劇場と映画、ときどき音楽と本

オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

新国立劇場の「ルチア」

2021-04-24 11:03:31 | オペラ
4月23日(金)の夜に新国立劇場でオペラ「ランメルモールのルチア」を見る。50パーセント収容で、Z券も出ていたが、客席を見るとセンター席や前の方はしっかりと埋まっていので、全体としては50パーセントぐらいの入りか。午後6時30分に開演して、25分と20分の休憩をはさみ、終演は9時55分ごろ。いつもより若い人が多かったように感じたのは、若者向けの割引券が販売されていたのかもしれない。

このところ、「イオランタ」や「ワルキューレ」などの新国のオペラでは、日本人のテノールが悲惨といえるほどの悪い出来で、やはり主役級は外国から来ないと無理かと感じていたが、今回はタイトル役のイリーナ・ルング、相手役のローレンス・ブラウンリーが来日して歌い、指揮者もイタリアからやってきた。

タイトル役のイリーナ・ルングの歌は素晴らしく、久々にきちんとしたオペラを聞いたという感じ。テノールのブラウンリーも声は美しくよく伸びていたが、もう少し声量が欲しいところ。日本人のバリトンで、来日できなくなった歌手の代役に入った須藤慎吾もよく声を出して歌っていた。しかし、難点はレチタティーヴォになるとイタリア語が訛って聞こえることだ。ライモンド役のバスを歌った伊藤貴之もそれなりの存在感を示した。

一幕と三幕のイリーナの独唱には圧倒されたが、二幕の有名な6重唱はちょっと盛り上がりに欠けたような気がする。やはり19世紀初頭のベルカント・オペラは日本ではあまり上演されないので、なんとなくオケも低調でドニゼッティのムードが出なかった。もっとこの時代のロッシーニ、ドニゼッティ、ベリーニあたりのレパートリーを増やしてほしい気がする。

指揮者はイタリアのスペランツア・スカップッチという女性指揮者で、ルチアを振るのは初めてだったようだが、東京フィルハーモニーとに息が今一つ合わなかったように感じた。

舞台美術は美しくなかなか良いと思ったが、基本的に照明が全部逆光で、背部や横からしか照明が当たらない。歌っている歌手をよく見たいのだが、正面から当てるスポットライトが弱すぎて、顔の表情などはわからずストレスが溜まった。最近はこうした妙に凝った照明が流行するが、歌っている人物にはきちんと光を当てるべきだろう。

いろいろと気になる点はあったものの、イリーナ・ルングの歌声はすべてを補って余りあるもので、久々に満足して、オペラを聞いた気になった。

家に帰って軽い食事。野菜スープ、ソーセージと温野菜。飲み物はボルドーの白。

都響メンバーによる室内楽

2021-04-14 10:33:41 | 音楽
4月13日(火)の夜に東京文化会館小ホールで、都響メンバーによる室内楽を聞く。午後7時開演で、20分の休憩をはさみ、終演は8時55分ごろ。チケットの売り出しは50パーセント収容の市松模様だが、客の入りは悪く、せいぜい20パーセント位しか入っていなかった。ちょっと寂しい。観客は中年層が多いが、芸大生ではないかと思われる若い学生の姿も見かけた。入りが悪いのはコロナのせいもあるかも知れないが、出演メンバーも曲目も渋いということがあるのかと考えた。

室内楽というと、弦楽四重奏が多いが、都響のようなオーケストラメンバーでの編成ならば、五重奏、六重奏、七重奏も組みやすい。そうしたことから、今回は五重奏、六重奏、七重奏の珍しい編成で聞けた。

前半はドボルザークで、「二つのワルツ」と「弦楽五重奏曲第2番」。編成は弦楽四重奏にコントラバスが追加されたもの。「二つのワルツ」は美しい曲で聞きほれた。弦楽五重奏曲も美しい曲だが、ドボルザークらしい民族音楽調はなりを潜めて表には出ていない。弦楽四重奏にコントラバスを追加した編成では、低音部が充実するかと思ったが、なんとなくコントラバスの存在感がありすぎで、全体のバランスという点ではちょっとどうかなという感じがした。しかし、いつもオーケストラで共演しているメンバーだけに、ピタリと息の合った演奏だった。

