劇場と映画、ときどき音楽と本

オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

オペラ玉手箱「ニュルンベルクのマイスタージンガー」

2021-07-21 10:40:12 | オペラ
7月20日の夜に、江戸川区総合文化センターで、大野和士のオペラ玉手箱を見る。東京文化会館と新国立劇場で新制作の「マイスタージンガー」を上演するので、総合プロデュースと指揮を担当する大野和士が、作品の解説を行うもの。主要な曲を出演者やその他の歌手たちがピアノ伴奏で歌い、その内容を大野が解説していく。

以前にも大野の「玉手箱」を聞いたが、話が面白く飽きさせないので、今回も緊急事態宣言の中を出かけて行った。これまでは新国立劇場でやっていたのだが、今回は東京文化会館の手配なのか、新国立劇場でも文化会館でもなく、江戸川区総合文化センターの大ホールで行われた。

当日はコロナワクチンの2回目を接種して、副反応が出るとつらいかなと思いながらも出かけて行った。初めて行く会場でなかなか立派なホールだが、何しろ足の便が悪い。最寄りの駅は総武線の新小岩。東京から出かけていくと隅田川と荒川を超えていく感じで、新小岩の駅からさらに徒歩15分以上の場所。ワクチン接種の直後で暑い中を歩くのは嫌なので、駅前からタクシーに乗ると500円程度ですぐに着いた。

観客は中高年の男性が中心で、辺鄙な場所のためか、2~3割しか客席が埋まっていなかった。どうしてこんな不便な場所でやるのだろう。それでも歌手6人が主要な曲を紹介してくれるので、わざわざ行く価値があると感じた。

全編上演すると4時間を超える作品なので、解説を入れながら曲のさわりを聞くだけでも結構時間がかかった。ちょうど半分まで紹介が終わったところで15分間の休憩となったが、前半だけで1時間15分を要しているので、同じペースで進むと、終了は10時近くなる計算。事務局が心配したのか、休憩時間中に大野氏に「緊急事態宣言下なので、9時までに終わるよう」に強く指示があったようで、後半は半分ぐらいの曲を飛ばし、解説も省略が多かった。

大野氏は喋りたいことがたくさんある様子で、聴衆もそれを楽しみに来ているのだが、後半は中途半端になってしまった。最初から3時間ぐらいの予定にしておかないと無理という感じ。

大野氏の話はもちろん面白いのだが、歌手陣も結構充実していた。ザックスを歌ったのはドイツ人のバス歌手ギド・イェンティス。ザックス役ではないが、本番の舞台でも出演予定。豊かな響きで堪能した。

日本人の歌手では、ご贔屓にしているテノールの伊藤達人がダーヴィット役で美声を聞かせた。日本人には珍しい輝くようなイタリアン・テノールの声で、声量も十分。大野氏も「役にぴったりの美声」だと褒めていた。彼も役は違うが本番に出る予定なので、今から楽しみだ。

帰りはタクシーがいなかったので、5分ほど歩いてバスで新小岩に出た。昔の厚生年金会館や、地下鉄駅ができる前の新宿文化センターも、ずいぶんと行きにくい場所だと感じたが、やはりイヴェントは便利な場所でやってほしい。

家に帰って軽い食事。サラダ、コンビーフのオムレツ、クリームチーズとクラッカーなど。飲み物は白。

松本和将のスクリャービン

2021-07-17 10:42:10 | 音楽
7月16日(金)の夜に表参道のカワイ・コンサートサロン・パウゼで、松本和将のピアノによるスクリャービンを聞く。18時30分開演で、途中に15分の休憩をはさみ、終演は20時20分ごろ。コロナの関係から定員を絞り60人限定となっていたが、50人ぐらいしか入っていなかった。8割が女性。表参道という土地柄、スタイリッシュな人も見かけた。

松本氏本人の弁によると、スクリャービンだけのコンサートは案外少ないらしい。今回のコンサートでは、エチュード、左手のための小品、そしてピアノソナタ2番。後半はピアノソナタの3番、5番、9番とほぼ作曲年代順の構成。

スクリャービンは、ラフマニノフとほぼ同じ時代のピアニストで作曲家だが、ラフマニノフが70歳まで生きたのに対して、40代半ばで早世したようだ。今回のコンサートで年代順に聞くと、前半はラフマニノフ的な抒情性があり、後半になるとだんだんと神秘主義的な作風になっていくのがよく分かった。最後の9番はかなり暗く重たい印象で、そこで終わると後味が悪いので、松本氏はアンコールでラフマニノフを弾いて口直しをした。

