平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

古畑任三郎 その脚本の凄さ!

2009年11月22日 | 推理・サスペンスドラマ
 古畑任三郎「笑わない女」を見た。沢口靖子さんがミッションスクールの寮長をやっている話。
 上手いですね。古畑の捜査のすべてが沢口さんが演じる宇佐美のキャラクターから来ている。
 以下、ネタバレ。

 古畑は犯行現場で次のふたつの点に気づく。
・ドアを開け放していた犯行現場。
・被害者が握っていたガウンのボタン。
 犯人の行動としては不自然。
 なぜなら人に見られるかもしれないのに犯行時にドアを開けておくことはないし、死後硬直が始まっていないのなら手を開いてボタンを取り出したはず。
 この不自然さの理由は宇佐美が学校の定めた<戒律を守ること>を厳守する人物だったから。
 ドアを開けていたのは<男性とふたりきりでドアを開ける時はドアを開けていなければならない>という戒律があったから。
 手を開いてボタンを取り出さなかったのは<死んだ人間に触れてはならない>という戒律があったから。
 こうしたことから古畑は宇佐美を追いつめていく。
 そしてラストの落とし方も。
 情況証拠でしかないと反論する宇佐美に古畑は言う。
 「いいえ、あなたは自白します」
 その理由は戒律に「人をあざむいてはいけない」という言葉があるから。
 古畑は問う。
 「あなたは殺しましたね」
 戒律を守ることを自分のアイデンティティにしてきた宇佐美は黙ってうなずく。
 実に上手い。
 最初から最後の自白までこの宇佐美のキャラクターで描かれている。
 それはこんな所にも。
 宇佐美は最初から最後まで古畑の問いに<あざむくことなく>答えていたのだ。
 たとえば「死亡推定時刻にあなたは何をしていましたか?」と古畑に問われ、宇佐美は「部屋でマリア・カラスを聞いていた」と答えた。
 これはウソではない。
 宇佐美は犯行時に被害者の<部屋>にいて、その部屋に流れていた<マリア・カラスを聞きながら>殺人の事後処理をしていた。
 彼女は<部屋>とは言ったが、<自分の部屋>と言ったわけではないのだ。また本当に<マリアカラス>を聞いていた。

 ラストのやりとりも気が利いている。
 連行される宇佐美は古畑にこうつぶやく。
 「最初に『殺しましたね』と聞かれていたら、もっと早く『そうです』と答えていたのに」
 すると古畑はこう答える。
 「今の私の思いは、学校の戒律に『人を殺すなかれ』という項目があればよかったのにということです」

 上手い、上手すぎる。
 どこかで書く機会があるかもしれないが、宇佐美の犯行動機というのも実はすごく深い。
 人間の哀しさというものが見事に描かれている。
 「笑わない女」は古畑任三郎の中でも珠玉の作品である。



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