劇場と映画、ときどき音楽と本

オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

亀井聖矢のコンチェルト・ナイト

2024-03-26 11:07:57 | 音楽
3月25日(月)の夜に、東京芸術劇場で亀井星矢のコンチェルト・ナイトを聴く。指揮は原田慶太楼で、東京交響楽団。7時開演で、20分の休憩を挟み、終演は8時50分頃。クラシック系のコンサートとしては、異様なほど女性が多かった。特に最前列は女性がずらりと並び、演奏が終わると盛んにスタンディング・オベーションしていた。普段とはちょっと違った雰囲気に圧倒されたが、これは一種の「推し活」なのだろうと理解した。

休憩の後に短いトークがあり、原田と亀井がちょっとだけ話をしたが、原田が「明日も来る人はどのくらいいるかな?」と客席に問うと、1階席前方の女性の大半が手を挙げたので、これにも驚かされた。26日は横浜で同じような「コンチェルト・アフタヌーン」があり、午後2時開演だ。仕事をしていないのか、仕事を休むのかなどと、勝手に心配した。22歳のピアノの新星なので、ファンが多いようだ。

曲目は最初にチャイコフスキーの「エフゲニー・オネーギン」から「ポロネーズ」。これは景気づけで、元気の良い演奏。原田慶太楼もまだ若々しい指揮ぶり。続いてプロコフィエフのピアノ協奏曲3番。現代的な響きだが、かなり早いテンポで演奏され、亀井は超絶技巧を披露した。バリバリと弾くピアノは、力強い音で、フルオーケストラにも負けない響きだ。歯切れのよい演奏で、すらっとした風貌もあり、女性に人気なのも納得した。

後半はガーシュウィンのピアノ協奏曲。初めて聞く曲だったが、最初の音からいかにもガーシュウィンらしいジャズ風の響きで、「ラプソディ・イン・ブルー」と「パリのアメリカ人」を彷彿とさせる音。ピアノはこれまた技巧的な曲だが、各所にジャズらしい響きがあり、亀井はうまくその響きも表現していた。指揮の原田はアメリカで活躍しているようなので、原田の指導もあったのだろうが、うまいものだと思う。管楽器の活躍する曲だが、東京交響楽団の管がなかなか良く、トランペットなどは特にジャズ的な音をうまく出したので感心した。

最後に原田がアンコールを弾けと亀井に促すと、リストの「カンパネラ」を弾き始めた。2曲も技巧的なピアノ協奏曲を弾いた直後に、こんな技巧的な大曲を弾くとは、すごいと思った。まだまだ若くてエネルギーに満ち溢れている印象。最近聞いたピアノの中では一番面白かった。

すっかり満足して、帰りがけにエスニック料理屋で軽い食事。イタリア産の白を飲みながら、生ハムとサラミ、ミートボールのカレートマト煮込み、ツナのコロッケなどを食べる。

小澤塾の「コジ・ファン・トゥッテ」

2024-03-24 11:15:03 | オペラ
3月23日(土)の午後に、東京文化会館で小澤征爾音楽塾の「コジ・ファン・トゥッテ」を見る。故小澤征爾が始めた若手のオケと一流歌手との共創によるオペラ。今回が20回目となる。15時に始まって、1幕90分、25分の休憩、2幕90分の公演。今回はオペラ開始前に、オーケストラだけでモーツアルトの喜遊曲の一部が献奏されたこともあり、終演は少し遅れて、6時45分頃だった。観客はオペラにしては若い人が多く、活気に満ちており、9割近く入っていた。小澤征爾が亡くなったので、今後どうなるのだろうと思っていたが、来年は「椿姫」上演とのチラシが入っていた。

ディエゴ・マテウスの指揮による若手のオケは水準が高く、全編にわたり素晴らしい演奏を聴かせた。マテウスの指揮は結構テンポが速めだが、強弱のメリハリが明確な聞きやすい演奏だった。歌手は世界中で活躍する中堅が集まった感じだが、歌唱水準が高いので聞きごたえがある。歌唱の水準、オケの水準から考えると、日本の歌劇団の公演よりも水準は高いと思う。

歌手陣の中ではソプラノのサマンサ・クラークが一番印象的で、安定した歌唱を聴かせた。また、女中役のバルバラ・フリットリもしっかりとした歌唱だった。男性陣も良かったが、テノールで予定されたルネ・バルベラが来日せず、代役で歌ったピエトロ・アダイーニは、声は美しかったが、不安定な部分もあり、テノールは本当に難しいなあと感じた。