曲の面白さとか盛り上がりの点からすると、エチュードの12番ぐらいが最後でもよいのかもしれないが、時代が前後するのは弾くほうもなかなかつらいらしい。

パウゼというホールは初めて行ったが、カワイのショールームみたいなところなので、使用する楽器もシゲル・カワイのコンサート用のグランドピアノで、間近で聞いたが、中音がふくよかでとても気持ちの良い響きだった。

松本氏のピアノは、うまい下手というよりも、一音一音に気持ちが込められた響きがあり、とても魅力的。まるでスクリャービンと直接対話しているような気分になった。緊急事態宣言下でもこうしてコンサートを聴けるのはありがたい。

家に帰って食事。大根とホタテのサラダ。イワシのオーブン焼き、カマンベール・チーズなど。飲み物は白と赤。

打楽器コンサート

2021-07-09 10:45:54 | 音楽
7月8日(木)の夜に紀尾井ホールで樋渡希美の打楽器コンサートを聴く。19時開演、千鳥格子席で、入りは3~4割という感じ。若い人向けの安いチケットも出ていたので、若い人が目につく。途中20分間の休憩を入れて、終演は20時50分ごろ。

出演者は、樋渡のほか打楽器奏者が3人だが、ほとんどは樋渡のソロだった。樋渡はまだ若くシュタットガルトの音楽演劇大学のソリスト科で学んでいるようだ。

プログラムは、最初にインプロヴィゼーションによるドラムソロを聞かせる。舞台は真っ暗なままで、舞台袖で演奏していた。本人の話によると、視覚なしで純粋に音を楽しんでほしいとのこと。雨だれから豪雨になるようなイメージのパーカッション。舞台が明るくなると本人が登場してマリンバのソロ。イグナトヴィチ=グリンスカの「トッカータ」。マリンバのテクニックを見せる。

続いてグロボカールの「?身体」という作品。本人が体のあらゆる部分を叩いて音を出す。音だけでなく声も出し、顔の表情も見せる。これも打楽器の音楽かなと思いながら見る。まるで1970年代のニューヨークのヴィレッジで流行ったようなパフォーマンス。これを見せるのだったら、紀尾井ホールではなく、もっと小さな300席ぐらいのミニシアターでないと面白くない。

前半の最後は福士則夫の「グラウンド」。マリンバの周りにドラムやシンバル、銅鑼などのいろいろな楽器をたくさん並べて、腕だけでなく足まで使っていろいろな打楽器を聞かせる。まあ、こんなことができるのだという感じ。

休憩後は、「これはボールではない」という音楽劇?。録音された音に合わせてマイムを行い、あたかもボールを使って遊んでいるように見せる。ボディパーカッションとの副題は付いているが、これはどう見てもマイム芸で、音楽とは思えない。どこかのキャバレーで見せたらよいかもしれないようなマイム芸だが、やっているのがマイムの専門家でなく打楽器奏者なので、あたかもボールがあるようには見えない。これを人に見せるならば、もっと練習の必要があるだろう。以前ブラジルでサッカーボールを使っていろいろと見せる芸を見たことがあるが、そのほうがよっぽど面白かった。

続いてマリンバとビブラフォンによる曲が2曲。ごく普通の音楽。最後は三木稔の「マリンバ・スピリチャル」で、マリンバのほかに3人の打楽器奏者が主に太鼓を叩く。最初は静かに始まるが、だんだんと後ろの太鼓が盛り上がって祭囃子のような感じとなり、さらに激しさを増してマリンバと合奏する。和のイメージの曲で、プログラムの最後を飾るに相応しい面白い曲だった。

普段はあまり聞かない打楽器だけのコンサートもたまには面白いと思った。

家に帰って食事。サラダ、コールドミート、イワシのオーブン焼き。レバーペースト、カマンベール・チーズなどをあてにして、ビール、シェリー、赤ワインなどで食事。

新国立劇場の新制作「カルメン」

2021-07-07 11:35:09 | オペラ
7月6日に新国立劇場で、新制作の「カルメン」を見る。18時30分開始の夜の公演をとったのだが、コロナの関係で終演時間を早めるため開始時間が17時30分からとなり、勤め人などは結構厳しいだろうという気がしたが、若い人向けに割引券が大量に出たようで、客席は半分以上埋まっていた感じ。1時間早く始まったので、終演は20時50分ごろだった。

