劇場と映画、ときどき音楽と本

オペラ、バレエ、歌舞伎、文楽などの鑑賞日記です

服部百音の「シベリウスのヴァイオリン協奏曲」

2023-11-26 10:27:36 | オペラ
11月25日(土)の昼に、ルネ小平で服部百音のシベリウスのヴァイオリン協奏曲を聴く。東京都のフレッシュ名曲コンサートの一環で、大井剛史指揮の東京交響楽団との共演。このところ服部百音が気に入っているので、高田馬場から西武新宿線の急行で30分ほどかかる小平まで足を延ばした。今風に言えば「推し活」か。土曜の昼だが、客層は地元の年金生活者が中心で若い人は少ない。土地柄なのか、マスク比率が高かった。それでもほぼ満席。午後3時に始まり、20分の休憩を挟み、終演は4時45分頃だった。

前半はアメリカ・プログラムで、最初に金管が揃ってコープランドの「市民のためのファンファーレ」、トランペットは高音続きで大変そうだった。続いてガーシュインの「ラプソディ・イン・ブルー」。ピアノの独奏は大崎由貴。大崎は若くて元気いっぱい、さわやかな印象。「ラプソディ・イン・ブルー」とは直訳すると「憂鬱狂詩曲」だから、憂鬱な雰囲気の音が欲しかったが、大崎のピアノは明るい響き過ぎた。東京交響楽団の編成は、コントラバス6本の弦が充実した編成だったが、もともとポール・ホワイトマン楽団の依頼で書いた曲だから、ジャズっぽい響きを出すために、管中心で編成し、弦は少なくても良いのではないかと思った。

後半はシベリウス・プログラム。最初にアンダンテ・フェスティーヴォがあり、初めて聞いたが弦楽器だけの美しい曲。弦楽器だけだと音が純粋でとても美しく響く。そして最後に、お目当ての服部によるシベリウスの「ヴァイオリン協奏曲」。服部が気迫のこもった演奏でぐいぐいと引っ張り、オケも懸命に着いていった形。小平まで来た甲斐があると思った。観客の拍手に応えて、アンコールも2曲演奏。一つは重音ばかりで2声を聴かせる曲で、もう一つは早いパッセージの曲。サービス精神も旺盛だった。夏に手術したためか、以前よりも痩せた印象で、腕などはバレエダンサー並みに細いので心配したが、体全体で弾くヴァイロリンの音は力強かった。

すっかり気分を良くして帰宅。クラムチャウダーを作って食べる。飲み物はビール。寒い日はこうした煮込み系の料理が温まる。

二期会のオペラ「午後の曳航」

2023-11-25 10:44:17 | オペラ
11月24日(金)の昼に日生劇場で二期会のオペラ「午後の曳航」を見る。平日の午後だったこともあり、高校生の団体が入っており、1階席は埋まっていたが、2階席はかなりの空きが目立った。三島由紀夫の中編小説のオペラ化で、ドイツ語版。ドイツのハンス・ヴェルナー・ヘンツェ作曲。日本での本格的な上演は初めて。現代オペラなので、やはり人気がないかも知れない。アメリカのメトロポリタンも、現代作品は人気がなく19世紀の人気作ばかり上演していたら、古典的作品に観客が入らなくなり、今は現代作品を多く上演するようになっているが、19世紀のオペラは厳選された作品が残っているのに対して、現代作品は玉石混交で、当たり外れが大きい。9割以上は外れだと感じる。今回の公演は午後2時開演で、25分間の休憩を入れて、午後4時15分に終わったので、上演時間としては丁度よかった。

宮本亞門の演出は凝ったもので、視覚的に面白く頑張った印象。最初は主人公となる13歳の登少年が学生帽の姿でクローズアップされる映像が映り、幕が開くと登少年が一人立っているのだが、これがどう見ても30代の中年男性の姿で、この時点でこの作品は失敗したように思えた。

13歳の少年は8歳で父を亡くし、今はブティックを経営する母との二人暮らし。港町で育った純真な少年は海に憧れ、母親と一緒に船の見学へ行く。そこで案内してくれた航海士の竜二は逞しい海の男で、少年はその凛々しい制服姿に憧れる。やがて、船乗りは少年の母房子と懇意となり、愛し合うようになるが、少年は母親の寝室を覗き穴から二人が求め合う姿を見て、船乗りの立派な肉体に惚れこんだ。ところが、船乗りと母が結婚して、憧れの海の男は陸に上がって母の経営するブティックを手伝うようになる。陸に上がった船乗りの姿に、少年の純粋な夢は打ち砕かれ、少年の夢を奪い取った男を許せなくなり、仲間たちと一緒に制裁を与えることにする。というのが物語のアウトラインだ。

日本では映画化できず、米国で映画版が作られて結構高く評価もされたが、英語版の原題は「海の美しさ(恩寵)を失った男」といった感じだった。映画では実年齢に近い少年が演じて、逞しい男性が海の男になればよいのだが、オペラ版ではそうした配役は望めないので、もう少し工夫する必要があるだろう。少年役はこうした場合、メゾ・ソプラノの女性がズボン役で演じるのが定番だが、大人のテノールを使ったため、何となく中年男が母親の寝室を覗いているようないやらしい物語に見えてしまった。海の男も、映画のようなわけにはいかないので、普通のバリトンが演じるのだが、少年が憧れて、それが裏切られる心理的な変化が舞台上では描けていない。

