劇場と映画、ときどき音楽と本

オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

映画「ビブリア古書店の事件手帖」

2019-12-31 11:05:14 | 映画
2018年の映画「ビブリア古書店の事件手帖」を衛星放送の録画で観る。三上延原のミステリー小説の映画版。監督は三島有紀子で、主演は黒木華と野村周平。

祖母が亡くなり、その遺品を整理する中で、祖母が大事にしていた夏目漱石全集を、それに挟まれていた値札票の古書店に持ち込むところから物語が始まる。「それから」の巻には、夏目漱石が特定の人に贈った形で書名が入っていたが、古書店の店員はそれを偽物だと判断して、それを祖母が大事にしていた理由を探る中で物語が展開する。

結局、祖母は若い時に夫の経営するする町の小さな食堂で女給をしていたが、その時に小説家を目指す青年と知り合い、深い関係になる。祖母は妊娠して、若い小説家と共に旅立とうとするが、最終的には踏ん切りがつかず、若い小説家の男から貰った漱石の「それから」を大事に持ち続けていたというわけだ。

この若い男と駆け落ちするかどうかのあたりは、なんとなくクリント・イーストウッドの「マジソン郡の橋」を思い起こさせるような描きっぷりだ。映画では、このほかにサブプロットとして、ビブリア古書店が持つ一番の宝物ともいえる太宰治の「晩年」の初版本を巡り、変質狂ともいえるブックマニアとの攻防も描かれているが、今一つメインの話との関係があいまいで、とって付けた感があった。

つまらない映画というわけではないが、映像に凝った割には話が中途半端だなあと感じた。

作曲家ジェリー・ハーマン亡くなる

2019-12-30 11:08:38 | ミュージカル
アメリカの新聞を読んでいたら、12月26日に作曲家ジェリー・ハーマンが亡くなったと報道されていた。88歳だった。ジェリー・ハーマンは、「ハロー・ドリー!」や「メイム」、「いとしき世界」、「ラ・カージュ・オー・フォール」などで知られる、ブロードウェイの作曲家だ。1960年代の台本ミュージカル全盛期に名作を書いた。

中年女性を主役とした作品が多かったが、「ラ・カージュ」ではゲイの中年男性を主役にして、新機軸を見せた。こうした台本ミュージカルの作者が次々と亡くなってしまうのは何とも寂しい。

ジェリー・ハーマンの「ハロー・ドリー!」は、1960年代の後半にメリー・マーティンが東京の宝塚劇場で1か月間公演したので、僕もその時に見たが、素晴らしい舞台で、つい昨日見たように鮮明に覚えている。ベトナム戦争中であり、ベトナム慰問へ行く途中に日本でも公演した形で、メリー・マーティンは劇場の隣の帝国ホテル(だと記憶するが自信がない)に滞在していたが、20メートルぐらいを車で移動していたように記憶する。

ジェリー・ハーマンの曲も良いのだが、ガワー・チャンピオンの振付も印象的だった。手を大きく拡げて踊るタイトル曲のウェイターたちの踊りも良かったが、今にして思うと「パレードが通り過ぎる前に」の振付が素晴らしかった。未亡人のドリーが、天国の夫に向かって「新しい人生を歩みたい」と話しかけて、「パレードが通り過ぎる前に」新しい人生を歩むのだ。

パレードの振付は、最初は人数が少ないが、ドリーが歌う間にだんだんと賑やかなパレードになっていき、最後には舞台全面がダンサーたちで埋まり、ドリーは旗を持ってダンサーたちの中を回る。初演を演じたキャロル・チャニングが演じた1995年の再演時にはこの振付は守られており、振付を楽しめたが、2017年にベット・ミドラーが演じた時には、このパレードの振付がなくなってしまい、カーテン前でミドラーが歌い、最後にカーテンが開くと後ろにパレードのダンサーたちが並んでいて終わりとなる、なんとも寂しい舞台だった。

ジェリー・ハーマンの亡くなったニュースに接し、また、この場面がは見たくなったので、オーストリアで上演された時のビデオを引っ張り出してきてオリジナルの振付を楽しんだ。

VYOのチャイコフスキー・コンサート

2019-12-28 10:37:33 | 音楽
12月27日(金)の夕方から、杉並公会堂でヴィルトゥオーゾ・ユース・オーケストラ(VYO)のコンサートを聴く。VYOは音楽大学の学生たちが集まるオケで、芸大、東京音楽大学、桐朋などの学生が集まっている。午後4時から始まり、第一部は6時まで、第二部は7時から9時という、普通のコンサート二回分の欲張ったコンサートだ。

今回の目玉は、今年6月にチャイコフスキー・コンサートで2位となった藤田真央の共演で、オール・チャイコフスキー・プログラムだった。第一部は交響曲5番とピアノ協奏曲2番、第二部はピアノ協奏曲1番と交響曲6番「悲愴」。

杉並公会堂は初めて行ったのだが、1000席ちょっとの本格的なコンサートホールで、音響もとても良い。素晴らしいホールだが、ロビーと出入り口がちょっと狭いのが難点だ。