今回の新制作では、芸術監督の大野和士のつながりで、スペインのアレックス・オリエが演出を担当、美術関係もスペインのスタッフで固められている。オーケストラは東京フィルで、大野氏自身による指揮だった。

演出は現代に舞台を移した読み替えで、カルメンはタバコ工場の女工からロック歌手のスターに変更されている。ドン・ホセはコンサートの警備に来ていた警官で、舞台上のカルメンから花を投げられて誘惑される。カルメンはバック・コーラスの娘とけんかして相手を傷つけて逮捕されるという展開。

後半はロックコンサートの巡業で大きな楽器ケースのようなものに麻薬を入れて密輸をするという話で、最後の闘牛場は、レッドカーペットの上をセレブが登場する演出。セットは、ロックコンサートの会場を意識してか、鉄パイプを組んだ巨大なセット。

どうも読み替え演出はあまり好きではない。あまり歌に集中できない気がするが、序幕でスターに誘惑されて、裏切られて最後には相手を刺し殺すという展開は、まるで「籠鶴瓶」を見ているような気分。そういう風に考えると、2幕でカルメンがドン・ホセを引き留めて、兵舎に戻らせない展開は「封印切」に似ている。

こういう19世紀の作品を現代に移して見せられると、まるで歌舞伎を背広姿の現代劇で見ているようなムード。描かれている社会は古いし、音楽も19世紀なのだが、視覚的には21世紀なので、どうも落ち着かない。これならは、いっそのこと音楽もロックにしたほうが良いのではないかと思われる。

アメリカ映画の「スター誕生」などは何度も映画化されているが、その時代に合わせて物語も音楽も書き換えられている。

この「カルメン」という作品も、第二次世界大戦中にオスカー・ハマースタイン2世が、アメリカに舞台を移して翻案して上演したが、その時のカルメンはパラシュート工場の女工、ドン・ホセはMP、エスカミーリョはボクサーになっていた。

カルメンという女性は、何度も歌の中で出てくるが、ロマ(ジプシー)の娘であり、そうした意味で当時のセビリアあたりでもある意味自由に生きた存在だろう。それを現代のロック・スターに置き換えているが、まあ、社会的な位置づけとしては似ているのかもしれないと思わせる。

演出は全般的によく整理されていてわかりやすいが、1幕でドン・ホセとミカエラが合唱している時に、後ろでカルメンの乱闘があるので、歌に集中できない。警官の服装は日本にサービスしたのか、まるで日本の警官の制服だった。3幕でのコンサートの楽屋風景は大きな楽器用の箱にヘロインを入れていて、そのあとに黄色いベスト運動みたいな清掃員も登場するので、まるでカルロス・ゴーンの逃亡劇を見ているような感じ。

3幕後半の闘牛場の闘牛士たちの入場は、レッドカーペットでのセレブのあいさつに置き換えられていて、まるで歌詞と違っているが、エスカミーリョの衣装が赤なので、レッド・カーペット上でまるで合わない印象。これは白か何かのほうが良いかという気がした。

歌手はカルメンをうたったステファニー・ドストラックが秀逸。主役が良ければ全体も良い。日本人ではミカエラ役の砂川涼子が見事に歌っていた。ドン・ホセ役をうたった村上敏明は、このところドイツ物、ロシア物で息切れして悲惨だったので心配したが、今回は息切れせずに最後まで歌えたのでほっとした。闘牛士のエスカミーリョ役はアレクサンドル・ドゥハメルという巨漢だが、音程が不安定なうえに声も伸びず、どうしてこんな人を外国から読んだのかと耳を疑った。呼ぶ前にきちんとオーディションしたほうが良い。

一番良かったのは大野氏の指揮で、ビゼーの音楽のドラマチックな面をよく引き出した楽しませてくれた。

カルメンの歌の中で、「セギディーリャ(フラメンコの一種)をうたいながら、マンサニーニャ(シェリー酒の一種)を飲む」という一節があったので、なんとなくマンサニーニャが飲みたくなり、帰りにスーパーで調達した。

家に帰ってサラダとコールドミート、とろとろのカマンベールなどをつまみにして、マンサニーニャと赤ワインを飲む。