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偶然の音楽/ボール・オースター(柴田元幸訳)/p4 感想その1「発端」

2018-01-20 16:56:27 | 本の要約や感想
(消防士のジムは離婚した直後に父の遺産を手にし、幼い娘を姉にあずけ、退職し、
目的も目的地もない車での独り旅に出たが、約1年後、金の底も見え始め、
先行きに不安を感じていた矢先、怪我をしたギャンブラーのジャックを道で拾い、
車中で聞いたジャックの儲け話に投資者として加わることにした。
儲け話は二人の富豪とのポーカー対決で、やっと到着した豪邸に着くと
その二人の主が奇妙な暮らしをしていたが、夕食の後、ゲームは始まった。
自画自賛の言葉通りにジャックは強く、勝負は決まったかに見え、傍観者のジムは
張りつめていた気を緩め、少し部屋を出た。しかし戻ってみると
形勢は逆転していて、ジムの有り金と車までも賭けたが、すべて負けてしまった。
しかも1万ドルの借金までが残り、金持ち二人にしてみると、帰せば逃げられる、
しかしここに残られても1万ドルを得られない、というジレンマに陥った。
そこで元検眼士のストーンが奇妙な提案をしたのだった。それは巨大な壁を建てることであった……。)



主人公はジム・ナッシュで、ほとんどが金の問題により妻に去られ、
置き去りにされた2歳の娘ジュリエッタの世話と消防士の仕事を両立できず、
娘をミネソタの姉夫婦にあずけたのだが、
その直後に何十年も合わずにいた父の遺産20万ドルが転がり込み、
ジムはすぐに借金の残金を払い終え、新車を買い、有給をまとめて取り、
娘の様子を見に、そしてできれば連れて帰るためにミネソタへ向かうが、
娘はすっかりと姉の家族になってしまっていて、娘は父ジムを見ても戸惑うのだった。
その姿を見てジムはいったんボストン(マサチューセッツ州)へ戻り、今後をよく考えることにした。
そして夏の日の午後、姉の家族に見送られてジムは車に乗った。

そして物語はほんのミスから思わぬ方向へと展開していく。

車に乗ったジムは道を間違い、逆方向のフリーウェイに乗った。
その間違いをジムはわかっていたが、しかし有給の残りはまだ2週間もあり、
すぐに職場へと戻る必要もなかった。

それから7時間、車をただ走らせ、ガソリンを補給し、さらに6時間疾走し、
ワイオミングで力尽きた。

次の日も夜通し前日と同じように走って、ニューメキシコを半分まできたところでやっと止まった。

その二晩目が過ぎたところで、もはや自分で自分をコントロール出来なくなっていることをナッシュは悟った。(13p)柴田元幸訳

ここまでがこの小説の発端で、
普通の人が今まで自分を抑えていた何かを失った時、
もしくは抑えていたものが取り除かれた時、
ほんのきっかけから自分でも予期しなかった行動に走り始めたことが描かれている。

何か訳のわからない圧倒的な力に彼は捕らえれてしまっていた。狂気に追いやられた動物が、闇雲にあちこち走り回っているようなものだ。けれども、もう止まろう、と何度決意しても、どうしてもそうすることができなかった。毎朝自分に向かって、もうたくさんだ、これでもうやめよう、と言い聞かせながら眠りにつき、毎日午後になると、いつも同じ欲望、車に這い戻りたいという抑えがたい渇望とともに目ざめるのだった。

あの孤独が、空虚を突き抜けていく夜通しの疾走が恋しかった。(13p)柴田元幸訳


つづく。

偶然の音楽/The Music of Chance/1990/柴田元幸訳/新潮文庫
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