学生たちのオケなのでどんな音かと思ったが、商業的なオケに負けない立派な演奏だった。指揮も若手の大森大輝だが、彼のコントロールが良く効いている。若いだけあって元気溢れる演奏で退屈することがなかった。ピアノ協奏曲でチェロとヴァイオリン音のソロが掛け合いで演奏するところなどは音色に聞き惚れた。

藤田真央は童顔なので、まるで中学生のように見えるが、実年齢は20歳ぐらいだろう。若いが経験を積んでいるし、同世代の仲間たちとのコンサートということもあり、リラックスした様子で演奏していた。藤田真央の演奏は表現力豊かで、表情に富み、時には力強かったリ、あるいはソフトだったりして、若いのに凄いピアニストだなあと感心した。

4時から9時までと、歌舞伎でも観るような長いコンサートだが、アンコールではラフマニノフのピアノ協奏曲3番の3楽章を演奏したのには驚いた。これも素晴らしい演奏で、場内からは声援が挙がっていた。

帰りは、杉並公会堂のそばの小さなワイン食堂で食事。田舎風のパテや、鴨のローストを食べる。カウンター中心の小さな店だが、本格的な料理を出すので驚いた。店主に聞いたら、今年の4月に開業したそうだ。フランス料理店で16年間修業したというので、料理も本格的なわけだ。ただ、メニューはたくさん並んでいるが規模が小さいので、食材が切れているものが多い。お任せで頼めということだろう。ただ、カウンター中心の店なのにフランス料理を本格的に作ると時間がかかるので、沢山客が来たら廻らないだろうという印象。ワインはグラス中心だが、定番のものではなく変わった品ぞろえで、ちょっと高め。気軽に食べたい客にはちょっと敷居が高いかも知れないという印象だった。


日活の「若草物語」

2019-12-25 10:10:39 | 映画
衛星放送の録画で、1964年の日活映画「若草物語」を観る。ちょうど東京オリンピックの年なので、駒沢競技場などの懐かしい映像が出てくるし、羽田の昔のターミナル風景もなんとなく懐かしかった。

「若草物語」という題名で、4人姉妹の話となれば、なんとなくアメリカの小説の翻案かと思ったら、内容はまったく異なっていた。4人姉妹の長女は結婚して東京住まいだが、残りの3人の娘は大阪で父親と一緒に生活している。その父親が後妻代わりになっている内縁の妻に冷たくするというので、3人の姉妹たちは腹を立てて、なけなしの金をはたいて大阪から東京へ飛行機でやって来る。

全日空とタイアップしたらしく、やたらと飛行機の場面が出てくるが、当時はまだ飛行機が珍しかったのだろう。東京へ出てきた娘は銀座のデパートの店員などになり、金持ちの男や貧乏カメラマンと恋愛するという話。最後は二組のカップルが出来上がる。

4人の姉妹は、芦川いずみ、浅丘ルリ子、吉永小百合、泉雅子なので、映画としてさほど面白くはないが、女優の魅力だけで観てしまう。相手役は浜田光男や山内賢が務めていた。

時代や風俗が今とはずいぶん違うだけでなく、人々の考え方の今とはずいぶん違ったと分かるので、映画というのは面白いなあと、改めて感じた。


筑前琵琶演奏会

2019-12-23 13:04:55 | 音楽
12月22日(日)の昼に、紀尾井ホール(小)で筑前琵琶の演奏会を聴く。午後2時開演で、途中15分間の休憩を挟み、終演は4時15分頃。250席程度のホールだが、6~7割の入りで、年齢層は結構高め。今年で3回目になるらしい。筑前琵琶の演奏会だが、なぜかクリスマス・コンサートと書いてあって、毎年この時期に開催される。

筑前琵琶で人間国宝の奥村旭翠がメインで、その門下生たちも演奏する。また講談師の旭堂南陵が作品解説をしてくれる。博学な様子で、2011年に大阪芸術大学で博士号を取得しているようだ。

曲目は最初が奥村旭翠と旭堂の掛け合いで「曲垣平九郎」。語りと琵琶演奏の組み合わせで面白い顔合わせだが、聴いていて今一つ面白みはなかった。次が門下生4人による「羽衣」。これは話の内容は頭に入っているし、4人が代わる代わる歌ったりするので、声の調子も異なり面白い。

次は奥村旭翠単独で「川中島」、少し休憩をして再び旭翠の「隅田川」。舞台の近くで観たので、琵琶という楽器の特性や弾き方がよく判った。5弦でフレットが付いていて、結構頻繁に複数弦を同時にかき鳴らしたりする。基本的に語りの場面では演奏は少なく、戦いや行進などの場面では賑やかな演奏が入るという具合だ。

演目の中身はなんとなく知っているものが多かったこともあり、聴いていれば話は理解できたので、能などよりもハードルは低いと思った。旭翠は大阪の藤井寺市在住らしく、東京での演奏会が少ないのは残念だが、機会があれば生で聴いておきたいと思わせる演奏だった。

帰りはいつものスペインバルで軽い食事。トマトとツナのサラダ、カキのアヒージョなど。