演出はデイヴィッド・ニースで、オーソドックスに演出してドラマの面白さをよく出した。ダ・ポンテの台本だが、本当に面白くうまく書いている印象で、古典劇の三単一の原則に従って見事な台本を書いている。モーツアルトの音楽も軽快で、本当に面白い作品だと思った。

とても満足して、帰りがけにいつものスペインバルで軽い食事。トルティージャ、ハモン・セーラノ、ポテトサラダ、エビのアヒージョ、塩だらのフライなど。

秘密の結婚/セルセ

2024-03-18 13:28:30 | オペラ
3月17日(日)の昼と夜に、昭和音楽大学のスタジオ・リリエで、チマローザの「秘密の結婚」とヘンデルの「セルセ」を見る。日本オペラ振興会オペラ歌手育成の43期生の公演。両方ともあまり上演されない演目なので、遠いが頑張って見に行った。「秘密の結婚」は1時開演で、15分間の休憩を挟み、終演は3時35分頃。「セルセ」は17時30分に始まり、15分間の休憩を挟んで、終演は20時5分頃だった。観客は若い人から年配までいて、9割程度の入り。両方ともピアノとチェンバロ(電子)による伴奏。

新百合ヶ丘という、都心からは結構離れた場所にあるが、駅のすぐ前に校舎があるので、まあ便利。昼夜と続けてみると、途中で食事でもしたくなるが、チェーン店ばかりで魅力的な飲食店がないので、カフェで済ませた。スタジオ・リリエは、それなりに設備があり、照明もきちんとできる。座席もキチンと勾配があり見やすい。唯一のそして大きな欠点はエアコンが効かないことだ。人がたくさん入って照明がともると、それだけでどんどんと暑くなり、まるでサウナに入ってみるような気分だった。恐らくはスタジオとして独立のエアコンがなく、全館のシステムに合わせているのだろうが、まだ寒い時期に3時間も暑いスタジオで見るのは拷問に近い気がした。

秘密の結婚には昼の部の研修生7人が出ていたが、女性が6人なので、同じ役を3人で交代に演じるという形になっていた。セルセの方は夜の部の研修生らしく4人がそれぞれの役を演じる形。どちらの作品も、権力者が無理な結婚を望むが失敗するという話になっている。

秘密の結婚はオーソドックスな演出で、喜劇的な話だから、見ていて楽しかった。レチタティーヴォ部分が多いが、ディクションもあまり気にならずに見ることができた。重唱部分は良いのだが、単独でアジリタの入る歌唱は気になるが、研修生にとっては良い経験ではなかろうか。

セルセの方は、現代に読み替えた演出で、衣装もぶっ飛んでいた。照明も奇をてらったもので、人物の背面から客席側へ光をあてていた。一瞬ならばよいが、多用するので見にくいことおびただしい。いろいろとコミカルな動きも入れて、観客が退屈しないようしたのだろうが、退屈せずにうんざりした。歌唱は全体として研修生のレベルだが、ロミルダ役を歌った松原奈美は、完成した歌唱を聴かせていた。有名な「オンブラ・マイ・フ」は、1幕の冒頭で歌われたので、その後はどんな感じかと思ったが、結構よい歌がたくさん入っていて面白かった。

熱中症で倒れるかもと思いながら最後まで見て、ふらつきながら帰宅。食欲が出ずに、冷たいビールを飲みながら、簡単なものをつまみ、すぐ寝た。


前橋汀子と弦楽アンサンブル

2024-03-16 13:24:53 | 音楽
3月15日(金)の夜に文京シビックホールで「前橋汀子と弦楽アンサンブル」を聴く。7時開演で20分の休憩を挟み、終演は9時頃だった。1階席しか入れていないが、ほぼ満席。年金生活者が多いが、若い人もちらほらいる。

前橋汀子がステージ中央に赤いドレスで立ち、10名ほどのアンサンブルが周りを囲んで演奏するスタイル。前橋汀子は随分前に日経新聞の最終面で「私の履歴書」を書いていたが、まだ現役で演奏活動を続けているのがすごい。調べてみるとアメリカのジョー・バイデン大統領よりも1歳下なので、相当な年配だ。今回は孫のような連中に囲まれての演奏だった。

前半は美しい旋律を持つ曲の小品集。マスカーニ、サン・サーンス、マスネ、ドヴォルザークなどを弾いた。前橋汀子が旋律を弾き、アンサンブルが会わせる形。超絶技巧を見せるわけではないが、音色は美しい。80歳でまだ元気というのはうらやましい限りだ。

