元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

還暦をずっと前に迎えた(元)社労士の新たな挑戦!ボチボチとせこせこせず確実に、人生の価値を見出そうとするものです。

就労請求権は一般には認めないが、鮨屋見習い・俳優、また「専門能力者」には?

2015-06-26 16:40:00 | 社会保険労務士
 専門能力者には労働契約時に就労請求権がないことの合意を!!

 労働契約の権利義務については、労働契約法において「労働契約」の定義があって、「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し労働者の労働の義務)、使用者がこれに対して賃金を支払うこと使用者の賃金支払いの義務)について、労働者及び使用者が合意することによって成立する」とあります。この契約に不可欠の中核となる義務は、労働者にとっては労働義務であり、使用者にとっては賃金支払い義務なのです。反対側の権利としていえば、使用者の労務給付請求権であり、労働者の賃金請求権ということになります。

 菅野和夫著の労働法では、労働義務としては、労働の誠実な遂行義務までも含んでおり、「労働契約の合意内容の枠内で、労働の内容・遂行方法・場所などに関する使用者の指揮に従った労働を誠実に遂行する義務が労働義務である」とされているところです。

 それを前提に、労働者の権利義務として、労働者が使用者に対して就労させることを請求する権利(=就労請求権)があるかないかであるが、一般的には、上で申しあげた労働契約法の労働契約の定義の「労働者が使用者に使用されて労働し」の文理解釈から明らかなように、労働する義務はあっても、労働する権利はないというのが通説判例の考え方です。*

 これも例外があって、「鮨屋の見習いや俳優」のように労働を提供することが自己の技術・技能を取得することにつながっていく場合は、就労請求権を認めることができるとされています。

 では、専門能力者の場合はどうでしょうか。専門能力者の場合は、専門能力を発揮しながら、能力の維持さらには向上につながることにもなるでしょう。そうであれば、就労請求権が認められる場合があるやもしれませんので、一概に就労請求権がないともいえません。

 そこで、専門能力者が同業他社に引き抜かれることが決まっている場合に、その会社の営業秘密を守る観点から、その専門能力者にいつまで就労させるかの判断に狭まれ、その専門能力者が就労請求権を主張したときに、労務提供の受領を拒否して施設内立ち入りを禁止できるかという問題に発展していきます。

 したがって、今では何が起こるか分かりませんので、こういうことに備えて、その専門能力者には、労働契約時に就労請求権はないことを明らかにしておけばその心配を防ぐことができます。


 参考;「非正規社員の法律実務」 石嵜信憲編者 中央経済社


*ただし、有力説は就労することが労働者にとって生活の手段以上の重要な意義を持つことから信義則や使用者の配慮義務などを根拠に就労請求権があるものとしている。 (上記 菅野「労働法」より引用)

 なお、前回において、クイズ(パートタイマーに採用するのはどっち)を出していましたが、解答においてAとBを取り違えていました。既に訂正しましたが、誠にすみませんでした。
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パートは主婦の空いた時間と企業のローコスト・弾力的労働の活用でWIN・WINの関係!!

2015-06-21 06:37:41 | 社会保険労務士
 パートと本採用は、それぞれ相応の採用基準あり<時間外等をしないAさん・やる気をみせるBさん>

 クイズです。会社でパートタイマーを募集(午前10時から15時まで)しましたが、応募したのは、AとBの2人でした。A、Bの面接を行ったのですが、A、Bそれぞれ次のように答えたのですが、経営者であるあなたは、A,Bどちらを労務管理上雇うべきであろうかという質問です。

 A;自分には、仕事をしている夫と、2人の子供(幼稚園に通っている子供とそれ以下の幼い子供)がいますので、朝は全員で食事をし、幼い子供は託児所に預けることにして、もちろん幼稚園の子供は幼稚園に預けますので、会社には10時直前しか来れません。午後3時になったら子供を引き取りにいかなければなりませんので、残業はできません。土日祝日は、子供と一緒に過ごしたいので仕事はできません。その意味でパートに応募しましたとのこと。

 B:私は独身ですし、生活もありますので、一生懸命に働きます。もし、時間外の早出や遅出があるなら言ってください。残業もいたします。必要であれば、休日出勤もいたします。

