをうまく背景に取り入れて、2幕で蝶々さんが「私はピンカートン婦人」と言い切る場面では和服ではなく洋装として、2幕の後半の花を集める場面では満開の桜を登場させるなど工夫に富んでいる。
よく研究しているが、やり過ぎかなと思う場面もあり、2幕最後で蝶々さんが自害する場面では、2畳大の白い布で覆われたマットが運びこまれて、そのうえでの自害ということになるのだが、この場面は歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」四段目の演出をそのまま取り入れたムードとなっている。
歌手は素晴らしく、特にピンカートン役のブライアン・ヒメルは明るくぬけの良いテノールで聞きほれる。こう言うぬけの良いテノールはなかなか貴重な存在だ。蝶々さん役のマリア・ホセ・シリも美しい声で、鈴木役のアンナニーサ・ストロッパは歌だけでなく演技も優れていた。指揮はリッカルド・チャイリー。
こういうテレビ中継を見ると、やはりスカラ座に行って観なくちゃいけないなという気分になり、さっそく今シーズンの演目と切符の売れ行きをチャックしたが、2~3月にアンナ・ネトレプコが歌う「椿姫」は売り切れだった。残念。