クラブでの美人大学生との出会い。
もう社長は帰り支度をしている。スペイン語で話しかけられずうろたえている僕を見て、リトアニアの彼女が一言。
「大丈夫よ。彼女も一緒に行くって。」
「ええーっ!そうなの?」ちょっとは嬉しい気もするが・・・
次に辿り着いたのは、本当に場末の雰囲気が漂うタンゴ・バー。
一日の仕事を終えたタクシー運転手風のおっさん、きりっとネクタイは締めているものの、どことなく哀愁が漂うビジネスマン、さっきまで厨房で料理を作っていたような、若いあんちゃんなどなど、種々雑多な人たちが集まっている。ロンドンやダブリンのパブの賑わいとは違って、何だかパリのシャンソンを聞かせるバーのような雰囲気だ。
この中に入ると社長他ぼくらはとっても明るい部類で、わいわい言いながら酒を注文する。社長の発案でコルドバのワインボトルをとることにする。「社長、MELOTにしてよね。」
彼女の名前はNatalia。名前から見ても、外見から見ても完全ロシア系のようだ。あまり深くは詮索しない。
アルゼンチンはスペイン語圏なので、スペイン系が多いと思っていたのだが、なんと一番多いのはイタリア系移民。
つぎにスペイン系、ドイツ系と続き、4番目はなんとロシア、及びバルト3国。
Nataliaはブエノスアイレスでも有名な大学で経済を学んでいる。将来はアメリカに留学したいとも。アメリカには佃煮になるほど行っているので、ロスやニューヨークの話を聞きたがる。
こちらは、店の専属だろうが、タンゴを踊っている二人のステップを目を皿のようにしてみながらの話なので、どうにも身が入らない。それに気づいたかどうか、そのうち黙ってしまった。
二人で並んでダンスを見ているものだから、ダンサーとも自然に何回も目があう。
とうとう、お客さんと踊るというような、コーナーがあって、真っ先に二人とも引きずり出されてしまった。
二人で抱き合い、濃厚なアルゼンチンタンゴのご教示を受ける。
「そこは足をからめて。」
「もっと、腰を引き寄せて。」
「情熱的に瞳の中を見て。」
などと、ダンスの講義が、違う講義がわからなくなってくる。Nataliaは近くになってみると、丸いボディでそれなりに胸を大きいし、超ミニで足をからめるもんだから、中が見えてしまうのだ。
健康な男の子としては、素直に反応してしまい、Nataliaも気づいたらしく、僕を見てにっこり笑っている。
散々飲んだあとに、きつーいアルゼンチンタンゴは、さすがに辛い。店のお客さんにもいいようにからかわれてしまったが、本職の指導を受けるのは悪い気はしない。やっと、解放されて席に戻ると、足ががくがく、心臓はバクバク、ふーっ!しんどかった。
Nataliaはさすがに若さのせいか、息も切らしていない。夜毎のディスコ通いが功を奏しているのだろう。
「たーさん?」
「ん、何?」
「さっきさあ、どうしたの?」
「そりゃあ、何たってNataliaが魅力的だからじゃない。パンツも見えちゃったし。」
「このあと、ゆっくりタンゴの続きをしない?」
「ここで?」 何とおばかな質問。
「違うわよ。あなたの部屋で。」
「えーっ?君みたいな美人があ?」
「だって、私が行かなきゃ、あのリトアニア人が行くんでしょ?」
「何の話?」
「彼はいい男だから、私が行かないんだったら彼女がもらうっていってるわよ。」 どういう会話してたんだろ。
「とにかく、あなたに異存がなければ私はお邪魔するわ。タンゴ踊ってるとき何となく相性良かったもん。」
ワインをぐっ、と飲みながら言われてしまいました。こちらは大歓迎だけど、社長になんて言おう。
そのあとは、タンゴ談義。社長もタンゴには詳しくいろんなことを教えてもらった。明日はタンゴのCDを買おう。
戦いすんでの状態で、社長の車に乗せてもらい五人でホテルに向かう。
Nataliaはずっと腕を組んでいて離れないので、仕方がないからそのままホテルのロビーへ。
社長曰く、「仕事が出来る奴は手も早いな。」 社長違うって。
「まあ、いい。ゆっくりしてくれ。明日は10時半に来る。じゃあ、GOOD FUCK!」 その横でご婦人二人はしてやったりという、いたずらっぽい笑顔でバイバイと手を振っている。
彼らと別れてからもロビーで話をしている。
「これからどうするの?」
「いやあ、帰らなくていいのかい?」
「私は一人暮らしだから、全然問題ないわ。」とすっかり、部屋に入る気だ。
「うーん。じゃあ、いくらお小遣いあげればいいの?」
「なに言ってるの。私は娼婦じゃないわよ。お金なんてもらうわけないじゃない。」
「そんなら、仕方がないね。部屋へ行って横になってアルゼンチンタンゴ踊ろうか。」
「うん。」
ロシア系独特の折れそうなウエストは非常にタンゴが踊りやすかったです。はい。
後日談:彼女は結局アメリカに留学しL.A.でホテル関係の勉強をし、今は立派はホテルクラークになっています。