 この場合、多くの会社はBを雇用するでしょうが、正解はAであるという。(非正規社員の法律実務 石嵜信憲編著 中央経済社 P431 より) なぜでしょうか。やる気満々のBについては、正規労働者の採用の機会があった時に、もちろんそのやる気が本物であることを確かめて採用すれば、上々でしょうが、今回の採用は、パートタイマーの採用です。

 もともとパートタイマーは、家事や育児といった家庭生活以外の空いた時間を働くことにメリットがある主婦に対して、夫が稼ぐ主たる収入の補助的収入を得るためのもので、それ相応の収入を得ればいいので、企業にとっても、ローコストのメリットがあることに起源を持つものです。また、実務的には、補助的収入として、所得税法上の課税所得以下にしたいとの希望をするパートもいます。そこで、Aの雇用にあっては、会社として、短時間であるがフルタイマーよりは低額での雇用というメリットを持つものであり、それ以上を期待するべきものはないと思われます。

 一方、Bはどうでしょうか。時間外をして欲しいことがあると、ついついBに頼むことがあると思われます。また、早出もいとわずやってくれます。休日の代替のスケジュールがうまくいかない時には、休日も出てきてもらうことになりました。ここまで来ると仕事の内容は、一般の正規の労働者と同じになってきます。仕事も十分に覚えて難なくこなすようになり、新卒の高卒の正規社員を指導するようになってきました。
 そこで、Bは、同じ仕事をして、仕事の管理・指導もして組織に組み入れてもらっているというのに、賞与もないとはと不満を覚えるようになっても不思議ではありません。これが職場のトラブルに発展していくのです。

 パートタイマー法第9条の規定には、職務の内容と人材活用の仕組・運用等が同じであれば、賃金の決定、教育訓練の実施等の待遇において、差別的取り扱いをしてはならないとされています。これに抵触する恐れが出てきます。

 さらに、有期雇用を何度か更新した後に、雇止めにした場合には、Bには更新の期待感が芽生え、客観的・合理的な理由を欠いて、社会通念上相当と認められないときは、雇止めが認められない場合(解雇権濫用法理の類推適用)があることも考えなければなりません。

 なお、Aについては、何度か更新した有期雇用を雇止めした場合、補助的・臨時的な労働力の活用であって、雇止めが容易に認めれられる可能性は大きいでしょうし、もともと副次的収入を得る目的で就業していたのですから、トラブル可能性は小さいといえます。
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雇用契約期間経過後もそのまま労働者を雇えば、同一条件で更新の推定。

2015-06-13 14:05:43 | 社会保険労務士
 ちゃんとした更新手続きをしておくことは、期間の定めのない契約と同じと捉えられないためにも重要です。

  契約期間の定めのある雇用契約を更新する場合には、、早めの更新手続きを取っておかないと、契約期間が経過したときには、そのままの労働条件で契約が更新されたものと推定されてしまいます。私の経験から言いますと、業務を担当する課にその手続きを任せていると更新期間が過ぎてしまいますので、ここは人事を担当する課が率先して、かつ、責任を持って、手続きをすべきです。(私の経験からと言いましたが、実は業務を担当していた課が私の属する課でして、そのころ多くの有期契約従業員を雇っていたが、業務を担当する課は本当のところ、業務の方が忙しくて、更新の取りまとめを任されても、人事への理解もそのころは浅くて、結局後回しになってしまいます。)

 民法629条 雇用契約の期間が終わっても労働者が引き続き働いている場合に、雇い主がこれを知りながら異議を述べない時は、契約が更新されたことになり、特別の事情がない限り、前と同じ条件でさらに雇用契約を結んだことになる(推定)。この場合、この更新された契約は、雇い主も労働者も、627条の規定(期間の定めのない雇用の解約の申し入れ)に従って解約の申し入れをすることができる。(口語民法訳、自由国民社) 

 最近では契約期間には、労使双方とも厳しくなっていますので、漫然と雇用期間を過ぎてしまうことは考えられないとは思いますが、少なくとも契約更新の際には、更新するのかしないのか、する場合にはちゃんと手続きを行い、どういう契約内容にするのかちゃんと記録に残して、しかも契約期間が経過する前に、書面でもって労働者に渡しておくべきです。契約期間が過ぎてしまっても、合意できれば、さかのぼって契約内容を変更できないこともないとは考えられますが、相手があることですので、合意できずにトラブルに発展する可能性があります。特に契約内容を変更する場合には、早めの手続きを行い契約期間が満了する前に、手続きをすませましょう。
 
