劇場と映画、ときどき音楽と本

オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

宝塚星組の「こうもり」

2017-12-30 15:46:06 | ミュージカル
日本の年末は第九ばかりで、ちょっと空気が重いので、ウィーン風に「こうもり」でも見ようかと思っていたら、たまたま衛星放送で宝塚版の「こうもり~こうもり博士の愉快な復讐劇」をやっていたので、録画して観る。16年春の星組公演で、102期生のお披露目を兼ねた舞台。

題名からしてヨハン・シュトラウスの名作オペレッタの脚色であることは明らかだが、宝塚向けというか、かなり自由に脚色している。1時間40分程度にまとめる必要があるので、曲の数を絞り込み、話を分かりやすくするために、この復讐劇の前段のエピソードで、オペレッタには出てこない部分を付け足している。アルフレードはオペレッタではロザリンデの愛人だが、宝塚版ではアイゼンシュタインの召使となっていて、アイゼンシュタインとロザリンデの二重の浮気という、いかにも19世紀ウィーンらしい味が抜けてしまった。

また、アデールに歌の上手い妃海風を起用したためか、オルロフスキー邸で歌うハンガリアの唄はロザリンデではなくアデールが歌い、仮面で身分を隠したロザリンデを、夫であるアイゼンシュタインが口説いてしまうという抱腹絶倒の筋書きが失われてしまった。オルロフスキーの性格もオペレッタ版とはかなり違う。まあ、宝塚での上演ではいろいろな制約があるのだろうが、「こうもり」を良く知っている人が見るとがっかりとするだろう。

結局は脚本が詰まらないということだろうが、脚本、演出は谷正純。1990年に大劇場デビューしたようなので、もうベテランといえると思うが、最近の宝塚では、歌の上手い娘さんが少なくなったようなので、よほどうまく台本を書かないと面白くならない。

しばらくぶりに見に行こうかとも思うが、こうしたテレビ中継を見ると、ちょっと心がくじける。

併演のレビューは「ザ・エンターテイナー」。歴代のエンターテイナーでも登場するのかなと思ったら、映画「スティング」の主題歌となった「エンターテイナー」に触発されたショーという感じで、特に特徴のないレビュー。もっと、テーマを決めてそれに沿った構成にしないと、どのショーを見ても同じという、偉大なるマンネリという感じ。ショーをきちんと批評する人はいないのかなあと、思う。

やはり、1970年代の定年制の導入などで、歌や踊りのうまい人材が専科に残りにくくなったのではないかという気がする。それでも、公演は毎回切符が売り切れているようだから、興行的には良い成績を残せているので、大変良いことだと思った。


サンクトペテルブルグ・アカデミー・バレエの「白鳥の湖」

2017-12-29 14:41:48 | バレエ
ロシアにはいろいろとバレエ団があるが、このサンクトペテルブルグ・アカデミーは1960年代に設立された比較的新しいバレエ団のようだ。来日公演ではあるが、オケは同伴せずに、東京の公演だけ生オケで、地方都市は録音音源を使って回っているようだ。スター・ダンサーがいないためか、チラシにも主演バレエ・ダンサーの名前が載っていないので、ちゃんとうまい人が踊るのか心配な公演だが、価格が安いこともあり、12月28日の11時30分の回に、オーチャード・ホールで観てきた。今年の劇場通いはこの作品で終わり。

冬休みに入ったせいか、子供連れの家族や、中年のご婦人が中心の客層。劇場はガラガラでちょっと可愛そうなくらいの入り。あまりに入りが悪いためか、招待客もすごく多そうなムードだった。1階は何とか7~8割の入りとなっていたが、2階と3階は1~2割しか入っていなかった。やはり、スターが出ないと客が入らないのか、とも思うが、12月28日の昼の公演というのはちょっと行きにくいかも知れないと思った。

