先日、まあ年末ということもあり、部屋の掃除を少しだけやっていたら、
「偶然の音楽」という文庫本が何かの箱の中から出てきて、
これはどこで買ったものか、もうまったく憶えていなかったのだが、
もちろん私が買ったものであることは間違いなく、そしてその題名から、
明らかに私が題名だけで判断し買ったであろうことは簡単に推測できた。
何ページか捲ってみると、まったく読んでいなかったので、
しばらく目のつくところに置いて、クリスマス頃になんとなく読み始めた。
……妻に去られたばかりの消防士のジムは突然、何十年も会っていない父親の遺産を相続する。
2歳の娘をミネソタの姉の家族に預け、新車のボルボを買い、あてのない旅に出る。
旅はただ車を運転するだけ。目的地はなく、道があるだけ。
そんな旅を1年以上続けていたら遺産の金の底が見え始め、
その底は自分の人生の行き詰まりの底でもあったジムはある日、怪我をした若い男を道で拾う。
ジャックはポーカーの名手で、賭博のトラブルで怪我をし、道をふらふらと歩いていたのだった。
明後日に大金持ちの二人とポーカーをやるはずだったが、その軍資金をトラブルで失い、
車の中でジャックはジムに愚痴をこぼした。
大金持ちの二人はポーカー好きというだけで腕はたいしたことなく、
ジャックが行くだけで大金が手に入るようなものだったが、
その資金がなくなり、招待された大金持ちの二人の家に行けなくなったという。
ジムは遺産の僅かな残りをそのジャックに賭けてみようという気になり、
ジムとジャックはニューヨークを経て、大金持ちが二人で住む大豪邸に到着した。
大金持ちの二人は、ひとりは元会計士、またひとりは元検眼士で、
二人で買った巨額の宝くじに当たり、しかも元会計士のフラワーがその金を元手に
さらに膨大な資産を作り上げたのだった。
フラワーは奇妙な骨董品の蒐集が趣味で、
元検眼士のストーンは街のミニチュア模型を作ることを趣味以上の情熱で続けている男だった。
「世界の街」と自ら呼ぶ街の模型はあまりにも精巧に作られていて、
そこにジムはストーンの内面にある何か偏執的なものを感じた。
そしてジムを抜かした三人で大金を賭けたポーカーは始まった。
つづく。
偶然の音楽/The Music of Chance/1990/柴田元幸訳/新潮文庫