 さらに、契約更新手続きを厳格に行わなければならない理由の2つ目は、契約更新の手続きが形骸化して、実質、期間の定めのない契約と変わらないものとなっている場合や労働者に雇用継続の期待への合理的理由がある場合には、雇止めが認められないこともあるからです。(労働契約法19条、解雇権濫用法理の類推適用=雇止め法理)

 また、更新された契約は、民法629条の後半の部分の、この場合「627条の規定により解約の申し入れができる」との規定を文字どうり、契約の定めのある契約から契約の定めのない契約に転化するとの説 * もありますので、そう解釈されないためにも、ちゃんとした更新手続きを行っておくべきです。
 
 * しかし、最近では、例えば、従前の契約期間が、2か月であれば、更新後も2か月であるというのが有力説である。
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「使用者の賠償責任」(民法715)の規定で、従業員が損害を加えた「第三者」とは<セクハラ等適用>

2015-06-07 16:32:34 | 社会保険労務士
会社内部の他の従業員がその従業員に行ったセクハラ・パワハラにも適用!!<民法の「使用者責任」について>

民法第715条(使用者責任)
1.人を使って事業をするもの(使用者)は、雇われている者(被用者)が仕事をするうえで、他人(第三者)に加えた損害を賠償しなくてはならない。
  ただし、被用者の選任や仕事ぶりについて十分監督したにもかかわらず、なお損害が発生したということを使用者が証明すれば、賠償の責任は負わない。
2.支配人や工場長のように、使用者に代わって事業を監督する者も、前項の規定と同じ責任を負う。
3.前2項によって使用者や監督者が損害を賠償したときは、損害を生じさせた被用者に弁償を要求できる。

 タクシー会社の自動車運転手の過失でけがをした被害者は、運転者自身に損害賠償できる(不法行為による本人への損害賠償・民法709条)だけでなく、その使用者である会社を相手にして損害賠償を要求することもできる。被害者にすれば、資力のある会社のほうへ要求するほうが有利だからである。実際には、その両方に要求するのが通常であり、つまり運転手とタクシー会社は連帯責任を負うことになる。(以上、最初の民法715条の「口語訳」を含め、口語民法 自由国民社から引用)

 ここで、1項のただし書きで、使用者が、被用者の選任や仕事ぶりについて十分監督すれば、責任をまぬがれることにはなっているが、裁判では、厳密に解釈され、またそれを証拠立てるのも、使用者になっていますので、無過失責任に近い形になっていることについては、前に書いたところです。
⇒<別途記事;「使用者の責任」については、蕎麦屋の店員が出前先でけんかになりケガをさせた例を引いて、既にお話ししている。> 

 また、3項では、使用者が被害者にその損害を賠償したときは、加害者である被用者に弁償を要求できることになっていますが、使用者も被用者を雇って業務を行っている以上、その全額は請求できず、一定の範囲の制限があると考えるのが一般的です。

 ところで、使用者が賠償しなければならない「第3者」とは、当事者(=使用者及び被用者)以外の第3者ですので、全くの第三者(部外者・社外者)であることもありますが、その会社内で働く「他の被用者」であることも考えられます。他の被用者が当該被用者に対して加えた損害(被用者同士の損害)にも、使用者は損害を賠償しなければならないことにもなります。

 例えば、職場で発生した不法行為に該当するセクハラやパワハラがあった場合、その被害者が精神障害を発症したり、自殺したときには、加害者である他の被用者が行った不法行為に対して、使用者がこの使用者責任を負うことになるかもしれません。セクハラは、男女雇用均等法で、定義されて、事業主の取るべき必要な措置が規定されていますが、こういった規定まではないパワハラや最近よくいわれているマタハラであっても、この使用者の責任を規定した民法715条によって、その責任が問われかねません。

 特に、セクハラの対象となりやすいのは、非正規の社員であると言われています。セクハラを受けたとしても、正規社員よりも労働契約の解消が容易であるとみられているため、非正規の社員は、相談窓口を設けていても苦情を言い出しにくい立場にあることは事実です。使用者としては、日頃から正規社員を含めた意識改革・教育を進めていく必要があります。



 参考 非正規社員の法律実務 中央経済社 石嵜信憲弁護士編
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