劇場と映画、ときどき音楽と本

オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

藤原歌劇団の「ラ・トラヴィアータ」

2019-01-27 12:49:37 | オペラ
1月26日の昼に東京文化会館で藤原歌劇団の「ラ・トラヴィアータ」を観る。14時開演で、2回の休憩を挟み、終演は17時ごろだった。客席は8割程度の入りで、人気演目のためか客席はほぼ埋まっていた。25日から27日の三回公演で、トリプル・キャストとなっている。三回のうち、初日はヴェテラン、二日目は新人、三日目は中堅というような配役で、26日は新人に相当する日だった。

カタカナの題名となっているが、中身は「椿姫」だ。昔から「椿姫」で通っているが、原題は「道を踏み外した女」というイタリア語だから、「椿姫」ではなく、カタカナにしたのかも知れないが、原題の意味を知っている人にしか意味は通じないだろうから、日本語のままでの良いような気がする。

このオペラでは、主要な配役はヴィオレッタ、アルフレード、ジェルモンの三人だが、26日は三人ともよく声が出ていて感心した。一番良かったのはヴィオレッタを歌った伊藤晴で、歌も表現力も申し分なく、なかなか良いヴィオレッタだと思った。感情表現もうまく対応していたが、3幕でジェルモンからの手紙を読む場面は、イタリア語の朗読で、歌になっていないため、イタリア語らしい響きがもう少し欲しかった。

アルフレード役の浜崎一了は、明るくのびやかの声で観客を魅了した。歌唱の表現力という点では、これからという印象で、今後の伸びに期待をしたい。ジェルモン役の折江忠道は総監督も兼ねる大御所で、迫力のある声で申し分ないが、イタリア語の感情表現という点でもう少し改善されるとさらに良くなる。2幕1場のヴィオレッタとの対話の中で、「ピアンジ(泣きなさい)」という場面はこの芝居の象徴的な場面だろうが、その言葉に説得力、老貴族の気品、ヴィオレッタへの思いやりが出ていない。これは今後の課題だろう。

時折、うんざりするほどヘンテコな演出で観る気を失わせる藤原歌劇団の公演だが、今回は粟國淳の演出で安心して観ることができた。粟国氏は恐らくゼフィレッリの下で本格的にオペラ演出を学んだので、極めてオーソドックスで分かりやすい演出を行う。今回も背景は大きな額縁にそれぞれの場面を象徴するような絵を投射して、十分その場の雰囲気を出すことに成功している。全体的に大きな予算をかけているわけではないだろうが、衣裳、セット共に申し分ない出来で、作品としての解釈も判りやすい名演出だと思った。粟國氏の演出はこれからも追っかけて行こうと考えた。

オーケストラは東京フィルハーモニーで指揮は佐藤正浩。若干テンポが遅いような気もしたが、全体的に良くまとまっていた。

2幕の2場のフローラの夜会は、ジプシーや闘牛士の踊りが入る。今回は女性は谷桃子バレエ団、男性は新国立バレエ団からダンサーを呼んで本格的な踊りを披露したが、ジプシーの踊りは、もう少しジプシーらしさがあっても良いかも知れない。この場面は、歌詞にも出てくるが、仮面舞踏会の場面だと思うんが、今回の歌詞では「仮装」と翻訳されていた。それでも、その後に、ジプシーとか、闘牛士が突然出てくるのだから、何等かな形できちんと翻訳しておくのが大事だろう。

結構楽しんで、いい気分で帰る。寒かったので外食せず、家で豚肉の煮込み料理を食べた。

東京文化会館の「弦楽四重奏の神髄」

2019-01-25 15:03:33 | 音楽
1月23日(水)の夜に、東京文化会館の小ホールで、弦楽四重奏を聴く。前橋汀子カルテットで、ベートーヴェンのラズモフスキー2番と、弦楽四重奏4番。午後7時に始まって、15分間の休憩を挟んで、終演は8時50分頃だった。場内は満席で、結構男性比率も高かった。

実は前橋汀子の「私の履歴書」が日経新聞に連載されてい他のを読んで、最近は弦楽四重奏にも力を入れていることを知り、チケットを取った。「私の履歴書」の中にも出てきたのだが、「ラズモフスキー第二番」は中々聴きごたえのある作品だった。14番の方も7楽章まである曲を一気に演奏するもので、55分もかかる大曲。これまで、ベートーヴェンの弦楽四重奏はあまり聞いていなかったのだが、聴いてみると、各パートの個性が光り輝く曲の構成で、面白いもんだなあと、改めて感心した。

最後に、アンコールに応えて、チャイコフスキーのセレナーデを演奏したが、こちらはいかにもチャイコフスキーらしく、美しい旋律をきかせるもの。ベートーヴェンの曲は、旋律をきかせるというよりも、主題の変奏テクニックを見せるようなところがあるから、最後にちょっと気分が変わってよかった。