オペラでは台詞劇とは異なり、会話で表現すると長くなりすぎるので、各役の人物が心情吐露のアリアを歌い、その気持ちの変化を観客に伝える必要がある。このオペラでは会話主体の歌にしてしまったので、失敗している。海の男が長い航海に出る時に「退屈な航海」と心情を歌うが、それと同じように、少年や母親が心情吐露して、憧れたり、失望したり、愛したりということを描く必要がある。そうした点で、オペラは台本が重要だ。台詞劇をオペラにする場合には、台本を徹底的に見直す必要があるが、オペラに無理解な作者もいるので、「夕鶴」のように台詞劇をそのままオペラ台本とするような作品も多いのは困ったことだ。

宮本の演出は台本の不備を補うために、視覚的な表現を多用して観客が飽きないように工夫しており、それは一面成功している。母と海の男の情事を覗く場面や、各幕の終わりはスペクタクルに演出されている。各幕の終わりは静止して活人画のようにポーズをとって終わるが、こうした演出は、19世紀のフランスのグラントペラやメロドラマを連想させる。2幕終わりの母親のポーズは、何となく、アンドリュー・ワイエスの描いた「クリスティーナの世界」を思い起こさせた。しかし、こうした演出の行きつく先は、巨象を一瞬で空中に消し去るようなイリュージョンを見せるラスベガスのショーだろう。ブロードウェイでは、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のミュージカル版が始まり、デロリアン号が一瞬で登場したりするのが評判になっている。

音楽はいかにも現代音楽で、難しい曲だがアレホ・ペレス指揮の新日本フィルはよく演奏し、覚えにくい曲を歌手陣もよく歌っていた。しかし、また聴きたいとは思わない。

集団鑑賞に来ていた高校生は、9割が女子高生だったが、こんなオペラを見せられたら、オペラ嫌いになるのではないかと思った。原作を知らないと単なる異常者の物語のようにも思える舞台なので、学校で感想文を書けと言われたら当惑するだろう。

帰りにスーパーで食材を買って、家で食事。牡蠣のアヒージョと海鮮パエージャを作る。飲み物はカヴァ。気を取り直すために、最初の一杯目にクアントローを入れた。






横浜ボートシアターの「小栗判官・照手姫」

2023-11-24 10:14:25 | 演劇
11月23日(木)の昼に、シアター代官山で横浜ボートシアターの「小栗判官・照手姫」を見る。シアター代官山は劇団ひまわりの持つ120席ぐらいの小さな劇場だが、結構見やすかった。この「小栗判官」は、約40年前にボートシアターが設立された当時のヒット作品だが、作者の遠藤啄郎が2020年に亡くなったので、その追悼公演として行ったもの。1980年代の伝説の舞台が蘇った。場内はインテリ中高年という感じの人で満席だった。休憩15分間を入れて上演時間3時間なので、午後4時に始まり、終演は7時だった。

「新版」と銘打っているので、台本は同じだが、演出、美術、音楽などは少し変わっている印象。製作費が十分でなかったのか、初演当時よりも美術にはお金がかかっていない。豪華さが失われた印象。それでも遠藤氏が作った仮面はほぼそのまま使われたようで、仮面劇としての面白さは失われていない。音楽は打楽器を中心として素晴らしいもので、初演当時とは微妙に異なるが、初演時のムードを維持している。和太鼓だけでなく、インドやアラブなど各地の太鼓や鐘を使い、ガムラン音楽の鐘で不思議なムードを醸し出していた。初演では、衣装も東南アジアのテイストがあったが、今回の美術はそれが失われて、音楽だけに東南アジアのムードが残った印象。

物語は「説教節」で有名な話だが、初演時は歌舞伎的な演技だったが、今回の演技は文語調の台詞回しだけが残り、歌舞伎調は失われている。出演者8人が、演技だけでなく楽器演奏も行い、仮面を変えて複数の役を演じるので、役者も休む暇なく3時間動き回るハードな舞台。力強く、演じきった劇団員には大きな声援を送りたい気持ちだ。出演者の都合などもあったのだろうが、最後の方で小栗判官が「餓鬼」となって地上に戻り、車に乗せられて湯治に行くくだりは、初演時は人間が小さな車に乗って演じたが、今回は仮面と衣装だけとなり、車も省略された。ちょっと寂しい。その後に、仏陀か菩薩的な人物も登場するが、今回はそれも省略されて、舞台後ろの小さな仏像が光るだけだった。これは大いに残念。人数が足りなかったのだろうか。

それにしても、伝説的なこの舞台を見れたのは幸せ。1980年代の前衛的なエネルギーが、十分に残っていた。

家に帰って、豚肉と白菜の鍋を食べる。飲み物は吟醸酒。

松本和将のピアノ・リサイタル

2023-11-23 10:15:05 | 音楽
11月22日(水)の夜にプリモ音楽工房で、松本和将のピアノを聴く。30席くらいの小さな会場だが、聴きに来るのは見た顔が多い気。恐らくは松本氏の固定ファンなのだろう。19時開演で終演は21時5分頃だった。