さて、公演の内容は極めてオーソドックスな内容で、気をてらった演出や振付は全くなく、セットや衣装もちゃんとしている。特に王妃の衣装などはちょっと驚くほどのキラキラで、豪華な衣装。ロッドバルトなども変な衣装で出てこないので、安心してみていられる。オケは東京ニューシティ管弦楽団で、初めて聞いたが、下手ではないが、絃の人数が少なくて、ちょっと音が寂しかった。二管編成でコントラバス2本、チェロ3本ぐらいの編成。オケはまあ、良いのだが、指揮のウラジミール・アルテメフのテンポは全体的にゆっくりしすぎていて、黒鳥のパ・ド・ドゥの皇子のソロなどはちょっと踊りにくそうに思えた。

オデット・オディールを踊ったエレーナ・チェルノワは黒鳥の32回転はそつなくこなすというレベル。その後のコーダで、皇子に近づいていく場面では、脚を後ろに蹴る振付の間に、ちょっと小さくジャンプするしぐさが入っていて、こういう振りもあるのだと、初めて知った。

ソロ・ダンサーたちは、一応テクニックは持っていて、振付をきちんと踊ってはいるが、物語の情感をうまく表現しているかというと、それは別の問題で、あまり情感がこもった踊りには見えなかった。この「白鳥」では2幕と4幕のバレエ・ブランシュがあり、白鳥の群舞が見どころのひとつなのだが、コールドバレエの数が20人+ソリスト2人しかおらずに、ちょっと少なくて寂しい。最低でも24人+αにしてほしい。見慣れた新国立では32人出てくるので、それだけでぐっと豪華に感じる。

それでも、日本の2流のバレエ団の公演よりもずっと充実していて、それなりに観る価値もあるが、こんなにガラガラなのはもったいないと思った。

バレエの後は、たまに顔を出している会社の年末の仕事納めに行って、関連の人にあいさつをして回る。一年は早いもので、あっという間に終わってしまう。もっと劇場にお通いたい気持ちがあるが、あまり通い続けると疲れてしまうので、体力も付ける必要を感じた。

マニュエル・ルグリ版の「海賊」

2017-12-28 19:59:36 | バレエ
衛星放送で放映したので、マニュエル・ルグリ版の「海賊」を観る。ウィーン国立歌劇場バレエ団の2016年春の公演の録画。

「海賊」というバレエは、バレエ・ガラではよく見るし、コンテストの男性出場者などは必ず踊る演目なので、よく目にする演目だが、全幕通しの公演は少ないので、たまにしか見ない。これも一般的な振付はプティパだが、音楽がアダンやほかの人の曲を適当に組み合わせているのか、ブンチャカしているだけで、バレエの伴奏としては良いのだが、音楽としての魅力には書けるかも知れない。

振付けたルグリは長年パリオペのエトワールを務めていたので、踊る姿は観ているが、振り付けはどうなのかなあという気持ちで見る。チェックしてみると2010年からはウィーン国立劇場の芸術監督に就任しているので、そこで改定振付した作品だろう。

たまにしか見ていないので、正確にはわからないが、物語は大筋では同じだが、細部は随分と違っているように思えた。振り付けの内容もかなり大胆に見直しているのではなかろうか。

「海賊」はガラで見慣れているので、あの曲ならばこの衣装で、あの踊りというイメージが出来上がっているのだが、衣装はかなり違っている。別に違っていて悪いわけではないが、なんとなく違和感がある。ある意味で写実的な衣装だが、話の内容は、相変わらずなので、衣装だけを現実に近づけても意味がないのではないかと思った。

いずれにしろ、第三幕ではパシャが寝ている間に夢を見て、その中でクラシック・チュチュのコールド・バレエが踊るわけで、一部分だけ衣装を変えたとしても、全体の構成は変えられない。

まあ、久しぶりに「海賊」を観て思い出した。


京都の吉例顔見世

2017-12-27 16:11:33 | 歌舞伎
年末の風物詩である京都の吉例顔見世興行のテレビ中継をやっていたので、録画で観る。演目は「義経千本桜」から、「渡海屋」「大物浦」。年末の吉例顔見世といえば、四条にある京都南座のイメージだが、昨年からの改修工事がまだ続いているらしく、ロームシアター京都の大ホールで行われているようだ。

