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偶然の音楽/ポール・オースター(柴田元幸訳)/p3

2018-01-06 21:24:39 | 本の要約や感想
(消防士のジムは離婚した直後に父の遺産を手にし、幼い娘を姉にあずけ、退職し、
目的も目的地もない車での独り旅に出たが、約1年後、金の底も見え始め、
先行きに不安を感じていた矢先、怪我をしたギャンブラーのジャックを道で拾い、
車中で聞いたジャックの儲け話に投資者として加わることにした。
儲け話は二人の富豪とのポーカー対決で、やっと到着した豪邸に着くと
その二人の主が奇妙な暮らしをしていたが、夕食の後、ゲームは始まった。
自画自賛の言葉通りにジャックは強く、勝負は決まったかに見え、ジムは
張りつめていた気を緩め、少し部屋を出た。しかし戻ってみると
形勢は逆転していて、ジムの有り金と車までも賭けたが、すべて負けてしまった。
しかも1万ドルの借金までが残り、金持ち二人にしてみると、帰せば逃げられる、
しかしここに残られても1万ドルを得られない、というジレンマに陥った。
そこで元検眼士のストーンが奇妙な提案をしたのだった。)


「あの壁を作ってもらうという手もある」

<あの壁>とは何かというと、金持ちの二人がアイルランドへ旅行に行った時に、
朽ち果てた15世紀の城の残骸を見つけて、何かを感じ、持ち主に交渉し、
その1万個にもなる石をアメリカのこの屋敷に運ばせたのだった。
石で城を復元するのではなく、シンプルに、
高さ6メートル、長さ600メートルの壁を屋敷の敷地内に建てる計画であった。

しかし実際に建てる作業を誰がやるのかが未定であった。

そこにタイミングよく二人がゲームに負けて、1万ドルの借金の分を
時給10ドル、1人1日10時間で100ドル、二人で200ドル、
つまり50日の労働で帳消しにするという条件を勝った二人が負けた二人に提案したのだった。

痩せて力のないジャックは反対したが、結局、同意して二人は働き始めた。
実際に作業をするのはジムとジャックだったが、設計、指導、監督は
屋敷の使用人のカルヴィン・マークスであった。

☆☆☆

いやいやながらも二人はカルヴィンの監督の下、作業を始め、まずは
石を置く地面を平らに整地し、さらに浅く溝を掘る工程だった。しかし、
二人にとっては最初は厳しい仕事だったが、段々と身体が慣れて、
むしろ規則正しい生活と肉体労働に楽しさまでも感じていた。

整地も済み、溝も堀り上げ、石を運び、積み上げ始めると、
二人はその15世紀にアイルランドに建造されたという石の魅力と、
段々と積み上がっていき姿を顕し始めた壁の存在感とに神聖を感じるようになり、
無駄口を叩くばかりであったジャックも次第に仕事に対する姿勢が変わり、
さらに冷たく見えたカルヴィン・マークスの実は温かい人柄とその能力の高さに、
いつの間にか二人は親愛を示し、絶大な信頼を寄せるようになった。

さすがに50日では壁は出来上がらず、2年後のクリスマスを前にして壮大な壁は完成し、
夕暮れ前の赤く染まった空にそびえ立つ壁を無言で見つめる3人。
時間が止まればいいと誰もが思っていた時、屋敷の方から人影が現れ、
この2年間、一度も姿を見せなかった屋敷の主たちストーンとフラワーがやってきた。

人影は二人だけではなく、他にもいた。
それはストーンとフラワーが今日のために捜して呼び寄せた
ジムの娘のジュリエットとジムの姉のドナであった。

3人は抱きしめ合い、邂逅を喜んだ。

その姿を目を細めて見守るジャック、カルヴィン、ストーン、フラワー。

ジムは焦燥感に疾走したあの赤いボルボでの旅の果てにここに辿り着き、
運命によってか、この壁を自らの手で作り上げ、それはいつの間にか
自己を再生することであったという結果を娘と姉を抱きしめながら噛み締めていた。

ストーンとフラワーは壁が完成したことへのボーナスとして、
ジムに10万ドルと、もともとジムのものであったボルボを返した。

ジャックはカルヴィンに幼い頃に別れた父を重ね見て、考えた末、
屋敷に残り、カルヴィンの下で働くことになった。
もちろんそばでニンマリと笑う主二人のポーカーの相手もするのだ。

誰しもが心に傷を持ち、それがいつどのようについたものか人はわからず、
それをどう癒したらいいのか、いったいどこに傷があるのかさえもわからず、
傷ついたまま年老いてしまう。

私たちは心に負った傷の場所と大きさをよく知る時間が必要で、
時には前に進むことではなく、傷を治すことに重きを置くことが
実は最善かつ最速なのではないかとこの小説を読み考えさせられた。
ということはまったくのウソっぱちで、なぜなら、この要約の後半は私の作り話だから。

☆☆☆印から後は私のでっち上げです。

実際には私が作った<ありがちな話>ではないので、
興味があれぱ実際に読んで下さい。
結末には自己責任にて対処して下さい。

おわり。

偶然の音楽/The Music of Chance/1990/柴田元幸訳/新潮文庫

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