帰りはいつものスペインバルで軽い食事。生ハム、トルティージャ、ワカサギのエスカベッシェなど。

国立劇場の「姫路城音菊礎石」

2019-01-22 15:41:09 | 歌舞伎
1月21日(月)の昼に国立劇場で、菊五郎劇団の「姫路城音菊礎石」を見る。着物の着付け教室の団体が入っていたためか、8割ぐらいの入り。珍しく客席が埋まっていた。午後0時の開演で、35分、25分、15分と3回の休憩を挟み、終演は15時50分だった。着物の団体客が入っていたので、なんとなく劇場内は普段よりも華やいだムード。

菊五郎劇団の正月芝居は、毎年恒例だが、いつもおふざけが入っている。今回も最初から、流行のダンスを取り入れていたが、こうしたおふざけは、途中の気分転換の方が良いのではないかという気がする。

チラシを読むと、並木五瓶の「袖簿播州廻』の復活狂言となっているが、かなり改作されているのか、物語の展開で精いっぱいで、芝居を楽しむところがない。

話の内容は、姫路城のお家騒動で、若殿の郭通い、家宝の紛失、狐の人間への取りつきなどが描かれていて、話はややこしい。菊五郎や時蔵などの重鎮は、ちょこっと顔を見せるだけで、菊之助や松緑が代わって、頑張る内容だ。菊之助は踊りで魅力を見せるし、松緑は立ち回りで元気にふるまう。

芝居をじっくりと見せる場面はなく、君主の血筋を守るために我が子を犠牲にする「寺子屋」みたいな展開になるのかと思えば、あっさりと「狐なので身代わりにはなれません」という展開。拍子抜けする。

こういう荒唐無稽なのも良いが、どこか一か所でも、もっときちんと芝居を見せる場面が欲しい。菊五郎にしても悪役なので、徹底的に憎らしく演じて欲しいところだが、あまりそうした演じ方でもない。

期待外れで、なんだか歌舞伎が好きでなくなりそうな公演だった。

寒い日だったので、家に帰って湯豆腐をつつき、最後のうなぎを食べる。

お正月に見る「新興鏡獅子」

2019-01-18 12:28:28 | 歌舞伎
お正月に見るべき歌舞伎といえば、曽我の対面というのもあるが、僕は「新興鏡獅子」が好きだ。舞踊作品として有名だが、いかにもお正月らしい華やかさがある。

江戸城の大奥で、正月の鏡開きの余興で、お小姓の弥生が嫌がるのを無理に踊らされるという設定。最初に無理やり連れてこられて、嫌がって一度は上手に引っ込むものの、もう一度手を引かれて登場して、そこで観念して、踊りを披露する。所作事の中でも、こうした状況設定が丁寧にされていると、雰囲気がわかってうれしくなる。

最初は振袖の袂を使った踊り、続いて女扇を持っての踊り、そして二つの舞扇を使った踊りがあり、牡丹をあらわすが、そこから、鏡餅のところにある獅子頭を手にとり、その獅子頭の精が弥生に乗り移り、獅子に操られるように、花道から引っ込む。

牡丹に獅子となれば、そこからは二人の胡蝶の踊りとなり、振り鼓を使った踊り。胡蝶の踊りの間に着替えて獅子となった弥生が登場して、獅子と胡蝶の踊りとなって幕となる。

伴奏は長唄で、踊りにも変化があり、飽きさせないし、何しろ最初の導入部が良い。歌舞伎の代表的な所作事だが、正月にテレビを見ていたら、花柳基が弥生となって踊る舞台中継をやっていたので、それを録画して観た。

舞台装置も歌舞伎で見慣れたもので、本格的な踊りで堪能。正月の舞台を見たという気になった。

スピルバーグの「ウエスト・サイド物語」

2019-01-15 13:30:43 | 映画
あのスティーヴン・スピルバーグ監督が、ミュージカル「ウエスト・サイド物語」をリメイクするという。本当かなと思っていたら、アニタ役にアリアナ・デボーズが配役というニュースが伝えられ、着々と準備が進んでいるようだ。

「ウエスト・サイド物語」というと、バーンスタインの音楽とジェローム・ロビンスの振り付けの印象が強烈で、リメイクしたらイメージが崩れるようで怖いが、スピルバーグなので、何か面白いことをやるかも知れないという気もする。

振付がどうなるかというのが最も気になるところだが、ニュースの伝えるところによると、ジャスティン・ペックによる新振付だという。ジャスティン・ペックはニュー・ヨーク・シティ・バレエのソリスト出身の新進気鋭の振付家で、なかなか面白い振り付けを見せる。昨年のミュージカル「回転木馬」の再演でも今までにない振り付けを見せて大好評だったから、ジェローム・ロビンスとは一味違った「ウエスト・サイド物語」を作ってくれそうな気もする。

スピルバーグ監督は、古今東西の作品を良く見ているので、それをうまく現代化して見せてくれる。「スター・ウォーズ」にしても、最初のエピソードでは黒沢明監督の「隠し砦の三悪人」のリメイクに思えたが、テーマ音楽がワーグナー風の響きだったので、途中からのエピソードはワーグナーの「指輪」の壮大な話に切り替わっていった。

今度の「ウエスト・サイド物語」は舞台も映画も名作だったので、どんなふうに料理するのか、ちょっと楽しみだ。