ロームは昔は小さな電気部品を作っていたような気がしたが、現在は半導体と集積回路の大会社で、芸術活動へのメセナにも熱心なので、ありがたいことだ。この劇場は行ったことがないのでどこにあるのだろうと調べてみたら、四条よりもちょっと北の二条のあたりで、平安神宮に隣接する場所にある京都会館の名前が変わったらしい。

歌舞伎は定員2千人の大ホールでの公演だから、南座よりもちょっと大きいか。ほかにも小ホールなどがいろいろと入っているようなので、「まねき」というのか、名前を書いた札や、演目の絵などが劇場正面に一応出ているが、建物のムードに合わずにちょっと残念な気がする。

南座は現在の耐震基準に照らして問題がある一方、概観はそのまま維持したいということで、なかなか工事が難しいのだろうが、早く再開してほしいものだ。

さて、このロームシアター京都での顔見世は八世芝翫の襲名も兼ねているということで、にぎやかな舞台。テレビで中継されたのは、昼の部からの「渡海屋」と「大物浦」。「義経千本桜」のエピソードだが、壇ノ浦で死んだはずの平家の知盛や八歳の安徳天皇が逃げ延びていて、義経を討とうとするが、返り討ちに会うという話。

歴史的な事実とはちょっと違うようだが、こうした作り話はいかにも歌舞伎らしくて面白い。特に「大物浦」でのエピソードは、「平家物語」にあるようなエピソードもちりばめられていて、それがわかると二重に面白い。

主演の知盛には襲名の芝翫、その女房役には時蔵、脇役に鴈治郎や勘九郎を配して、義経役には秀太郎とベテランが務めている。こういう風に脇までうまい役者がそろっていると、なかなか見応えがある。

僕なぞは時蔵が好きだから、時蔵と安徳天皇役とのやり取りがなかなか良いなあと思う。

ロームシアターは、やはり多目的ホールなので、花道を仮設で作ってはあったが、あまりムードが出ていない。最後の弁慶の引っ込みなども、ちゃんとした花道で観たかった

テレビでもこうして吉例顔見世興行を観ると、年末気分に浸れて、なかなか良かった。

マリインスキーの「くるみ割り人形」

2017-12-26 13:21:17 | バレエ
ちょうどクリスマスの夜に、マリインスキー劇場のバレエ「くるみ割り人形」をやっていたので、衛星放送を録画で観る。「くるみ割り人形」はけっこういろいろな改訂版が出ているが、原振付はプティパなので、ワシーリ・ワイノーネンの改定振付版とはいえ、オリジナルに近いのかなあ、と考えながら見る。

思った通りに、話の運びは極めてオーソドックスで、奇をてらうようなところはない。まあ、一幕の後半からはすべてマーシャの見る夢なので、話は荒唐無稽でもなんでもかまわないということだろう。一幕の後半の粉雪の精のコールド・バレエは、腕に雪のポンポンみたいな飾りをつけて、かわいい踊りで好感が持てるが、その前後のあたりは、あまり意味のない踊りが続いて、ちょっと退屈する。

音楽はなかなか良いのに、こうした冗長な箇所があるため、いろいろな人が改定したくなるのだろうという気がする。

後半の夢の国にディヴェルティスマンは、よく見る振り付けで違和感がない。それにしても、チャイコフスキーの音楽は魅力的だ。指揮はワレリー・ゲルギエフなので安心して聴ける。

夢の国の場面で、ディヴェルティスマンが一通り終わり、「花のワルツ」の後で、マーシャと王子のパ・ド・ドゥになるが、その途中で屈強なリフト専門みたいな男性ダンサーが4人出てきて、マーシャをリフトした後に、彼女を放り投げて王子に渡す場面があった。フィギュア・スケートでは放り投げて回転する「スロウ・ジャンプ」みたいな技があるが、バレエでも投げることがあるのかと、ちょっとびっくりした。

日本では、12月になるとオケは判で押したように「第九」の演奏会をやるし、バレエ団は競って「くるみ」を上演するが、放映されたマリインスキー版の録画日は2017年6月となっている。夏でも上演しているんだ、と改めて知った。