夢の羅列<春日部エイリアン-p5・最終話> 20171115
つづき。
(異星人による春日部への侵略が密かに進む中、人類の私は春日部での用事も済み、
実は侵略計画を知っていながらも放置したまま帰ろうとした時、知人に呼び止められ、
世間話をしているうちにその詐欺師の知人は銀を編む工程を見たことを語り出したが、
どうにもトンチンカンな話で、すぐに私に看破されてしまった。)
やっぱりダメだったか。詐欺師オジサンはそんな諦め顔で私を見たが、しかし、
すぐに明るい表情に戻り、そこがこの人のいいところなのだが、
今度はまったく違う話を始めた。
「それがさ、いやになっちゃうよ。最近の子は。言葉遣いがひどいね。まったく。」
話を聞くと、どうやら、この町に歩いて入ってくる時に、
(なぜ歩いて町に入ってきたのかはよくわからない)
橋を渡ったところで若い娘たちとすれ違ったという。
すれ違いざまに娘たちが彼を指しながらこう言ったという。
「このおじさん、貝にして食っちゃおか。」
いやー、オレもね。いい加減長く生きてきたけどサー。
貝にして食っちゃおか。なんて言われたのは初めてだヨ。
口が悪いねぇー、今のコは。だいたい貝にするって何なの。
どう思う? 冗談も過ぎるよネ。
私はその時にやっと重要なことを思い出し、
(それって冗談じゃないよ)
そう言いそうになったが、アハハハハとなんとか笑ってごまかした。
アンタさ、貝みたいに煮て食べられちゃうとこだったんだよ。
と思ったその時、男の背後に若い女が赤く光る目でエヘッと笑う顔が見えた
いつの間にか私と男の話を聞く野次馬が周りに増えていて、
私は異星人による背乗り計画を止めようとも考えず、
まあ、誰でもなるようになるさ、くらいの気持ちで、もう帰ろうと思った。
私はおじさんに、貴重な意見に対しての礼と、
久しぶりに会えて懐かしかったこと、そして
これからもお元気で、というようなことをことさらに丁寧に、
深く頭を下げて、周りによく聞こえるように言った。
おじさんは、うんうんと目を細めて、アンタも達者でな、
などとガラスの向こうで応えた。
おわり。