後半はリヒャルト・シュトラウスで、歌劇「カプリッチョ」前奏、「メタモルフォーゼ」の弦楽七重奏版。「カプリッチョ」のほうはヴァイオリン、ヴィオラ、チェロが各2本づつの六重奏。「メタモルフォーゼ」はそれにコントラバスが加わった形。どちらの曲もいかにもシュトラウスらしい感じで、美しいメロディが複雑に絡み合って進行していく。昔はどうもこういう曲は苦手だったが、オペラ「バラの騎士」などを見てシュトラウスにも慣れたのか、案外面白く聞いた。

ドボルザークの曲ではコントラバスが浮いた印象を持ったが、シュトラウスの「メタモルフォーゼ」では見事に溶け合って美しく響いていた。大編成のオーケストラもよいが、こうした小編成の室内楽もピュアな音が楽しめて、一つ一つの音までクリアに聞こえるので、心休まる印象で、たまに聞きたいという気になった。

コロナのために、外食はできないので家に帰って軽い食事。サラダ、イワシのオーブン焼き。グース・パテなど。飲み物はイタリアのスプマンテ。


新国立劇場の「夜鳴きうぐいす/イオランタ」

2021-04-09 10:57:14 | オペラ
4月8日(木)の夜に新国立劇場で、ロシア・オペラの二本立てを見る。50パーセント収容かもしれないが、その50パーセントも埋まっておらずちょっと寂しい。午後7時開演で、最初にストラヴィンスキーの「夜鳴きうぐいす」が50分あり、なんと40分もの長い休憩があって、後半はチャイコフスキーの「イオランタ」が95分。終演は10時5分となっていたが、カーテンコールなどもあり、最終的に終わったのは10時20分ごろ。

大野和士が芸術監督になったときに、新国のオペラにロシア物のレパートリーがないので、それを加えたいと抱負を述べていたので、「スペードの女王」か「ボリスゴドノフ」でもやってくれないかなあと期待していたのだが、ストラビンスキーとチャイコフスキーの1幕物の二本立てというのでちょっと驚いた。「イオランタ」のほうは2019年に研修所の試演会で上演されたので見ていたが、「夜鳴きうぐいす」は初めて見る作品で、今シーズンのラインアップの中でも一番期待していた。

ロシア語での上演ということもあり、ロシア作品をレパートリーとする外人歌手が来るはずだったが、コロナ騒ぎで来日できずに、日本人と日本在住のロシア人歌手に置き換わった。ただし、演出や美術、振り付けなどはリモートで行われたとプログラムにはあった。

前半の「夜鳴きうぐいす」はいかにもストラヴィンスキーらしい難し気な曲だったが、みな立派に歌っていた。タイトル・ロールのうぐいす役の三宅理恵、料理人の針生美智子は見事な歌いっぷり、男性陣がいつも心配なのだが、漁師役の伊藤達人はテノールの新人で美しく伸びる美声を聞かせてくれた。伊藤はドイツ留学から帰国した時からひそかに注目して御贔屓にしているのだが、今回の歌がよかったので、今後さらに大役を演じてほしいと思う。

ヤニス・コッコスの演出と美術は素晴らしい。全体としては1910年代のディアギレフのバレエ・ルスの雰囲気を思い起こさせるもので、ストラビンスキーが作曲した時代のモダニズムのムードがよく出ていた。間違いなく世界一流のレベルで、これならばどこに出しても恥ずかしくないという物。このプロダクションが新国のオペラのレパートリーに入ったのはとてもうれしい。

休憩時間の40分はいかにも長く、おまけにロビーでは飲み物のサービスもないので、劇場を出て近所のコーヒー店でカフェ・ラテを飲んで時間をつぶした。

後半のイオランタは、素晴らしい盛り上がりを見せるチャイコフスキーの傑作だと思う。最後は神と皇帝に祝福あれみたいな、ロマノフ王朝賛歌のように終わるが、作品としては面白い。オペラでは珍しく恋愛沙汰でドロドロとしていないので、これならば子供にも安心して見せられる。

コッコスの美術と演出はここでも光る。アッピアと表現主義の影響を受けたようなセットで、とても効果を上げていた。タイトル・ロールの大隅智佳子は力強く歌い、大編成のオーケストラ(東フィル)にも負けない声で歌った。男性陣ではルネ王役の妻屋秀和が娘を思う父親の心境を歌い感動的だった。しかし、それ以外の男性役は全体的に低調で物足りない。特にイオランタの恋するヴォデモン役の内山信吾は、テノールなのに高い声が出ずに、全体的に不安定になってしまった。

