バレエの本を多く出している新書館の「バレエ入門」を読む。三浦雅士著で、280ページ程度、2000年の出版。著者は「ダンスマガジン」の編集長をやっていただけでなく、その後は思想誌「大航海」を創刊したとある。そういう人が書いた本だ。
「バレエ入門」とタイトルがつくと、実際にバレエを習う人のために入門書が多いので、この本もそうした内容だろうと思って、手にも取らなかったのだが、バレエを習う人向けというよりも、きちんと見たい人向けの内容だと知ったので、読んでみた。内容としては、導入部分が1章で20ページ、誕生から現在までの歴史が中心となっていて、8章で190ページぐらい。ダンサーと振付家の関係などが、最後の2章で35ページぐらい、という構成。量的に言ってもバレエの歴史書といってよいだろう。
ところが、この本が面白いのは、事実関係を記載した歴史ではなく、いわばバレエ思想史とでも言ったらよいような形で、これまでの人々はバレエで何を描こうとしたのかを解説している。こうした記述は他の本にはあまりないので、貴重な本だともいえる。個別の作品の内容や、上演などの事実関係については他の本を読んでくださいという形。だから、「入門」とはなっていても、バレエ作品を一通り観た人でないと、イメージが湧かないかも知れない。一方、ある適度バレエを知っている人には、各作品の位置づけが判り、大変勉強になると思うう。
いろいろな作品が生まれてきたのは、もちろん各人の考えや個性も大きいが、そうした芸術を生み出した社会的な背景が大きく影響していることも見逃せないだろう。そうした点で、オペラや音楽との関係だけにとどまらずに、演劇や美術との関係にもきちんと目配りしてあり、なぜ、作品がその時代に生み出されたかというのが良く分かるが、逆に、そうしたことを全く知らない人にとっては、混乱を深めるだけかも知れない。
文章は平易にまとめられていて読みやすく、誰でも読めるが、内容的には全く「入門」ではない。特に、20世紀の説明部分では、モダンダンスとの関係もかなり記述されていて、一般の人からすると、バレエとモダンダンスとはちょっと違っているのではないかという部分を、一つの歴史としてうまく説明している。著者の考えによれば、バレエは、バレエ・ブランの誕生あたりから、現実世界と冥界との間を描こうとしており、それは能の演劇構造とも比較し得るものだとしたうえで、20世紀のベジャールやピナ・バウシュにしても、死と再生を描こうとする点では、その延長線上にあるという説明をしている。
これを読むと確かにそうだなあという気がするが、僕などはもっとエンターテインメントな作品が好きだから、あまり真面目くさった暗い内容の作品よりも、軽いエンターテインメントの作品が好きだ。
著者はジョン・ケージの音楽とマース・カニンガムのチャンス・オペレーションみたいな踊りも重要なものだというけれども、結局は歴史に残らない、つまり人々には支持されなかった作品ではないかという気がする。どうも前衛的なモダン・ダンスは苦手だ。
まあ、かなり著者の深い思想に裏打ちされた面白い歴史書だといってよいだろう。「入門」という書名でだいぶ損をしているのではないかと思った。
「バレエ入門」とタイトルがつくと、実際にバレエを習う人のために入門書が多いので、この本もそうした内容だろうと思って、手にも取らなかったのだが、バレエを習う人向けというよりも、きちんと見たい人向けの内容だと知ったので、読んでみた。内容としては、導入部分が1章で20ページ、誕生から現在までの歴史が中心となっていて、8章で190ページぐらい。ダンサーと振付家の関係などが、最後の2章で35ページぐらい、という構成。量的に言ってもバレエの歴史書といってよいだろう。
ところが、この本が面白いのは、事実関係を記載した歴史ではなく、いわばバレエ思想史とでも言ったらよいような形で、これまでの人々はバレエで何を描こうとしたのかを解説している。こうした記述は他の本にはあまりないので、貴重な本だともいえる。個別の作品の内容や、上演などの事実関係については他の本を読んでくださいという形。だから、「入門」とはなっていても、バレエ作品を一通り観た人でないと、イメージが湧かないかも知れない。一方、ある適度バレエを知っている人には、各作品の位置づけが判り、大変勉強になると思うう。
いろいろな作品が生まれてきたのは、もちろん各人の考えや個性も大きいが、そうした芸術を生み出した社会的な背景が大きく影響していることも見逃せないだろう。そうした点で、オペラや音楽との関係だけにとどまらずに、演劇や美術との関係にもきちんと目配りしてあり、なぜ、作品がその時代に生み出されたかというのが良く分かるが、逆に、そうしたことを全く知らない人にとっては、混乱を深めるだけかも知れない。
文章は平易にまとめられていて読みやすく、誰でも読めるが、内容的には全く「入門」ではない。特に、20世紀の説明部分では、モダンダンスとの関係もかなり記述されていて、一般の人からすると、バレエとモダンダンスとはちょっと違っているのではないかという部分を、一つの歴史としてうまく説明している。著者の考えによれば、バレエは、バレエ・ブランの誕生あたりから、現実世界と冥界との間を描こうとしており、それは能の演劇構造とも比較し得るものだとしたうえで、20世紀のベジャールやピナ・バウシュにしても、死と再生を描こうとする点では、その延長線上にあるという説明をしている。
これを読むと確かにそうだなあという気がするが、僕などはもっとエンターテインメントな作品が好きだから、あまり真面目くさった暗い内容の作品よりも、軽いエンターテインメントの作品が好きだ。
著者はジョン・ケージの音楽とマース・カニンガムのチャンス・オペレーションみたいな踊りも重要なものだというけれども、結局は歴史に残らない、つまり人々には支持されなかった作品ではないかという気がする。どうも前衛的なモダン・ダンスは苦手だ。
まあ、かなり著者の深い思想に裏打ちされた面白い歴史書だといってよいだろう。「入門」という書名でだいぶ損をしているのではないかと思った。