後半はヴィヴァルディの「四季」を1時間聞かせた。ヴァイオリンの聞かせどころが多い曲で、かなり早いパーセージもあるが、結構バリバリ弾いていた。アンサンブルは若手だが腕の立つ人が多かったようで、退屈せずに面白く聞いた。

前日に観た「トリスタンとイゾルデ」が長くてくたびれたので、外食する体力が残っておらず、家に帰って簡単な食事。作っておいたほうれん草のキッシュ、ガーリック風味のオリーヴ、モッツアレラ・チーズをのせて焼いた田舎パンなど。飲み物はカヴァ。

新国立劇場の「トリスタンとイゾルデ」

2024-03-15 11:06:51 | オペラ
3月14日に新国立劇場でワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」を観る。14年前に上演されたオペラの再演。休憩を入れて5時間25分の長いオペラなので、ソワレを取ったつもりだが、開演時間は16時と早かった。45分間の休憩が2回あり、終演は21時30分頃。演じるほうも大変だろうが、見ているだけでも長いのでくたびれる。そのためか高齢の人は少なく、中年男性が多い印象。

主演のトリスタンとイゾルデの歌手が、二人とも変更になっていたので、少し心配していたが、それなりに歌ったので良かった。それでも脇役の方がしっかりとした歌唱をした印象で、一番良かったのはマルケ王を歌ったバスのヴィルヘルム・シュヴィングハマー。とても低い音まで美しく出ていた。次に良かったのがトリスタンの従者役でバリトンのエギルス・シルス。美しい声を響かせた。日本人ではイゾルデの侍女役で藤村美穂子が出ていた。安定した歌唱でよかったが、以前に比べると声に迫力が感じられない印象を受けた。

イゾルデ役のリエネ・キンチャは、少しムラがあったもののよく声が出ていて、出ずっぱりの大役を歌い切った印象。それに比べるとトリスタン役のゾルターン・ニャリは、少し弱かった。10人の男性ダンサーが参加してコーラス替わりを演じていたが、合唱隊は舞台に登場せずに陰で歌ったようだ。前日にカルミナ・ブラーナの大曲を歌っていたので、大変だろうなと思ったが、出番が少ないので問題ないのだなと思った。

オーケストラは、新国立劇場では珍しい東京都交響楽団。芸術監督の大野和士が指揮したので、常任指揮者をやっている縁で連れて来たのだろうが、とても良い演奏だった。ワーグナーのオペラは、歌の面白さよりもオーケストラの演奏の面白さの方が勝るので、きちんとした演奏で堪能した。

スコットランド出身のデイヴィッド・マクヴィガーの演出だが、美術照明も美しく、とても良かった。日本の照明家の中には暗い場面で舞台を全面的に暗くする人が多く、人物が見にくくて閉口することが多いが、英米での演出の基本に従って、暗い場面でも人物にはきちんと照明を当てて、誰が歌っているのかわかる好感の持てるわかりやすい演出だった。

それでも、全体的に長すぎるオペラで、2幕のトリスタンとイゾルデの愛を延々と語る場面は疲れた。3幕にトリスタンがイゾルデの船を待つ場面では、トリスタンが幾度も船が来ないか見に行けと従者に命ずる。これが延々と繰り返されるので、「仮名手本忠臣蔵」の四段目の切腹場面を思い出した。「由良助はまだか」というのも、このオペラほどはしつこくやらないと思う。ワーグナーの粘着質的な性格に疲れを覚えた。

さらに疲れに拍車をかけたのが、翻訳の字幕だ。正確に訳そうとしているのだろうが、そのために必要以上に長い文章になり、読んでいられない。映画の字幕と同じように、簡潔な表現を使うべきだ。映画字幕は大半の場合、14文字2行以内で作られ、1秒間に5文字以上にならないように経験的にコントロールされているが、新国立の字幕版は17~18文字で2行分あり、多くの場合16文字2行ぐらい出てくる。映画では、明らかな場合は主語を省略して、形容詞も重複する表現はまとめてしまうが、丁寧に全部を訳しているので、かえって読み辛くなっている。英語版の字幕の方が、表示エリアが小さいので、その分簡潔な表現になっていてわかりやすいと思った。

歌舞伎の長い演目で鍛えているので、長いオペラでも大丈夫なつもりだが、ワーグナーの粘着質的なくどい台本を見せられると、音楽は面白いがどうにも疲労した。帰りがけにパブで軽い食事。黒ビールを飲みながら、ローストビーフ、キャベツとアンチョビのオーブン焼き、フィッシュアンドチップス、ラムのケバブを食べる。