予約を受ける時、「何日の何時からですね?」と復唱することにしている。そして事務所にあるカレンダーに○印をつける。それが何週間後だったりすると、自分の記憶よりそのカレンダーが頼りになるのは当然だ。昨日、何週間か前に予約してくれたOさんから人数が増えたとの電話があって、「じゃ明後日よろしく」と言われた。「畏まりました」と電話を切ってカレンダーを見たら、〇印は20日についている。あれ、明後日は21日。おい、どっちなんだ?慌ててOさんに聞きただそうとしたけど、勤務先の大手代理店の名刺しかなく、夜じゃ連絡が取れない。まさか予約した当人が明日と明後日を間違える訳ないし、俺が〇印をつけ間違いた可能性が大きい。でも、万が一予約が20日(今日)だとしたらと怯えて、無駄になってもいいからと早い時間から料理を仕込む。予約の時間は九時半。その時が一刻一刻と近づいて来る。料理はまぁ何とか出来た。そして時計は九時半を過ぎた。まだ誰も来ない。九時四十分になった。まだ来ない。九時四十五分……やっぱり今日じゃなかったんだと緊張が解かれる。それにしても明日他の予約をいれてなくてよかった。広尾時代、同じようなことでダブルブッキングして冷や汗をかいたことがあったけど、大人数のパーティなんかだと冷や汗じゃ済まなく、血の雨ものだ。そんな「サスペンス」が裏側にあったのに店は大賑わいだったらよかったんだけど、あったのは裏側の「サスペンス」だけ。十時過ぎにW大生のYちゃんが入って来るまでお客さんはゼロ。後、プロデューサーのTさんとKさん、そして見知らぬカップルの合計五人。その人々も終電で帰り、Lちゃんも帰って、二時までの間一人きりで過ごす。何だか勘違いのサスペンスだけに彩られた一日。