プログラムは最初にシューマンの「アラベスク」。次いでブラームスの6つの小品があり、その後に15分間の休憩。後半はメインのブラームスの交響曲1番のピアノ・ソロ編曲版。

シューマンの曲は苦手なのだが、「アラベスク」は楽しい曲で、苦にならない。続くブラームスの小品集は、最初に松本氏の簡単な解説があり、どういう解釈で弾いているのかがよくわかった。松本氏の解釈では、ブラームスの生涯を描いた小品集で、最初は若いブラームスが都会に出てくる曲。次いでクララ・シューマンとの出会いとなる。

松本氏は詳しくは話さなかったが、ブラームスはシューマンの助けを借りて音楽界へデビューするが、同時にその妻クララに恋心を抱いていた。シューマンは自殺を図ったりして精神病院で亡くなるのだが、ブラームスはシューマンの死が自分のせいではないかと悩んだというのは有名な話。そうしたブラームスの人生が6曲に反映されているというのが、松本氏の説明だった。

そうした説明を聴いた後で、6曲を聴くと確かにそう思えてくるのが不思議。面白く聞いた。

後半の、ブラームスの「交響曲1番」のピアノ版は、昨年も聞いたが、今回の方が面白く感じられた。オーケストラの曲をピアノで聴くというよりも、ピアノの曲といった雰囲気を感じた。もちろんお馴染みのメロディも出てくるが、弦楽器や管楽器とは音色の性質がまったく異なるので、ピアノ曲として聞いた方が面白いと思う。編曲は元芸大教授の角野裕で、会場にも姿が見えたが、松本氏の恩師らしい。何年か前に退任したが、まだお元気そうだった。

久々に松本氏のピアノを聴いて、元気になった気分。終了後は家に帰って、作っておいたおでんを温めて食べる。飲み物は新潟の吟醸酒。

東京バレエ団の「眠れる森の美女」

2023-11-19 10:44:22 | バレエ
11月18日(土)の昼に、東京文化会館で東京バレエ団の新製作「眠れる森の美女」を見る。5回公演の4日目で、若い売り出し中のダンサーが踊る回だった。土曜日の午後ということもあり、9割以上の入りで驚いた。休憩2回を挟み、午後2時開演で、終わったのは5時10分頃。

「眠れる森の美女」は出演者がたくさん要るし、踊りも結構凝っているので、大バレエ団でないとやれない演目だが、斎藤友佳理が新演出で臨むということなので、どんな感じだろうと楽しみにして見に行った。オーソドックスな演出で、美術も衣装もきちんとしていた。

プロローグはオーロラ姫が生まれ、誕生パーティに招かれなかったカラボスが呪いをかける場面だが、マイムがほとんどなく、説明が足りない印象。ここではカラボスがどんな呪いをかけたのか、リラの精がそれをどう和らげたのかをきちんと説明したほうが親切だろう。続く1幕は成人したオーロラ姫への4人の王子たちの求婚の場面。有名なローズアダージョがあるが、金子仁美はバランスが素晴らしく、ポアントで立ったまま、手を上げ下げしてキチンとポーズを決めた。その後に糸車の針で指を刺して眠りにつく。

休憩の後の2幕では、リラの精がデジレ王子を連れてオーロラ姫を助けに行く。デジレ王子はオーロラ姫をつかまえようとするが、すれ違いでつかまえられない。この場面はいささか長く感じた。王子役はプリンシパルの柄本弾で、足さばきは美しいが、ジャンプは今一つ。

3幕は、王子と姫の結婚式の余興で、貴族たちが童話の主人公に変身して踊る。この貴族たちの変身を分かりやすく見せたのはうまい演出だと思った。一番良かったのは青い鳥の踊りで、池本翔真が素晴らしかった。池本の経歴を見ると、モスクワのバレエ学校で学び、モスクワのバレエ団でソリストを経験した後、日本に戻りKバレエに所属したが、退団して東京バレエ団に移ったようだ。素晴らしいジャンプを見せたので、感動した。東京バレエ団の男性ダンサーで、これだけ見事に踊る人はあまりいないのではないかと思った。これからも注目したい才能。

指揮はロイヤルなどで振るトム・レリグマンで、昼間の公演だからか、モーニングを着て現れたので驚いた。指揮は問題ないが、オケが東京シティ・フィルでちょっと心もとない。本来ハープで演奏するところをピアノで弾いたのも頂けない。オケピットを覗くとハープも置いてあるのに、なぜピアノを使ったのだろうと疑問に思った。

帰りがけに小さなイタリア料理店で食事。海の幸のマリネとハムなどの前菜の後、ナスのグラタン、ワタリガニのスパゲッティ、ニュージーランド産仔牛のタリアータ、シフォンケーキとパンナコッタのデザートを食す。飲み物はシチリアの白と、リパッソ。最後はエスプレッソ。