「ワルキューレ」でも、今回の「イオランタ」でも、男性歌手、特にテノールの弱さが目立つ。日本にはまともなテノールはいないのだろうか。それとも新国では出演しにくいのだろうか。明治時代に帝国劇場のオペラ指導に招かれたローシーは、男性のバリトン、テノール歌手が見つからずに困ったが、清水金太郎を見つけ出してやっと安心したという。昔から日本では男性歌手が弱いのだろうか。伊藤達人にはぜひ頑張ってもらいたい。

家に戻ると11時頃だったので、サラダとほうれん草のキッシュで軽い食事。飲み物はカヴァ。

東京文化会館のバースデイコンサート

2021-04-08 11:10:57 | 音楽
4月7日(水)の夜に、東京文化会館のバースデー・コンサートを聴く。東京都響で、佐渡裕の指揮。ゲストが藤村実穂子という豪華な顔合わせ。午後7時に開演して、20分間の休憩をはさみ、終演は8時55分ごろ。チケットの発売開始時には、50パーセント収容で発売され、緊急事態宣言解除に伴い、直前になって追加販売したようだが、追加販売を知らない人も多かったようで、結構空席はあった。観客は音楽マニアといった雰囲気の人が多かった。

前半はワーグナーで、最初に「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の序曲があり、続いて、藤村実穂子が「ヴァーゼンドンク歌曲集」をうたった。藤村はコロナのためか日本にずっといるようで、彼女の歌をたびたび聞けるのはありがたい。このコンサートでも伴奏はピアノではなくオーケストラ版で、かなりの音量を出したが、それにも負けない声量を持ち、安定して伸びやかな歌声で、その声を聴くだけでコンサートに来たかいがあると感じさせる。

後半はドボルザークの「新世界より」で、佐渡裕は後半の強い演奏で盛り上げを見せた。ワーグナーの後にどうしてドボルザークなのだろうと思ったら、配られたプログラムに理由が書きされていた。文化会館は60年前に開館して、その時の開館披露のコンサートで演奏されたのが、この「新世界より」だったので、それを演奏したというわけだ。

東京文化会館は60周年ということは、1961年の開館で、64年の東京オリンピックよりも前に開館したことになる。旧耐震基準ではないかと心配になるが、コンクリート打ちっぱなしの外観も含めて、あまり古びた印象はない。ホールの音響のよく、どの席からも見やすいので、大ホールも小ホールも好きなコンサート会場だ。

最後の佐渡裕の挨拶があり、彼もこの文化会館の開館の翌月に生まれたので、ほぼ同じ年齢だという。まことに60周年にふさわしいコンサートだった。

家に帰って軽い食事。作っておいたポトフを温めて食べる。飲み物はフランスの白で、「銀の月」というラベルで2018年物だったが、値段の割にとてもおいしく感心した。

ブラームスの室内楽

2021-04-04 16:01:01 | 音楽
4月3日(土)の夜に上野の東京文化会館小ホールで、ブラームスの室内楽を聞く。東京春音楽祭の一環。市松模様で50パーセントの収容。客層はいかにも音楽ファンという感じの人が多かった。18時からで、20分の休憩をはさみ、終演は19時40分。

ホールへ向かう途中用事もあったので、アメ横の付近を通ったら、夕方から酒場が賑わって路上のテーブルまで満席状態。大いに盛り上がっていた。コロナにも飽きてきたという様子。

さて、曲目は前半がブラームスの弦楽五重奏曲第1番。後半は、クラリネット五重奏曲のヴィオラ版。ヴァイオリン2丁、ヴィオラ2丁、チェロ1丁という構成。ヴァイオリンは加藤知子、矢部達哉、ヴィオラは川本嘉子、横溝耕一、チェロは向山佳絵子。いずれもソロやオケで演奏活動をしている人たち。

弦楽四重奏というのは多いが、五重奏というのはこれまで聞く機会が少なかった。五重奏も四重奏と似ていて、いわば小編成のオーケストラと聞く趣がある。管楽器や打楽器が入らないので、音のダイナミックさというのは望めないが、その分ピュアな音の響きが楽しめる気がして、心洗われるような演奏を聴いた。

クラリネット五重奏曲のほうは、本来はクラリネットのパートをヴィオラで演奏するわけで、ヴィオラの聞かせどころがたっぷりあり、普段はあまり聞かないヴィオラの音色を堪能した。

非常事態宣言が解除されたといっても、午後9時に閉店なので、コンサートの後にレストランはまだ難しい。そこで家に帰って食事。大根サラダ、タプナードとパン、ソーセージなど。飲み物はフランスの白。