元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

還暦をずっと前に迎えた(元)社労士の新たな挑戦!ボチボチとせこせこせず確実に、人生の価値を見出そうとするものです。

就業規則の不利益変更は、労働者との合意が原則です!!

2011-08-10 06:15:45 | 社会保険労務士
 就業規則~<退職金の「その2」、給料への前払い>~について

 前回は、不利益変更の場合は、基本的には、労働者との合意を得なければ、その変更は認められないということをお話ししました。ところが、一人だけが、「今まで退職金を楽しみに働いてきたのに」といって、同意しなかったとしますと「労働者の合意」が得られないことになります。
 

 そこで、原則としては、個々の労働者の同意が必要であるとはいいながらも、多くの労働者を集合的に処理するという就業規則の性格から、その不利益変更が「合理的なもの」である限り「個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否しることは許されない」との有名な判例があり、個々の労働者の同意がなくても不利益変更は許されるともしております。(秋北バス事件・最高裁昭43.12.25)

* <社労士試験受験生の皆様へ>この判例は、私たちが労働基準法を勉強するときに、覚えときなさいとよくいわれた判例です。今の時期、私のプログを暇つぶしに見ている方は、頭の片隅においておくと、ひょっとしたら役に立つかもしれません。次段落のように、この論点は労働基準法ではなく労働契約法の守備範囲になったので、労働契約法が「労働一般」の科目の中に入っているので、あまり出る可能性は少なくなったかも知れませんが、今でも「労働基準法」の科目の中で就業規則を理解するうえでは重要な判例ですので、どちらで出るにせよ、ここで覚えておいて損はないと思います。

 労働契約法10条では、この判例等の考え方を取り入れ、1 労働者の受ける不利益の程度 2 労働条件変更の必要性 3 変更後の就業規則の内容の相当性 4 労働組合などとの交渉の状況 4 その他の就業規則の変更の事情 という基準を法上明確に示して、これが合理的な場合として求められる場合は、個々の労働者との同意が得られなくても、すなわち「労働者の合意」が得られなくても、新たな就業規則により労働条件の変更を認めています。(労働契約法10条)

 
 前回の最初の事例では、就業規則により、退職年齢と退職金の計算方法を確認し、そのうえで、従業員の年齢から将来にそれぞれの年度の退職金の支払いがいくらになるのかを見ます、そして今まで積み立ててきた退職金見合額またその年度まで積み立てられるであろうものを計算し、それが十分かどうかを見てみます。

 
 そしてどう考えても無理な場合は、会社はここで素直に状況を説明し、退職金の前払い制度の必要性を説明し、従業員に納得してもらうほかありません。どうしても、納得しない従業員がいる場合に、初めてこの労働契約法10条の出番となるわけですが、その場合でも、就業規則変更の基準に「労働組合との交渉の状況」が挙げられていますように、労働者との話し合いは十分に行うことが基本になることは言うまでもありません。納得できない従業員には、ちゃんと事情をとことん説明する必要があります。

 
 前回から「退職金の給料前払い」の例について、説明してきました。退職金は、その性格が給料の後払いと功労金として考えられています。退職金を退職後の生活設計にしている者にとって、ある日突然従来の退職金をなくす代わりに前払い制度にするといわれて、「はいそうですか」という人は必ずしもいないと思われます。もちろん、会社に入ってからすでに前払い制度になっていたという方は別でしょう。もともと、退職金規定もない企業もありますし、就業規則に退職金の規定を書かなければならないということでもありません。退職金制度を有する企業が就業規則に記載しなければならないというだけです。(相対的記載事項、労基法89条)。

 しかし、今まで退職金があった企業が前払いする場合は、単に支払い方法の変更ということだけではすまされないと思います。本当に今までの計算方法と前払い制度による支払額がそれ相当であって支払額が全く遜色ないというのであれば、それは支払変更で済ませるかとは思います。

 ところが、日本の高度成長時代の金利(少なくとも数%、実際は0.0何%)で退職金の積み立てを行ってその資金があるはずということで退職金制度を設けてきた企業が多く、実金利で計算したら退職金相当額がどこにもなかった。ということで、前払いにするということになったとしたら、労働者にとってはどこかで実質の退職金の減少になるのは、目に見えているのではないでしょうか。 

 
 そんな企業であれば、まず誠意をもって話し合い、どうにか解決していかざるを得ません。その方法として退職金の前払い制度も出て来るのでしょう。労働契約法では、そんな不利益変更の原則「労働者との合意」をうたい、どうしても合意できない場合の「就業規則の変更の基準」をうたっているのです。けっして、この労働契約法の規定は、社長さんにとって、面倒な規定があるなあではなく、原則的には、労使双方にまず納得できるまで話し合うという普通のことを規定しているにすぎません。トラブルを防ぐための当たり前の方法を提示しているのです。


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